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「TOKIの世界譚 」意思を持つ宇宙、やおよろずの神々物語  作者: ごぼうかえる
二話

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夢の世界で1

 夢、霊魂の世界、弐(に)の世界は霊などが行き着く世界であり、生きている者達が想像した世界がネガフィルムのようになり、絡まって存在している宇宙空間だ。生きている者達が想像した心の世界に住むのは壱(現世)他で生きた霊魂達だ。


 この世界、弐を守る時神達は自分の子孫でもあるサヨの世界に住んでいた。


 白い花畑が美しく、昔ながらの大きな和風の一軒家がある。


 この世界に住む弐の世界の時神、望月更夜は霊魂を相手に居酒屋を開いていた。


 「スズ、四番に煮物、五番はお通しだ。持てるか? 少し重いか?」

 銀髪の鋭い目に眼鏡の青年、更夜は七歳前後の黒髪少女スズに恐々と作った料理を持たせる。


 「大丈夫! いってきまーす!」

 スズは明るい顔で一生懸命に働いていた。


 「トケイ、プリンとパフェとパンケーキはできたか?」

 更夜は鍋で煮込んでいる里芋の煮っころがしの味見をしつつ、横でスイーツを作る気弱そうな少年トケイに目を向けた。


 「あ、もうできるよ。プリンは追加、作るよ。喜んでくれるかな……」

 「大丈夫だ。あれはリピーターだ」

 「自信持たなきゃダメだよね」

 「ああ、そうだ」

 トケイは少しだけ頬を赤くすると電子データを入力して出したタマゴをかき混ぜる。


 霊は元々食事をしないが、電子データを使うことで疑似の食事ができる。


 「それ、ルナもたべたーい!」

 トケイの横から顔を出したのは五歳か六歳くらいの少女ルナだ。更夜の親族の少女で元々水子だった。


 「ルナちゃん、プリンならそっちの冷蔵庫に入れたよ。食べていいよ! そろそろハロウィーンの季節だから、カボチャプリンにしてみた」


 「やったあ! いただきまーす!」

 「ルナ、そろそろ夕飯だ。一個にしておけよ。こないだみたいに客の分まで全部食べやがったら尻百叩きじゃすまさねぇからな」


 「ひぃぃ! ジャガイモパンケーキ事件はしょうがないじゃん。ジャガイモだったんだもん。プリンだから一個にするってば」

 ルナは怯え、苦笑いをしつつ、プリンをひとつ食べ始めた。


 「うっまあ! ウッマウマー! ウマウマー!」

 小躍りしつつルナは更夜に抱きついた。更夜はルナに優しい顔を向け、頭を優しく撫でていた。


 「ごめんな、ちょっと待ってろ。もうすぐ今日の仕事が終わるから一緒に遊ぼうな」


 「大丈夫だよ。おじいちゃん! ルナも手伝う!」

 「……いずれな」

 更夜は苦笑いをしつつ、ルナを撫でながら里芋の煮物を皿に盛った。


 「……更夜、お客さんの中に忍はいなさそう……」

 スズがお客さんへ食事を運び、戻ってきた。


 「それはそうだろう。見つからないように入り込む。それが忍だ。俺の感覚に狂いはない。間違いなく間者がいる。ただ、目的がわからん」


 更夜とスズは生前、戦国時代の忍だった。居酒屋に忍の気配を感じとり、通常営業をしつつ、様子をみているところだ。


 「うっ……うう……」

 突然にスズが手首を触り唸り出した。


 「スズ、どうした」

 更夜はすぐにスズに駆け寄り、手首を見た。


 「更夜……手首が痛いよ……」

 スズの手首にみみず腫れができ始めた。


 「……これは……薬液だ」

 更夜はすぐに濡らした手拭いを持ってきてスズの手首に当てた。


 「更夜……」

 半泣きで更夜をみるスズを落ち着かせ、更夜はスズの手首に現れたメッセージを受け取る。

 スズの手首から「さる」という文字が浮かび上がっていた。


 「……猿飛(さるとび)か。ユイはどこに行った?」

 「ユイは……さっき、デザート運びに行ったよ」

 「まだ痛むか?」

 更夜はスズを心配し、スズの涙をハンカチで拭いてやった。


 「もう痛くない……。更夜、これなに? 痕残る?」

 「おそらく、残らない。しばらくしたら消えるはずだ。よく頑張ったな、スズ……」

 「ユイ、大丈夫かな」

 「……気配が消えてやがる。クソッ。どこにいたんだ?」

 「更夜、スズは九番卓でお冷のおかわりに対応していたよ」

 トケイも心配そうに近寄ってきて、更夜にそう言った。


 「九番……あの夫婦か。片方は女に化けてやがったか」

 更夜は舌打ちをしつつ、ユイを呼んだ。 


 「更夜兄さん、九番はあたしにこんな紙、渡してきたぜ」

 男勝りな口調で金髪の少女ユイが調理場に戻ってきた。彼女は芸術神のうちのゲームのプログラミングの閃きをその人間から引き出してやる仕事を主にしている神だ。


 わけあって更夜のところにいる。


 「ユイ、なんかされたか?」

 「いや……なにも。ただ、あんたは芸術神だろ、セイの笛がほしければこれに出ろって……」

 ユイは眉を寄せたまま更夜に紙を渡した。


 「なんだ? 料理漫画家の世界でやっている味覚大会?」

 「これの優勝商品が、セイがすごい探していた笛なんだと」

 ユイは複雑な表情で更夜を見た。


 「お前の姉ライのが反応しそうな内容だな」

 「まあ、そうだね。ライ姉は喜ぶかもな。セイの笛だって、喜ぶ。マイ姉は解放してはくれないんだろ?」


 「ああ、あいつはダメだ。本当はお前含む全員、高天原へ付き出してやるところだが、情けをかけたんだ」


 「あのさ、更夜兄さん……この大会に出てくれないか……。兄さんは舌がすごくいい。これ、勝ちだよ。セイの笛、手に入れてくれないかな」

 ユイが言いにくそうに更夜を仰ぐ。


 更夜は鋭い瞳でユイを睨み付けるとユイの胸ぐらを掴んだ。


 「何様だ、お前。俺達を笑いながら操り、リカを痛めつけたこと、忘れた訳じゃねぇよな。助けてもらえると思うなよ」


 「……そうだ。言い訳しないよ。芸術神はのめり込むんだ。自由に動かせることに夢中になった。楽しかったよ、あの時。どこか現実ではない感じを味わってたさ」

 ユイは更夜に震えながらそう口にした。


 「あたしさ……やっぱり姉貴、助けたいよ。あたしは全然わからないんだけどさ、芸術神にとってそれぞれの霊的道具はとても大事なんだ。あたしは、ゲームのコントローラー」


 ユイはゲームのコントローラーを出現させ浮かせた。更夜はユイを壁に叩きつけ、腹に膝打ちをした。


 「あぐっ……」

 ユイは呻き、膝をついて痛みに咳き込んだ。さらに更夜はユイの腹をさらに蹴り飛ばす。


 「ううっ!」

 「ちょ、ちょっと更夜っ!」

 トケイとスズが慌て、ルナは驚いてプリンのスプーンを落とした。

 更夜はユイの髪を乱暴に掴み、ユイを殴り付ける。


 「ひ、ひどいっ! 待って更夜!」

 トケイがユイの間に入ってユイをかばった。


 「こいつ……」

 「いたいよぅ……お姉ちゃん……いたいよぅ……」

 ユイは子供のように泣き始めた。


 「なんでこんなひどいこと、するんだよ! 更夜! 女の子なのに……だ、大丈夫……?」

 「今、俺を操ろうとした。なめやがってガキが」


 「え……」

 「うえええん! いたいよぅ! いたいよぅ!」

 ユイは鼻血をたらしながら大泣きしている。コントローラーは消えた。


 「どけ、トケイ。こいつにはリカがやられたことをやってやる」

 「だ、ダメだ! 更夜、僕はどかないよ! どうしたの、更夜!」


 「こいつとは俺達を裏切るような真似をしないという約束をさせているんだ。元々罪神でそれを今、破ったんだ。相応の仕置きがいるんだよ! 俺をなめんじゃねぇ、クソガキがっ!」


 更夜はトケイをどかし、ユイに暴行を始めた。スズ、ルナは涙を浮かべて怖がり、スズがルナの手を引き、繋がっている自室へと引き込む。


 「ま、待って! もうしません! ごめんなさい! いたいよぉ!」

 「こ、更夜……」

 ユイは震えながら頭を抱えてうずくまる。


 「もうしません! もうしません! もうしませぇん! もうしませぇぇん!」

 更夜は床にユイを叩きつけ、ユイは血を流しながら更夜にあやまっていた。


 「痛めつけてやる。後、俺達に何をさせたんだっけなァ、ユイ。服をズタズタに切り裂いて股に棒突き刺して、腹を蹴ろうとしてたんだったか?」


 「うん……それはやろうとした! やってないけど! お姉ちゃんが……うぐっ!」


 「姉貴、姉貴と他者になすりつけんな! お前がやったんだ。無知だと言い張るのか? リカはあの後、酷い身体で俺達に怯えていた。アヤが巻き戻してもなかなか治らなかった。気持ちもだ! ふざけやがって!」

 更夜はユイを踏みつけた。


 「いたい! いたいっ! ごめんなさい、ごめんなさい!」

 「更夜、女の子だよ! お腹蹴ったり顔を殴ったりしたらダメだよ!」

 トケイは再びユイをかばいに入った。


 「リカも女だ。リカは俺と栄次にやられてるんだ。怖かったはずだ、痛かったはずだ。そして恥ずかしかっただろう。俺や栄次に見られないように破けた服の部分を隠していた。俺は隠すな、避けろとリカを傷つける発言しかできなかった。


 屈辱だ。栄次は泣きながらリカに手をあげていた。刀を振り回し怯えていた。俺がリカの腹に蹴りをいれた。こいつらは……それを笑っていた」


 更夜は床を思い切り踏みつけた。


 「当たり前みたいに俺を操ろうとしやがった。許せるわけねぇだろうが」


 「更夜……でも、これはダメだ。僕は……見てられない。ルナもスズも怖がっている! この子だって痛いって言ってるし、あやまってもいる!」

 トケイは更夜をまっすぐ見つめ、必死で止めていた。


 「……トケイ。悪かった。ルナ、スズ……怯えさせちまった。悪かった……ごめんな」

 「……ユイ……」

 騒ぎで奥の部屋からこちらに来たのはユイの姉、ライだった。


 「……お姉ちゃん……痛いよ……」

 「……ユイ」

 ライはユイに駆け寄り、目に涙を浮かべたが、更夜に何も言わなかった。


 芸術神は罪をおかし、更夜に保護もされている。更夜に怒ることもできない。


 「ユイが何かしてしまいましたか? ごめんなさい。更夜さん」

 ライは色々とおし殺し、更夜にあやまった。


 「お姉ちゃん、痛いよ」

 「……なにをしたの?」

 「セイの笛がさ……この大会の商品になってるんだ……。更夜兄さんに出てもらいたくて……」

 「……バカ。なにしてんの」

 ライはユイを睨み付けた。


 「ま、待って! ユイちゃんは頑張って考えた結果なんだ。ライちゃんもそんな冷たく言わないで……。更夜も酷いよ……」

 トケイは必死に間を取り持つ。


 しかし、更夜はトケイに冷たく言いはなった。


 「……トケイ、お前は俺がこいつに操られてお前達全員を殺しにかかったらと考えたことはあるか? こいつはそれができるんだ」


 「でっ、できないよ……。芸術神の役割が全員いないとあんな大きなこと、できない! 他者を操るのは……マイお姉ちゃんがいないと……」

 ユイは弱々しく更夜を見上げた。


 「コントローラーを出した意味はなんだ?」

 「こ、これが……霊的道具だって、言いたかっただけだよ……」


 「あやまった理由はなんだ」


 「リカにやったこと、今、思ったら酷いことだ。芸術神の特性で夢中になってしまう。あたしもなおさないといけないところだからさ」

 ユイの泣き顔を見た更夜は眉を下げた。更夜は腹いせにユイを暴行しただけだ。ユイは実際に何もしていない。


 「……俺はこいつに恐怖を与えただけだって言うのか……」

 更夜はユイを抱き起こした。


 「更夜兄さん……痛いよ……もう、お腹も顔もやめて……痛くて……立てないよ……頭がくらくらする……。もう、あの大会に出てほしいなんて言わねぇから……許してよ……」


 「……悪かった……」

 更夜は素直にあやまり、壁に背をつけてつらそうにしているユイへ濡らした手拭いを持ってくると、血を拭ってやり、冷やした。


 「あ、姉貴……これ、渡しとく」

 ユイは先程もらった味覚大会のチラシをライに渡した。


 「セイちゃんの笛だって、なんでわかったの?」


 「芸術神の笛だってチラシに書いてあるんだ。なんでだか知らないけど、この料理漫画家さんの世界はセイの笛を持ってる……」

 ユイの言葉にライは眉を寄せた。


 「だって……セイちゃんの笛は平敦盛(たいらのあつもり)オリジナルの笛で皆であんなに探したのに見つからなかったじゃないの。なんで今更……。はっ! セイちゃんは無事なの? セイちゃんからこの人、笛を奪ったわけじゃないよね?」


 「そんなの、あたしに言われても……」

 ユイは困った顔でライを見上げた。


 「……そうだよね。ユイは何も……知らないから」

 ライは目を伏せ、更夜に向かいさらに口を開く。


 「更夜さん……ユイは……本当に何も知らないんです。私達が勝手に連れ回しただけなの」

 「ああ……やりすぎた。気持ちが抑えられなかった。すまない」

 更夜はユイの手当てを丁寧にやり、立ち上がった。


 「……これに出る。出てやるよ」

 更夜が味覚大会のチラシを指差し、ユイの顔が明るくなった。


 「更夜兄さん、ありがとう! 霊的道具は大事なんだ。それはわかる。だから、セイの笛も大事なもんだ」

 ユイは事情を何も知らないまま、大事な道具だからと更夜にお願いしていただけだったらしい。


 「……もう、わかった。お前のやったことは許せんが、よろしくないことをこちらもした。申し訳ない」


 「更夜は本気じゃなかったよ。更夜の蹴りや拳を本気で受けたらたぶん、無事じゃない」

 トケイはユイを心配して寄り添った。


 「うん、更夜兄さんは本気じゃなかったよ。操っていた時、一定のところから動かなくなるから少しだけ怖くなった」

 ユイは更夜をやや怯えた顔で見上げた。


 「……俺を自由にできると思うな」

 「……ああ。わかってるよ」

 そんなふたりの会話をトケイは眉を寄せながら見ていた。

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