太陽へ3
プラズマとアヤは階段を駆け上がり、二階へ到達していた。暁の宮は三階建てらしい。とにかく広い。階段へ続く廊下は一本のようだが両側は障子で閉め切られているなんかしらの部屋だ。
「女の悲鳴が聞こえる……。下か……」
プラズマが困惑していた。
下の階には栄次がいる。
「栄次が女の子になんかしてるわけじゃねぇよな、たぶん。女の太陽神になんかしたら大変なことになるぞ……」
「大丈夫じゃないかしら? 栄次は同性にだって攻撃できないわよ。優しすぎるの。きっと、なにかあったのよ」
「だな……。でも戻るわけにも行かないし、このまま行くか。俺も異性はちょっとな……。嫌だな」
二階も誰かの気配はするが息をひそめているようだ。
「……このまま上に行っちゃうか?」
「お待ちなさい!」
プラズマの言葉に誰かが反応した。女性の声だ。障子扉が静かに開く。
「こ、黄輪君様! 出ていってはなりませぬ!」
さらに別の女性達の声がした。
「黄輪の……君?」
プラズマとアヤは眉を寄せ、とりあえず構えた。障子扉から出てきたのは赤い髪をしたプラズマに似た少女。
少女は霊的武器「薙刀」を出現させ構える。
「ここより先にはいかせません。黄輪王、リンがお相手いたします」
「……さっきのエンといい、親族ばっかりだな……太陽は……」
プラズマは霊的武器「銃」をとりあえず出した。アヤは眉を寄せながらプラズマを仰ぐ。
「……知り合い? あなたに似ているけれど……。蒼炎王エン、黄輪王リン、そしてあなたは……」
「紅雷王ライってか? どっかの芸術神かよー。俺はプラズマなのー。うーん、知り合いっていうか……姉ちゃんというか……。俺の小さい時にアマテラス様の元へ行ったとされていて……行方不明だったというかー、ほとんど知らないというか。エンはマジで知らなかった」
「……紅雷王、太陽は現在、入城を許可しておりません。すみやかにお帰りなさい。蒼炎王を下したからといい気になるんじゃありません」
リンは薙刀を構えながら睨み付けてきている。気迫を感じた。
「エンは負けたのか、栄次に。なるほど。それで悲鳴があがっていたわけか。ここにも多数の太陽神がいるようだが、俺とやるってこと? 俺、まあまあ強いぜ」
「わたくし達は陸担当の太陽神、エン達は壱担当の太陽神。壱の太陽神は現在休めておりません。わたくし達、陸担当が本格的にお相手します」
リンの手はわずかに震えていた。あまりやりたくないのかもしれない。
「無理すんなよ。あんたら、俺達を追い出すことはたやすいだろうが、滅多打ちにするのはできないだろ。なに? 上が殺せと命令してきたの?」
プラズマが冷や汗をかきながらリンを見据える。
「そうです。アマテラス様のご命令です。時神は特に邪魔、暁の宮に絶対に入れるな、殺せという命令をうけております。入れてしまいましたのでおそらく、私達も蒼炎王もただではすみません」
リンは薙刀を突き立てた。プラズマは慌てて避ける。風圧が炎のように巻き付き、リンは神々しく輝く。
「ま、待てよ。このままこんな思想だと太陽が傾くぞ。あんたら全員、邪神に落ちる!」
「わかっています!」
リンは薙刀でプラズマに斬りかかった。
「やめろってば!」
プラズマが危なげに避ける。しかし、頬を切られた。血が廊下に散らばる。リンは血に怯えていたが、息を吐き、覚悟を決めた目でプラズマを睨み付けた。
「……姉ちゃん……やっと会えたのに」
プラズマはリンにせつなげに言葉をかけた。
「……暁の宮にはあなたの親族がたくさんいます。わたくしは太陽神達を守らねばなりません」
リンは薙刀を振り回し、的確にプラズマを襲う。プラズマは未来見で辛うじて避けていく。
アヤがプラズマに早送りの鎖を巻いた。プラズマはリンの薙刀をなんとか避けていく。攻撃の隙が見つからない。
「まいったな……けっこう強い」
プラズマがつぶやいた刹那、他の太陽神達が障子扉から複数飛び出し、必死にアヤを捕まえ、床に押し付けた。
女性も男性もいる。まだまだ障子扉奥には太陽神がいるようだ。
「……あぐっ!」
「あ、アヤ!」
プラズマがアヤに気を取られた一瞬でリンはプラズマを切り裂いた。
「……ぐあっ!」
プラズマが口から血を漏らしながらうつ伏せに倒れる。さらに傷をリンの神力が焼く。リンはさらに震えていたがプラズマを睨み付けていた。
「ぷ、プラズマ!」
「うっうう……」
アヤは押さえつけられながらプラズマに巻き戻しの鎖を巻いた。傷は元に戻る。
プラズマはすぐに立ち上がりリンと距離をとった。
「はあ、はあ……わかった。そっちがそうなら……」
プラズマは神力を爆発的に解放した。髪が伸び、霊的着物へと変わる。
プラズマの鋭い神力でアヤを押さえつけていた太陽神達が気絶して倒れた。
「アヤを放せ。彼女は現代の時を司る現代神であるぞ」
プラズマの神力を浴び、障子扉奥に隠れていた太陽神達が次から次へと倒れる音が響く。
「プラズマ……もうやめて。私も……倒れてしまうわ」
アヤがプラズマを止め、プラズマは神力の放出をやめた。アヤは障子扉の奥で気を失った幼そうな太陽神に駆け寄っている。
リンは倒れない。薙刀を構えているが冷や汗が頬をつたっていた。
「あの子は……最近出現した私の娘です。最近、私と結ばれた夫はエンと共にあなた達を追いかけて、帰ってきません。これが……わかりますか」
「……わかるよ。今の太陽の頭がやばいやつってことがな。ねぇちゃんの旦那は消滅してないよ。サキっていう太陽神が神力をわけてた。太陽神の方の……かな」
「サキ……様」
リンがそうつぶやいた時、強力な神力がリンに落とされた。アマテラスの神力。プラズマは未来見で神力が落ちる前にリンを押し倒して回避した。
「う……うう……」
プラズマがリンを守り回避したはずだがリンは腕から肩先からあちらこちらがこげていた。
「……避けたはずだぞ!」
プラズマがリンに駆け寄り、必死に傷を見る。
「ごめん、姉ちゃん! うまく避けられなかった! 俺、あんまり戦うの得意じゃないんだ」
「プラズマ、横に避けて」
アヤがすぐに巻き戻しの鎖をリンに巻く。
「アヤ……ありがとう……。これは酷すぎる。姉ちゃん、なんもしてねぇのに」
リンは回復し、自分のために怒るプラズマをせつなげに見ていた。
「……紅雷王、現代神、ありがとうございます。やはり戦うことはできません。わたくし達は本来、こうあるべきではありません。太陽がこうでは……」
リンは目に涙を浮かべた。
「うん。そうだね。なんも言わなくていいぜ」
「……サキ様を助けてください。サキ様はアマテラス様の力を受け継いだ太陽神です。人間からはじまり、徐々に力が強くなりました。サキ様の母親は……それがわかり、態度を変えました。
親は子供の神の名を変えられ、神力をある程度操れる期間があります。………サキ様は母親からアマテラス様の神力を剥奪されたり、戻したりされ、徐々にアマテラス様の神力がなくなっています。
壱の世界にいらっしゃったサキ様は太陽神の神力を剥奪され、人間とも神とも言えない何かに変えさせられた姿です。太陽神ではないため、陸にも壱にも出現します。
ただ……彼女が現れるのは神力を剥奪されたタイミングです。太陽神と神と人間を行き来させることで、神力を混ぜ、太陽神の力を薄め、いずれ、サキ様を消滅させてアマテラス様の神力をすべてあの母親が……」
リンに再び神力が落ちる。
「姉ちゃん!」
プラズマは動けず、呆然と立ち尽くしていた。煙が晴れると栄次がリンを抱えているのが見えた。
「栄次!」
栄次はケガをしており、あちらこちらに切り傷があるがリンを守った。
「話しすぎでは……。危なかったぞ」
「……あなたは……エンと戦っていた……」
「時神過去神、白金栄次だ」
栄次はリンを抱え、アヤがいる幼い少女の前まで歩いた。
「心配だっただろう。子供と共にいると良い」
「……ありがとうございます……」
「悪い、ねぇちゃん、気絶させちまった」
プラズマは申し訳なさそうにあやまる。そんなプラズマをリンは真っ直ぐ見つめた。
「あなたはあなたの仕事をしたのです。別に良い。時神現代神を拘束しようとしてしまい、申し訳ありませんでした。ただ、この上には向かってほしくはないので、わたくしは全力であなた方を止めねば……。このまま行かないでほしい」
リンがそう言い、時神達がどうするか悩んでいたところにエンがニチメを抱えてリンの元へやってきた。
サルも共に来ていた。
「リン、ニチメが……」
「……そんな……」
リンはニチメを見て震えた。気を失っているニチメは足先から徐々に消えていっている。
「こんな小さな女の子まで……」
プラズマは拳を握りしめた。
太陽がおかしな舵取りをしているため、元々の太陽神としての神格が保てなくなっているのだ。
「ニチメは……明るい太陽のような子供の笑顔とヒマワリからきている女神。もうそれが保てなくなっている」
「そんな……」
リンはうなだれた。
エンはリンに悲しげな顔を向けつつ、一緒に来ていたサルに目を向ける。
「サル、お前は太陽にいなかった。だから、影響を受けていない。そのまま……上に立ったあの女を止めてくれ。このままでは……太陽神は全滅する」
「や、やつがれにはそんな力はないでござる……。太陽神様の使い故……」
サルは困惑した顔でエンに答えた。
「お前しかおらぬのだ」
エンは目を伏せ、しぼりだすように言う。
「……サル、行こう。このままだと正の力の太陽神から消える」
「プラズマ殿……」
プラズマは怒りをまとわせながら歩き出した。彼にも太陽の力があるのだが、それに気がつくのはまだ先である。
「……もう、止めることはできない。彼らに助けてもらう他、我々には道はない。リン、我々は倒れた太陽神、怯えている太陽神達を守ろう。照姫ならそうする」
「……そうですね」
リンは悲しそうに自身の娘をそっと撫でた。
※※
「ところで……おぬしは太陽神なのかの?」
ヒメは不思議そうに尋ねた。
時神を見送った後の神社内で小さなサキは倒れた男性太陽神達に神力を与えていた。
「あたしは太陽神だよ。今は。ダメだね……もう、力がほとんど残ってないよ。後、二回くらいで限界かな」
「なぜ、そこまで太陽の力を失っておるのじゃ?」
「お母さんが……あたしのこと、嫌いだからだよ」
サキはどこか悲しげに答えた。
「仲が悪いのかの?」
「……お母さんは優しい人だったよ。あたしが七歳超えたあたりでアマテラスの神力を持ち始めた。あ、あたしはさ、今は、十七年目の神なんだ。太陽神は神力の安定が遅くて、外見はまだ幼く見えるだろう?
話を戻すと、お母さんは熱心に太陽を、アマテラスを信仰していた。だから、なんで自分じゃなくて娘がって思ったんだ。太陽神はいるけどアマテラスはお話の中での存在。アマテラスを祭る神社なんて、ここしかないんだ」
「……こちらの世界ではアマテラス様は確かにおらぬな。おらぬことになってはいるのぅ……」
「……何か知っているのかい?」
サキに尋ねられ、ヒメは慌てて口を閉じた。
「いやー、知らぬ、知らぬのじゃ。それで? おぬしは子供に見えるが十七年目の神と……」
ヒメが話を続けようとした刹那、小さなサキが呻いた。
「う、うう……もう、あたし……太陽神力がほとんど残ってないんだよ……お母さん」
小さくか細くつぶやいた小さなサキは、その場で急に十七歳のサキになった。
「な、なんと……サキ、大丈夫かの?」
「うっ……あれ? なんであたし、こんな場所で寝てるんだい? ってなんかコスプレイヤーみたいな人が沢山倒れているけど、なに? うち、イベント会場にでもなったのかい?」
「……サキ……」
ヒメは戸惑いの声をあげた。
サキは母親から神力を剥奪され、今、人間と太陽神ではない神力を微妙に纏わせたよくわからない者に変貌していた。
「あれ? 暑いねぇ。なんか寒かったような気がしたんだけど。まあ、いっか。イベントやるなら他所でやってほしいわー。なんか楽しそうだけど」
「……何も覚えてはおらぬのか?」
ヒメの言葉にサキは首を傾げた。
「なにが? てか、君、どっかで見たような……。ああ、だいぶん前にうちでコスプレして立ってた子供ちゃんじゃないかい! 駄目じゃないかい、お仲間連れてくるのはいいけど、一応、うちなんだからさ」
「……そ、そうかの」
ヒメが曖昧に返答した時、サキの足元に突然に五芒星が現れた。
「うわあ! な、なんじゃこりゃ?」
サキが驚いている一瞬でサキはすぐに消えていった。五芒星もすぐになくなってしまった。
「……あれは高天原産のワープ装置……まさか……例の母親とやらに連れ去られたか! これはまずいのぅ。追いかけるか……」
ヒメが焦っていると、倒れていた太陽神の男が目覚め、上半身を持ち上げてこちらを見ていた。
「歴史神殿、太陽の門を……繋ぎ止めておく故……向かってくだされ……」
「……あまり話すでない、太陽神よ……。わかったのじゃ、ありがとうなのじゃ。すぐに向かう故、自身を大事にするのじゃ……」
「……情けなし……。妻と娘がいるのだ……。守ってやれぬ……」
「……リンか。安心せい。時神を追いかける故、しばし、そこで癒せ」
ヒメは霊的空間が広がる太陽の門と階段を上り始めた。




