母と娘5
「あ、あのさ……」
サキは気付いてしまったが納得ができず、母に尋ねてしまった。
「お、お母さんはさ……」
サキはなかなか先を続けられなかった。
「あのさ……」
よくわからない涙がサキの頬をつたう。
「あのさ……」
下を向いたサキはすぐに顔を上げ、口を開いた。
「あたしを愛してた?」
サキとアヤメの間にとても冷たい風が吹いたような気がした。親子なのに、何かがとても遠い。
アヤメは何も話さなかった。
「……お母さん……お母さんはたぶん、人間に戻る……。時神がやってるのは、たぶん……時間の巻き戻しだ。この世界はそれぞれに必ず意味があるんだ。この世界を保つために……。だからさ、余計なことをしてはいけなかったんだよ、お母さん」
サキはなんとなく思うところを口にした。
「あんたは偉そうに語れる立場にない! なんの苦労も努力もなしにヘラヘラ笑っているだけでアマテラス様に認められる? なんで、私じゃないのよ! あんたのワガママ聞いて、自分を犠牲にして、必死に育てたのは私じゃない! 許せない……あんたなんかっ……」
アヤメが冷ややかにサキを見て笑った。刹那、五芒星が光り出し、アヤメは光りに包まれてその場から消えていった。
「大嫌い」
という言葉を残して。
サキはその場に膝をついた。
知っていた。
自分にアマテラス神力が出てきた時から心の片隅にずっと押し込めていた母の気持ち。母が自分をどう思っているのかという気持ち。
ハッキリと言われた。本当は否定してほしかった。
「……おかあさん……あたし、そんなわけないじゃない、って……言ってくれるんじゃないかと思ってた……。間違いだって……言っておくれよ……」
サキの目に涙が溢れた。母を助けに来た、止めに来た、自分はそのために来た。そのはずなのに。
サキは未だに意識が曖昧なアヤを睨み付ける。
「待ってって言った」
アヤの意識が戻り始めた。
「あたしはっ! 待ってと言った!」
サキがアヤの頬を思い切り叩いた。
「この……っ!」
アヤが目を見開いて倒れた。頬を押さえて動揺している。
「待ってって言ったのに!」
プラズマと栄次の意識が唐突に戻った。なんだかわからず、アヤを助ける。
「アヤを殴ったのか!」
プラズマがサキを睨み返すが、サキは怒りに任せ、アヤを殴りに来た。
「栄次、おさえろっ!」
プラズマが冷酷に指示し、栄次はサキの腕を取った。
「あたしはね! お母さんを止めに来た! 話しに来た! まだ途中だったんだ! それをあんた達が!」
サキは激怒し、叫ぶ。
アヤはなんだかわからず、怯えた表情をしていた。サキの母、アヤメがいないことに気付き、自分がやったことを思い出している。
思い出せない。この意識が飛んでた時に何をしたのか。
「サキ……私……何をしたのか思い出せない……」
アヤの言動にサキはさらに激昂した。
「あんたは、あたしのお母さんを人間時代に戻したんだよ! お母さんの記憶からあたしをなくして! あたしはお母さんの娘だ! その事実をなくしたから、あたしがお母さんの娘だったという思い出がお母さんからなくなってしまったんだ!」
叫ぶサキにプラズマが冷静に声を上げた。
「……サキ。あんたの母さんはやりすぎた。これは太陽だけの話じゃない。あんたもこれから、勉強していくといい。神とはどういうものなのか、というのを」
プラズマは威圧をまとい立っていた。サキは思わず黙り込む。
栄次がサキを離した。
サキはその場に崩れ、手で顔を覆い、泣き叫んだ。
「おかあさん……おかあさん! おかあさん!」
母が自分を嫌いだなんて言うわけがないと思っていた。何度も何度も問い詰めていこうと思った。
自分が止めに入ったことで母が改心してすべてをやめ、また幸せに母と暮らせる。
「……そんなわけ、ないじゃないか。なに、夢見てんだろ、あたし」
サキは自嘲気味に笑った。
「はは……あはは……。なにを期待してたんだろう」
サキは立ち上がり、崩れた天井から宇宙空間を見る。
「あたしとお母さんは、まるで……太陽と地球みたい……」
サキの身体に太陽神の力が戻っていくのを時神達は黙ってみていた。




