ep.03 金色の瞳
ルミナが出て行った部屋の中で、ジークはふと昔に見た夢を思い出した。
赤々と燃える荒野に佇む金色の瞳をした女が、振り返り、幼いジークの手を伸ばす。
『お前に味方してやろう』
美しい口元を綻ばせながら彼女はそう言った。
女は頭にヘルムを被り、背中には羽が生えていた。
美しいが、どこか畏怖を感じさせる彼女の姿を、次に見たのは先祖が描いた手記であった。
”夢で見た勝利の女神”として描かれていたのだ。
(どうやら何かの加護があるらしい)
最初は驚いたジークであったが、他の国は何かの加護を受けているのに、自国にはなんの加護もないのか疑問であった彼は、そう受け止め、兄より武術に長けているのはそのせいかと納得した。
その兄と、父はアルカディアから手紙を受け取った際、どうすべきか悩んでいた。
アルカディアと言えば、城壁に焼き痕を付けた国である。ジークの側近、ユーリはそれを「屈辱の傷跡」と呼んでいた。
手紙には、その傷を付けた王女の孫娘を庇護して欲しいと記されていた。
(どんな孫娘なのか)
ジークは興味が沸いた。こちらで庇護するのであれば、その姿を目にすることもあるだろう。そう思い『アルカディアに恩を売って損もないでしょう』と、笑顔で父王に告げたのだった。
それが……。
(まさか、俺の婚約者という肩書で来るだなんて思ってもみなかった)
堂々とくるとのことであったが、ジークの予想を超えたかたちでアルカディアで姫を庇護するはめになってしまった。
小柄でまだ幼さの残っているルミナを初めて見た時、残念なような安堵したような気持ちになった。
だが、次の瞬間、儚げにも見えた少女は、強い意志を持って口を結び、自分を見つめ返してきた。
力強い光を宿す彼女と同じ金色の瞳で――
◇
王との謁見も済み、食事も終えたルミナは汗を流すために、浴室に案内された。
ルミナを案内してくれたのは、あの高く髪を結い上げている女性であった。
ジークは彼女―シオン―もしくはユーリに、用がある際声をかけるようルミナに言った。
ユーリは男性であり、言葉の端々に棘があるような気がして声がかけづらい。
しかし、シオンもジーク同様、表情の読みにくい女性だと思う。
(ヴァルハラの人って、みんなこんな感じなのかな?)
ジークの父も、彼によく似て感情の出ぬ人であった。
同じ王族でありながら朗らかな父に比べて、威厳のある強面の人物。
(ヴァルハラはどの人も苦手だわ……)
アルカディアの民は表情豊かで、口で物を言うより先に顔に感情が出る。
まだ半日も経っていないが、ルミナは母国が恋しくて堪らなかった。




