夢の色は秋の色2
リカはアヤにいれてもらった温かいお茶を飲みながら考える。
……栄次さんは今日、朝から私の修行に付き合ってくれた。神力の使い方を栄次さんにも教えた。
……それからこばると君と遊んで、ご飯食べて……。何か異常はなかったよね。
「リカ、栄次は傘を持っていったわよね?」
「あ、うん。番傘を持って出ていったよ」
「じゃあ、傘がなくて……って言うのは考えにくいわね」
「うん、そうだよね」
リカはこばるとの頭を乱暴に拭いているプラズマを眺めながら心配そうにお茶を飲んだ。
「私、駄菓子屋さんまで行って来ようかな」
リカがそう言い、アヤは止めた。
「雨が降っているし、栄次が駄菓子屋さんにいない可能性もある。何かに巻き込まれていたらあなたが危ないわ」
「……うん。そうなんだけどさ。あ、お茶、ごちそうさま。体が温まったよ。ありがとう! アヤ」
リカは立ち上がり、食器を台所へ持っていった。
「体を冷やさないようにね」
アヤはそのまま見送った。これからリカが栄次を探しに行こうとしていることに気付いていたが、アヤは何も言わなかった。
リカは食器を片付けた後、自室に戻り、赤いパーカーを着てみどりのショートパンツを履く。寝巻きは畳んで端に置いた。静かに二階の階段をおり、玄関の傘立てから傘を抜き取り、音を立てないように外に出た。
雨はかなり降っていて、寒い。
リカはとりあえず駄菓子屋さんまで歩くことにした。
「駄菓子屋さんでおばあちゃんと話しててほしい」
リカがそう思いながら濡れた道を歩いているとあきらかに異常な少年が目の前を走って行った。見覚えのある高校の制服を着ていて傘も差さずに必死の顔に涙を浮かべ、走り去る。
……傘を忘れたわけじゃなさそう。
リカはなんとなく彼が走り去った方へと向かった。救急車のサイレンが響く。
「なんだ……」
リカは団地の中にある公園に向かった。六階建ての団地が公園を囲むように建っている場所だ。
救急隊員がせわしなく動いている。
雨が激しくなり、視界が悪い中、リカは血を流した少年が救急車に運ばれていくところを見てしまった。公園にある遊歩道はコンクリートでそこに血だまりができている。
「……っ。なにが……」
「ショウゴ! どうして……」
先ほど走り去った少年が泣きながら血塗れの少年に手を伸ばしていた。救急隊員が彼を落ち着かせている。
骨が折れて出血している、命にかかわることではない、植木に頭と体が当たり、衝撃を和らげたなどの会話をしているのが聞こえた。
「……まさか、自殺未遂……」
リカは震えながらその様子を見ていた。
「……リカ」
「いやぁっ!」
後ろから声をかけられ、驚いたリカは腰を抜かし尻餅をついた。服は泥々になってしまった。
「え、栄次……さん」
リカの後ろに立っていたのはサムライ姿の青年、栄次だった。
リカは気がつくと静かな公園に尻餅をついており、救急車も血塗れの少年も泣き叫ぶ少年もコンクリートの血だまりもなくなっていた。初めからなかったかのようだった。
「……それは過去だ。リカ」
栄次はリカを起こしてやった。
「え、え……過去?」
「ああ……遅くなってすまない。探しに来てくれたのだろう? ここでは少し前に若者が六階から転落した事故があったのだ。
少年少女三人はなぜか魂世界、弐の世界にとらわれているらしい。弐の世界で何をしているのかはわからん。
あそこは不確実で過去がわからんが、音括神セイが関係しているらしいことがわかり、調べていた。こばるとの風呂がまだだったな……」
「いえ、わ、私が入れましたから大丈夫……です」
リカは栄次の険しい顔を見て少しだけ萎縮した。
「ああ、すまない。睨んでいるわけではないのだ。こばるとの件はすまない、ありがとう。泥だらけにしてしまったな……。俺の声かけに驚いて転んだのだろう? 風呂に入っただろうに、濡れてしまって……」
「……私が勝手に探しに来たんです。きっとプラズマさんとアヤに怒られますね」
リカは軽く笑うと栄次の手を取って立ち上がった。
「女性をあまり雨ざらしにはしたくないな。帰ろうか」
「じょ、女性ってっ!」
リカは顔を少しだけ赤くした。
「んん? ああ、女性……だろう? リカは……」
「そ、そうですけど、そんな女性扱いされたことなくて……」
「そ、そうか……。もう一度、風呂に入る手間をとらせて悪かった。寒くはないか」
栄次も自身の発言にやや頬を赤く染めると歩きだした。
「栄次さん……栄次さんは何を見ていたんだろう……ここで一時間も」
リカはひとり呟くと栄次の後をついて歩いた。




