太陽のかしら2
アヤはプラズマの背を眺めながら階段をおりる。こんなに見ているのだからプラズマは気付いているのかもしれない。栄次はアヤを心配そうに見ている。自分がケガをしてまで戦っていたというのに。
階段をおりる最中、プラズマが振り返った。
「アヤ、なんでそんなに俺を見ているの?」
プラズマは太陽神やサル達が誰もいない場所まで来て初めて話しかけてきた。
「えっ……いえ、その……あなたが前を歩いているから……」
「……そうだったの? ふーん……で終わっていい話じゃねぇだろ? 無理すんなよ。ひとりになるから……不安なんだろ」
「……それは……」
「あんたさ、あの時みたいに意識が飛んだと思ってる? またそれとは今回は違うぜ。あの時の悲しい気持ちはシステムが作動したのは確かだが違和感がある。記憶操作のような……。どうしても思い出せない。今回は、システムが作動したと思われる。あれは俺達が三柱いないと出ないシステムなのではないかと思う。だから俺は違うと感じた」
プラズマは再び前を見ると階段をおりはじめる。
「……そうよね、違うわよね」
「ああ。違うよ。だから安心しな」
「……あの……」
アヤは小さく声を上げた。
プラズマは立ち止まらず、階段をおりる。
「……なんだよ、さっきから」
「……ごめんなさい。なんでもないわ」
「アヤ、話せる仲間がいないんだろ? 俺達がいなくなったら」
プラズマは階段をおりきってから再び振り返った。
「話していいことなのかもわからない……ってか?」
「アヤ……そんなに不安を感じていたのか」
栄次にも声をかけられる。
優しくされると甘えが出てしまう。ふたりはアヤの世界には本来いない。このまま、皆で家に帰れたらいいのにと思うが、時神はそれぞれ別々に元の生活に戻るのだ。
「ごめんなさい。なんでもないの……。私は私の生活に戻るわ……。私は……神の友達も多いのよ。今回は無事に終わって良かった。サキの動きは私が見ておくから……。今回の時間の綻びも……見て修正しておくわ」
アヤは無理に笑った。
「アヤ、心配ならば俺は少し残ろうか……」
栄次がそう声をかけるが、プラズマは栄次を止めた。
「ダメだ。俺達は早く元の世界に帰らないといけない。こちらの世界にきたのはイレギュラーだ」
「……しかし、このままではアヤが」
「時間が解決するよ。図書館では毎日会える。同じ世界にいないだけだ。またこうやって同じ世界に来れるかもしれないし。今は……俺達じゃあ、この世界に関与できない。壱に関われるのはアヤだけだ」
夏の暑さ、セミの鳴き声が戻ってくる。暁の宮は太陽にあるのに暑く感じなかった。霊的太陽が何かわかったような気がする。電脳世界……それが一番近いかもしれない。
「元々は夏。壱のアヤがいた周辺だけおかしかった。すべてがそのうち戻って、霊的太陽も霊的月同様に壱と陸を今まで通りに交互に回ることになる」
「プラズマ……」
アヤが不安げな顔のまま、プラズマを見上げた。
「アヤの周辺だけおかしくしたのは歴史神だ。時空を歪ませて俺達を呼んだ。サキの母の時間を戻させるためだ。これはもっと上のやつらの指示だと思われる」
「高天原の東か西の頭か」
栄次はアヤに寄り添いながら眉を寄せた。
「そうだ」
「未来を見たのか」
「そうだ。見えた。歴史神達が事後報告をしている。あんたもそのうち、過去が見えるさ。俺より明確な内容がわかるんじゃないか?」
プラズマは神社を背に苦笑いを向けた。
「あなた達は……すべてが見える……。ふたりいれば、全部わかる……。私は何も、わからない」
アヤは夕方になりつつある空を見上げた。セミの鳴き声の中にいつの間にかヒグラシが混ざっていた。
「あなた達は世界を渡って、このことを忘れてしまうかもしれない。明日、あの図書館で会って、この話をしても覚えていないかもしれない……。私が狂った部分がないか確認して、この世界を保たせないといけない。あなた達の世界に迷惑はかけられない……」
「……そうだよな。よくわかってらっしゃる……一緒にいられなくて、ごめんな」
プラズマは目を伏せ、あやまった。
「仕事はちゃんとやるわ……。あなたを怒らせると怖いもの」
「……はは。あんたに怖いとこ見せたことないのに、何言ってんだか」
プラズマは軽口を叩いた。
「プラズマ、あまりアヤを怯えさせるな。神力がわずかに上がったぞ」
栄次に指摘され、プラズマは苦笑いを浮かべた。
「一定にさせるのが難しいんだよ」
「太陽に触れたからか?」
栄次は眉を寄せたまま尋ねる。
「太陽? いや、わからない」
「俺も何故、今の質問をしたかわからぬ……。アヤをからかって神力を上げたのならすぐに下げろ」
栄次はなぜ太陽を持ち出したのか自分でもよくわからなかった。
「ちょっとからかっただけだよ。アヤはなぜかいつも、俺を怖がるんで」
「……そうか」
栄次は眉を寄せたまま、アヤを横目に見た。
「大丈夫か? アヤ」
「……大丈夫よ。ありがとう。うまく世界を整えられるのかわからないけれど」
「俺は過去神だ。この件もおそらく覚えている。安心しろ」
「……ありがとう、栄次。あなたは本当に頼りになるわ」
栄次は少し照れていた。
再び歩きだそうとしたところでヒメが鳥居の横から顔を出していた。
「遅いのじゃ! 色々と詮索をしているようじゃが、ワシもよく知らんのじゃ。サキに関しては壱と陸を巻き込む状態だったとは……。ワシは人間の歴史管理が主である故、サキがなんなのかよくわからなかったのじゃよ。ワシの歴史神としての仕事は時空が歪んだ時の対処じゃ。時神が来ても時空が狂わぬよう、楔を設置していたじゃろ? おぬしらは触ってしまったがの……」
「別にあんたは責めてないよ。もう終わったしな」
プラズマはヒメに向かって歩き出した。
「……プラズマ……」
アヤは一番この世界を知っていそうなプラズマに不安な気持ちを伝えようとしている。
プラズマは振り返り、アヤに迷いながら口を開けた。
「あー……、俺も……覚えていられたら覚えておこうと思うし、忘れてたら経緯を説明してくれ。俺はあんたの話をバカにしないから。相談はいつでも、のる。だから安心しろよ。現代神はひとりでも、あんたはひとりじゃない」
「……ええ、ありがとう」
アヤはようやく少し安心し、歩き出す。時神三柱はヒメに連れられ、神々の図書館へ向かった。図書館には天記神という書庫の神である歴史神がいる。この神はわけありで神々の図書館から出られないそうだ。
この図書館がある空間はすべての世界が繋がる不思議な空間でできている。天記神は何か罪をおかしたらしく、この混ざり合う空間に作られた図書館で幽閉されている、特殊な神だ。
ちなみに行くには人間の図書館にある霊的空間を抜けて棚にある白い本を開くと行ける。
「皆、心配はあるじゃろうが……今回は歴史神達に任せ、安心して元の時代へ帰るのじゃ」
ヒメが腰に手を当てて得意げに言ってきたので、時神達はそれぞれの世界へ帰ることにした。




