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『ラストシーンは神アングルで。』〜死んだら契約終了、遺品はスタッフが美味しく回収します〜  作者: うちの猫
小鳥遊 澪編

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シーン36『外からは見えない、防壁の裏の約束』

 冬の白い朝光が差し込むリビングで、薫はベッドの上に寝そべる小さな背中を見つめていた。


「ねえ、澪ちゃん。アパートはいつから探しに行くの?」


 薫が尋ねると、大きめのシルクのパジャマに身を包んだ澪が、枕に顔を埋めたままクリクリとした目を泳がせた。その様子を見て、薫は少しため息をつきながらも、その唇の端を優しく綻ばせる。


「どうせ、住む場所が見つかるまでしばらくはここに居座るつもりでしょう?」


「あはは、バレた?」


 澪は枕から顔を上げると、てへっと小さく舌を出して無邪気に笑った。


「だったら、生活に必要なものを買いに行きましょう。二人分、足りないものがいっぱいあるわ」


 二人は私服に着替えると、冬の穏やかな街へと出かけた。


 生活雑貨の並ぶ店で、澪が楽しそうにはしゃぐ声を背中に受けながら、二人分の食器や日用品をカゴに放り込んでいく。


 お昼時になり、オシャレな都会のカフェに入った。運ばれてきたパスタを美味しそうに口に運ぶ澪を見つめながら、薫はスープのカップを傾ける。


「ねえ、澪ちゃん。都内に来て、何かしたいことってあるの?」


「ある! すっごくある!」


 澪はパッと顔を輝かせると、フォークを持ったまま身を乗り出してきた。


「私ね、都会に来たら、絶対に薫お姉ちゃんと一緒に最新のプリクラを撮るって決めてたの! 田舎にはあんなオシャレな機械ないし、ずっと憧れてたんだから!」


「プリクラ? ……何よそれ、目が不自然に大きくなるやつでしょう? 私は別に――」


「ダメ! 絶対に撮るの!」


 食後、澪に強引に腕を引っ張られるようにして、賑やかなゲームセンターの奥にあるプリントシール機へと連れ込まれた。薫は「何よこれ、ライティングの光軸が強すぎるわね……」と内心でカメラマンとしての職業病を漏らしていたが、澪は容赦なくカウントダウンに合わせてポーズを変えていく。


「お姉ちゃん、次はピース! その次はウサギさんのポーズ! ほら、最後はこれ!」


 何度もポーズを変えてシャッターが切られるなか、最後の瞬間に、澪は薫の白い頬に、自らの柔らかい頬をピタッと隙間なくくっつけて満面の笑顔を浮かべた。


 薫は照れくささに顔を真っ赤に染めながらも、本当の姉妹のような優しい微笑みをレンズへと向けた。

 ピカッと激しいフラッシュが焚かれ、機械から滑り出てきた色鮮やかなシールを、澪は「宝物にする!」と嬉しそうに胸に抱きしめた。


 ゲームセンターを出て、賑やかな大通りを歩く。

 人混みのなか、澪の小さな、温かい手が、自然と薫の細い指先を握りしめてきた。そのまま指を絡めるようにして、ぎゅっと手を繋ぐ。


 澪は本当に幸せそうな、眩しい笑顔を薫へと向け、楽しそうに歩調を合わせた。薫はその手の温もりに胸の奥を小さく疼かせながらも、繋いだ手を引き離すことはしなかった。


「あ、そうだ。澪ちゃん」


 薫は足を止め、通りのウインドウに飾られた衣服を見つめた。


「東京に出てきたお祝いで、何か欲しいもの、ある? お姉ちゃんがプレゼントしてあげる」


「えっ、本当!? じゃあね……あれが欲しい!」


 澪がクリクリとした目を輝かせて指差したのは、アパレルショップの店頭に並んでいた、見るからに暖かそうな、もこもこのルームウェアだった。


「これ、お姉ちゃんとお揃いで着たい!」


「……本当に、甘えん坊なんだから」


 薫は苦笑しながらも、色違いのモコモコとしたルームウェアを二着、自らの財布から迷わず購入した。


 時計の針が十五時を回る頃、二人はSNSで話題になっていたオシャレなスイーツショップの行列に並んでいた。運ばれてきた、色鮮やかなフルーツと生クリームがたっぷりと載ったパフェを前にして、澪はクリクリとした目をこれ以上ないほど輝かせる。


「うわぁ……! これ、テレビで見たやつだ! お姉ちゃん、都会って本当にすごいね!」


「ふふ、そんなに慌てて食べたら口の周りにクリームがつくわよ? ほら、美味しい?」


「うん、すっごく美味しい!」


 スプーンを口に運びながら、幸せそうにはにかむ澪の笑顔。その無垢な姿を前に、薫は一人の優しいお姉ちゃんとして、ただ穏やかな時間を一緒に共有していた。


 夕方になり、両手に買い物袋を抱えてマンションの部屋へと戻ってきた。


 新しく買ってきた二人分の食器をキッチンへ並べ、部屋着に着替える。無機質で冷え切っていた薫の部屋が、色違いのもこもことしたルームウェアと、澪の存在によって、見る見るうちに生活の温もりで満たされていく。


 リビングの絨毯の上。澪は新しく買い揃えたばかりの頑丈な盾を床に置くと、大切に抱えていた、あの頬をくっつけて撮ったプリクラのシールを剥がした。


 そして、外からは決して見えない、盾の「内側」の鉄板の真ん中へと、丁寧に、愛おしそうにピタッと貼り付けた。


「よし! これでダンジョンの中でも、いつでもこれを見て元気を出すんだ!」


 盾を抱え直して、誇らしげに笑う澪。


 薫は、新しく並べられた二つの食器を片付け、もこもこのルームウェアの袖を少し捲り上げながら、リビングへと戻ってきた。


 夜の帳が下り、窓の外には巨大なダンジョンの輪郭が佇んでいる。


 薫はベッドの端に座る澪の前へと歩み寄り、腰を落として、あずき色の唇を柔らかく綻ばせた。それは、いつもの営業用の張り付けた笑顔ではない。あの子の命を何よりも守ると決めた、先輩としての、真剣で優しい微笑みだった。


「澪ちゃん。明日から、ダンジョン探索の本格的な訓練を始めるわ。……だから、ちゃんと覚悟しなさいね?」


「えっ……? うん、薫お姉ちゃん! 私、がんばる!」


 澪は力強く頷くと、ベッドの脇に置かれた盾へ目を向けた。


 その内側では、二人で頬を寄せた小さなプリクラが、誰にも見えない場所で静かに笑っていた。



「澪ちゃんといると、汚れきった私の心が綺麗になるのがする…。こんなに汚れた心が綺麗になんかなるわけないのにね…。」

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