ep.04―2
今、自分を抱きしめているのはジークなのだが、いけないことをしているのは自分みたいだと、ルミナは急に恥ずかしくなり、指をひっこめた。
ジークに触れていた指先が熱を持ち、ルミナの心を乱すのであった。
◇
シオンはジークの護衛であるが、ユーリのように内情に詳しくない。
故に、目の前の少女を何故ユーリが、婚約者(仮)と呼ぶのか正確な理由を知らない。
しかし”婚約者としきたアルカディアの姫”という話が真実ではないということだけは分かるのであった。
「ルミナ様、足元にお気を付けください」
そのルミナにシオンは手を差し出し、彼女が船に乗るのが危なくないよう導く。
「ありがとうございます」
ルミナは、はにかんでシオンの手を取った。
シオンよりしなやかな手であった。
(剣など握ったことすらないのだろう)
そもそもアルカディアに剣などないのだが、シオンはそのことを知らない。
温室育ちのお姫様なのだろうとシオンは思っている。
そのお姫様の我儘なのだろうか、急に海に行くことになった。
ジークは快く許可を出したらしいが、些か不服であった。
何故、主はこの娘の要望を聞いたのか。
シオンは悶々とした気持ちのまま、ルミナを乗せた船を漕ぎだした。
「今日はありがとうございます」
ルミナが屈託ない笑みを向けてくる。
「いえ……」
シオンは手を止めず、チラリとルミナを見ただけであった。
いかにも平和な国の姫といった雰囲気だとシオンは思った。
何が楽しいのか、今日はずっとルミナは微笑みを携えている。
もうヴァルハラに慣れたのか、よぼどジークと打ち解けたのか……。
シオンは心の奥底がもぞもぞする気がして不快であった。
「この辺で大丈夫です」
気が付けば、力のいっぱい漕いでいたせいでもう領海の境目まで来ていた。
揺れる水面にルミナはそっと手を近づけ、チャポンと海の中にその手を入れた。
ゆっくりと丸く円を描くように水をかき混ぜている。
(何を?)
シオンはじっとそれを見つめた。
ふと、ルミナが何やら呟き、顔の微笑みを濃くする。
だが、次の瞬間「えっ?」というルミナの呟きと共に、水面に波紋が出来き、その波紋が遠のいてゆく。
それを追うようにルミナが顔を上げると、ずっと向こうにアルカディアが見えた。
緑の生い茂る島を見つめるルミナの横顔をシオンは見た。
(帰りたいとでも言い出すだろうか……)
切ない顔で島を見つめるルミナに、シオンはそう思った。
そうなっては面倒だなと、ため息が漏れそうになるのを、彼女はぐっと堪える。
表面上、主の命令であるからにはちゃんと接しなくてはならない。
それがどこの誰であろうとも。
「シオンさん」
シオンの思いとは裏腹にルミナは笑みを浮かべていた。




