ep.05―3
ジークに至っては、何気なしに払っただけある。しかし、彼が女性の髪に触れたのは初めてあった。
「なら、君の能力はここでは発揮出来ないのか?」
「そうよ」
ほんのり赤い頬でルミナは上目遣いでジークを見る。
「そうか……。だが、確かめてみよう」
そういうや否や、ジークは帯剣をスラリと抜いた。
細い刀身は銀色に輝き、その刃に怯えるルミナの顔を映していた。
(な、何を――)
何のためらいもなく、ジークはそれを自分の腕へと滑らせる。
切れた個所から血が滲み、一筋の赤い線が出来上がった。
「ちょ、ちょっと! 何してるの?!」
ルミナはジークの腕を掴み、傷を確認する。
切れているのは表面だけであり、傷は浅い。
「信じられないわ! 自分で自分を傷つけて! 貴方の体は、貴方の両親から貰った大事なモノなんじゃないの?!」
キッとルミナはジークを睨むが、ジークはきょとんとしている。
(こんな傷くらいで……)
ジークは傷へと視線を落とす。
ヴァルハラはアルカディア、ゼニウスとは不侵条約を結んでいるが、遠く海を隔てた他の国への侵略は止めていなかった。
一つの小さい国を領地にした戦いはたった数年前のことである。
今は、その国が奪われぬよう、その国の武力を底上げをしている最中である。
よって今は傷などないが、数年前まで生傷など絶えなかったのである。




