夢の色は秋の色3
栄次はリカに歩幅を合わせ、ゆっくりと歩いてくれた。栄次はいつも思いやりがある神だ。だからこそ、過去を映し続けることが苦痛になる。良い記憶も悪い記憶も見えるためだ。
「しかし……」
栄次が悩みながらリカを見る。
「はい」
「リカに過去が見えたのはなぜだ……」
「それはわかりません。ですが、栄次さんの苦しみを最近、よく感じます。あんなのを突然見たら狂ってしまいますよ」
リカは栄次の着物のそでをそっと撫でた。
「ああ……だが、お前が背負うこともない」
「私は栄次さんを理解し、栄次さんを守ります。未来を見続けているプラズマさんも本当なら狂ってますよ。アヤは本当によくふたりのことを理解していると思います。
アヤはふたりをそっとしておいたり話しかけるタイミングをみています。今回はプラズマさんが黙ったまま外を眺めていたので、アヤがこばるとくんをお風呂に入れようって言ってきたんです」
「……そうか。プラズマは力が強いからな。頬につけた赤い印で未来見の力を弱めていると聞く」
栄次は先程の映像を引きずっているリカの横に並んでゆっくりと歩き出した。
「栄次さん、あの子達、どうなったんですか? 今は元気なんですか」
「……わからぬ」
栄次の返答にリカは慌てて口を閉じた。栄次は過去しか見れない。
栄次はこのようなもどかしさをずっと抱えて生きている。
「ごめんなさい……」
「あやまらずともよい。気になるだろうな。少し前の事件だ」
「栄次さん、この事件、この辺の団地や周辺でニュースになりそうですけど、なんにもなかったですよね」
「ああ、何もなかった。まるでこの事件がないかのような。俺がない過去を見るわけがない……。妄想や幻想の類いではないはずなのだ」
栄次は立ち止まった。傘に当たる雨音がやたらと大きく聞こえる。
「栄次さん、もしかしてそれを調べに……」
「……そうだ」
栄次は顔を歪ませ、苦しそうにリカを見た。
……それは伍の話だよ。
リカの頭に聞き覚えのある声が響く。
「……マナ……さん」
少女の声ははっきりと頭に響いてくる。
……ついにこちらの世界にも伍の記憶が映るようになったのね。この団地はね、向こうでは廃ビルなの。
彼はそこから落ちたのよ。
今も生きてるし、元気に目覚めていい頃なんだけれどなぜか目を覚まさない。医者は頭を悩ませているわ。
リカは目を見開いたまま、マナの声を聞く。
……ついでに、彼のお友達の同級生もなぜか目を覚まさない。
あれ? リカちゃん、覚えていない? あなたのクラスメイトだったじゃない。
雨音が激しく響く。冷たい雨が傘をさしていても貫通してくる。
……私が見覚えのある制服だと感じたのは伍の世界にいた時の過去に気持ちが戻ったからだ。
リカは後退りをし始めた。無意識だ。
「ピアノコンクールで金賞とるくらいピアノが得意だったタカトくん、作曲作詞もできたショウゴくん……タカトくんをライバルにしていたノノカちゃん」
リカは傘を投げ出し、その場でうずくまった。頭を抑え、耳を塞ぐ。
「リカ……リカ!」
リカの異常に気づいた栄次はリカを何度も揺すっていた。
「仲良かったのに……タカトくんとノノカちゃんは付き合っていたのに……やめてよ……そんなこと、しないでよォォ!!」
リカの足元に大きな五芒星が現れる。リカは五芒星の陣から出る光の粒に体をとらわれ、消えた。
傘だけが静かな公園に落ちていた。
「リカ……。リカっ!」
栄次は消えてしまったリカを必死で探すがリカの痕跡を見つけることはできず、急いで家へと向かっていった。




