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『ラストシーンは神アングルで。』〜死んだら契約終了、遺品はスタッフが美味しく回収します〜  作者: うちの猫
宇佐美 紬編

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シーン23:『罠だらけの狂熱、宙に舞うウサギ』

 第一層でのオークの群れとの激闘を終え、魔石の回収を済ませた二人は、さらに深淵へと続く冷たい石造りの下り階段を並んで降りていた。


 やがて階段の先に、第二層へと続く薄暗い石造りの回廊が姿を現す。


 その入口で、薫は肩掛けケースから重々しい業務用ビデオカメラを取り出し、慣れた手つきで両腕に構えた。


「それじゃあ紬ちゃん、第二層の配信、始めよっか」


「うん! 今度は罠だらけなんだよね? よーし、頑張る!」


 薫が手元のスイッチを押す。


 赤い録画ランプが灯ると同時に、頭のウサギの髪留めに仕込まれた隠しカメラも同期され、再び二人の姿が世界中の画面へと映し出された。


「みんな、お待たせー! 第一層ではたくさんの応援と赤スパありがとう! ここからは第二層。私たち、これから悪名高いトラップエリアに突入します!」


「やっほー、みんな! 次の階層もガンガン進んじゃうから、応援よろしくねー!」


 階段を下りきった先、ダンジョン第二層。


 そこは、足元の踏み石一つ、壁の隙間一つにまで殺傷能力の高い罠が仕掛けられた、探索者たちから恐れられる悪名高き階層だった。


 階段を下りきった先、ダンジョン第二層。


 そこは、足元の踏み石一つ、壁の隙間一つにまで殺傷能力の高い罠が仕掛けられた、探索者たちから恐れられる悪名高き階層だった。薄暗い回廊に不気味な静寂が漂うなか、紬は前髪のウサギの髪留めを揺らしながら、元気に一歩を踏み出した。


 ――だが、その直後だった。カチリ、と足元で何かが沈む不気味な音が響く。


「わわっ!? なにこれ、足元が沈んだ――ひゃああっ!?」


 紬が声を上げた瞬間、正面の石壁の隙間から、凶悪な鉄の矢が鋭い風切り音を立てて無数に放たれた。ファインダー越しにそれを見た薫の心臓が、恐怖で跳ね上がる。


「紬ちゃん、危ないっ!!」


 薫の悲鳴のような叫び声が回廊に響くなか、紬の斥候職としての高い直感とスピードが爆発した。


「うわわっ! 矢が飛んできたぁ!」


 紬はドタバタと声を上げながらも、腰から引き抜いたククリナイフの二刀流を風のような速度で閃かせた。


 カン、カン、カン、カン! と、激しい火花と凄まじい残像を伴って、飛来する鉄の矢をすべて正確に、鮮やかにはたき落としてみせる。


『うおおおおお!?』

『矢をナイフではたき落としたんだけど!?』

『カメラマンちゃんがガチで心配して叫んでてビビった』

『独り言めちゃくちゃ焦ってるのに動きガチすぎて脳がバグるw』

『格好よすぎるだろ!!』


 コメント欄が驚愕の嵐で埋まるなか、薫の耳の奥の超小型インカムから、地上のコントロールルームでモニターを眺めている栂野の下卑た笑い声が響いてくる。


『ギャハハ! 素晴らしいぜ薫ちゃん! 「紬ちゃん危ない!」だってよ! 迫真の演技じゃねえか、おかげでリスナーどもの同情と興奮が最高潮だ! その調子でどんどんハラハラさせて、投げ銭の山を築かせろ!』


 本気で心臓をすくみ上がらせていた薫は、栂野のその冷酷な言葉を完全に無視し、ただ必死に大きな業務用カメラを構え直した。だが、罠はそれだけで終わらない。


 ゴゴゴゴ、と地響きが鳴り響き、今度は紬の真上の天井から、巨大な岩石が轟音を立てて落下してきた。


「うわああっ! 今度は上から岩!? ちょっとこれ、嫌がらせがすぎるよー!」


「紬ちゃん、上!! 避けて!!」


 薫が必死に声を張り上げる。紬は頭上を見上げて叫びながらも、持ち前の俊敏なステップで地を滑るように後ろへと跳んだ。衣服をかすめるほどの超至近距離を、巨大な岩石が通り過ぎて地面を激しく砕く。


「はぁ、はぁ……っ。紬ちゃん、大丈夫!? 怪我はない!?」


「う、うん! 大丈夫だよ薫ちゃん、セーフセーフ!」


 薫は大きな業務用ビデオカメラを片手でコントロールし、紬を心配して視線を向けながらも、その鋭い身こなしや、焦りながらもお喋りを止めないチャーミングな表情を、ミリ単位の狂いもない最高の神アングルで世界に向けて映し出し続けた。


薫自身もまた、カメラを構えたまま無駄のないステップで、足元から飛び出す細かな矢の罠を平然と避け続けている。


『おいカメラワークどうなってんだよw』

『カメラマンちゃん、心配しながらも撮影アングル神なのプロすぎる』

『この二人ガチで化け物コンビだろ』


 観客たちの脳が狂熱で焼き切られていくなか、回廊の奥から、罠の隙間を狙って潜んでいた獰猛なシャドウ・ラットの群れが突進してきた。


「よし、魔物だね! 捕まえちゃうよ――って、ひゃああっ!?」


 ククリナイフを構えて紬が突撃した瞬間、今度は巧妙に隠されていた『落とし穴』の罠が作動した。足元の石床がガラガラと崩れ落ち、紬の身体が暗黒の深穴へと吸い込まれていく。


「紬ちゃんっ!!! 嘘でしょっ!?」


 薫の絶叫と同時に、リスナーたちの悲鳴のようなコメントが画面を埋め尽くすが、薫の業務用カメラのレンズは、必死にあの子の姿を追い続けていた。

 奈落の底へと落ちていく最中、紬は極限の反射神経で穴の垂直な壁面へと両足を着けると、そこを爆発的な脚力で強く蹴りつけた。


 鮮やかな『壁飛び』――。


 重力に逆らうようにして、紬の身体は暗黒の穴から弾丸のように宙へと舞い戻った。


「あぶなーい! セーフセーフ!! びっくりしたんだからね!」


叫びながら空中へと飛び出した紬は、そのままの勢いで、呆然としていたシャドウ・ラットの首を一閃の下に切り裂き、綺麗に着地してみせた。


『うおおおおおおお!!!』

『壁蹴りジャンプきたあああ!』

『カメラマンちゃんのガチトーンの絶叫、本当に仲良いんだな』

『神カメラ、神回避、神演出!!』

『【赤スパ 30,000円】ヒロイン力高すぎる!!』


 画面が真っ赤に染まるほどの怒涛の高額投げ銭と絶賛の嵐。薫の頭のウサギの隠しカメラも、あの子が宙を舞った瞬間の一番美しいアングルをパーフェクトにバックアップしていた。


 残った魔物を鮮やかに片付け、紬は額の汗を拭いながら、カメラに向かって元気いっぱいに笑いかけた。


「みんな、今日もたくさん応援してくれて本当にありがとう! また見てねー、バイバーイ!」


 二人が最高の笑顔で手を振るなか、薫は手元のスイッチを操作し、配信の電波を自然に、滑らかに終了させた。画面が暗転すると同時に、怒涛の高額投げがクローバー撮影事務所の管理口座へと吸い込まれていく。


「……はぁ、はぁ……っ。本当に、本当に無事で良かった……っ」


 配信が切れた静かなトラップエリアの中。薫は業務用ビデオカメラを肩掛けケースへと仕舞いながら、本気で安堵の息を漏らし、紬の元へと駆け寄った。


「えへへ、心配かけてごめんね、薫ちゃん! でも、薫ちゃんのカメラと声が、私の動きを全部信じて守ってくれるって分かってるから……だから私、何があっても迷わずに飛べるんだよ!」


「紬ちゃん……」


 紬は満面の笑みを浮かべ、薫の手をぎゅっと嬉しそうに握りしめた。昨日、自分の部屋で一緒に朝食を食べ、同じベッドで眠った、あの本当の友達としての温もりが手の平から直に伝わってくる。


あの子が自分を信じて笑えば笑うほど。お揃いの友情の記憶が愛おしく積み重なれば重なるほど――。


 いつかは中層の深淵であの子をロストさせなければならないというチェス盤のルールが、薫の胸の奥深くを、言いようのない重いノイズとなって激しく突き上げ、疼き始めているのを、薫は確かに自覚していた。


「よし、魔石はこれで全部だね! 薫ちゃん、次の階層へ行こ!」


「ええ、そうね。足元に気をつけて進みましょう」


 すべての魔石を拾い終え、二人は並んで、さらに深淵へと続く冷たい石造りの下り階段へと足をかけた。


 トントン、と楽しげに響く紬の足音。その先には、第5階層のボスが静かに牙を剥いて待っている。


薫は笑顔の仮面の裏で、胸の痛みを押し殺しながら、あの子の背中を追って暗い階段の下へと一歩、足を進めていった。

【あとがき】

「配信(シーン23)を見てくれてありがとう! カメラマンの千歳薫よ。


 第二層は、足元も壁も天井も罠だらけ。

 鉄の矢が飛んできたと思ったら、今度は頭上から巨大な岩。挙げ句の果てには足元が丸ごと崩れて、紬ちゃんったら奈落の底へ真っ逆さま。


 それでも壁を蹴って宙へ舞い戻って、そのままシャドウ・ラットまで斬っちゃうんだから……本当に、私の『ウサギさん』は画面映えするでしょう?


 リスナーのみんなも大興奮。

 赤スパまで真っ赤に降ってきて、今日も最高の配信になったわ。


『紬ちゃんの壁飛び格好よすぎ!』

『薫の絶叫がガチすぎてこっちまで心臓止まりそうだった!』


 ……ガチ?


 ふふ。何言ってるのよ。


 あれも当然、演出に決まってるじゃない。


 紬ちゃんが矢に射抜かれそうになった時も。

 巨大な岩に潰されそうになった時も。

 あの子の身体が落とし穴の暗闇へ消えた時も。


 私が本気で怖くなったように聞こえた?


 ……そんなわけ、ないでしょう。


 あの子はまだ、ここでロストしてもらっちゃ困るの。

 もっと強くなって、もっと人気になって、もっともっと高く売れる瞬間まで、ちゃんと最高のアングルで生かしてあげなくちゃ。


 だから心配しただけ。


 それだけよ。


 …………。


 それなのにあの子ったら、配信が終わったあと私の手を握って、『薫ちゃんのカメラと声が私を守ってくれる』なんて笑うのよ。


 本当に、困ったウサギさん。


 あんなふうに笑われたら――。


 …………。


 ……何でもないわ。


 画面の前の、そう、そこのあなた!

 紬ちゃんの壁飛びに脳を焼かれたなら、ぜひ【ブックマーク】登録で私に直接届けてちょうだい。


『面白かった!』『罠だらけの第二層、ハラハラして最高だった!』


 と思ってくれたら、下にある評価の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】に染めるという名の、私への『最高額スパチャ』も忘れないでね?


 もちろん今回も、フェイク抜きの贅沢な本物の星5個でお願い。みんなからの熱いコメント(感想)も大歓迎よ!


 さあ、ウサギさんはさらに深い階層へ。

 その先には、第五層のボスも待っている。


 あの子が危険へ近づくたびに私の胸の奥で大きくなっていくこのノイズが、いったいどこまで私の邪魔をするのか――。


 ……ふふ。


 もちろん、最後まで完璧に撮ってあげるわ。


 次の配信(シーン24)も、楽しみにしててね♡」


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