ep.05―5
傷跡は映像を逆再生するかのように、見る見る消えてゆく。
「……」
ルミナはそれを茫然と見つめた。
「……君は凄いな」
ジークは自分の腕を興味深そうに色んな角度から見ている。
(……嘘よ)
ルミナは掌を見つめた。
(精霊のいない地では魔法が使えないって書いてあったわ。だから、百年前の戦争時にこの地で何人も人が亡くなったって――)
アルカディアの民はどこでも魔法が使えると思っていた為、この地に奇襲をかけたことがある。
だが、誰も使えず、皆、亡くなったと文献に書いてあったのだ。
事実、ウィンは『死の気配がする』と言って近づけなかった。
それが理由で精霊がいないのだとルミナは思っていた。
それなのに、何故、自分は使えるのか――
「……ミナ、ルミナ」
ジークの声にはっと我に返ると、彼のほんのり青い瞳が目の前にあった。
「ジーク」
「どうした?」
ジークがルミナの額の汗を拭った。
ルミナは自分が冷や汗を掻いていることにやっと気が付いた。
ドクドクと胸の動悸がやけに大きく、胸が苦しかった。ルミナは胸元に手をあてる。
「あ、あのね……」
自分の混沌とした心情を吐きだしたかった。
(誰かに聞いてほしい。そうじゃないと、おかしくなりそう)
そう切に思っているのに、ジークは偽りの婚約者であって味方ではない。
(ジークはちゃんと話を聞いてくれる人だわ。でも……)
自分の身に起こっていることを話して良い相手なのか分からない。
「無理して話さなくて良い。朝食に行こう。暖かいスープでも飲めば少し落ち着く」
ジークはそっとルミナの肩を押し、彼女を促した。
「うん……」
揺れる瞳でジークをルミナは見上げた。
ジークはルミナに微笑んで「さ、行こう」と優しい声色で言い、先頭を切った。
部屋を出る前に振り返ると、ルミナはブラウスの端をぎゅっと掴んで俯一歩も進んでいなかった。
ジークは横目で少し思案し、ルミナの目の前まで戻り、足を留める。
「……」
ジークの靴先が視界の端に入り、ルミナは顔を上げた。
「話くらいなら聞いてやれる。誰にも言うなと言うなら口外しない。ルミナは今、どうしたい?」
(私は……)
「分からないの。でも……ゼニウスは、この地でも魔法が使えるから私を捕まえたいの?」
”他の地でも魔法が使える”
他者より秀でているところなど思い付かない。
「その可能性はあると思う」
「私、どうして使えるかなんて――」
「知らずとも、使えるのが事実だ」
ジークの一言にルミナは項垂れた。
「……アルカディアの光の魔法についての文献を送ってほしいと、君の父に頼んだ」
バッとルミナは食い入るようにジークを見る。




