太陽へ2
燃えるような剣が栄次を襲う。栄次は刀を凪払い、風圧で剣の炎を飛ばそうとしたが、赤い炎は消えない。
エンは剣を振り下ろし、栄次は後ろに退がり炎ごと避ける。剣を振り抜いてきたエンにさらに後ろに飛びかわす。エンは栄次を攻めてきた。何度も鋭い斬撃が栄次を襲うが栄次には当たらない。
「なかなか強い」
「そちらも強いな」
栄次の刀もエンには避けられていた。お互いかすりもしない。
サルは他、襲ってきそうな太陽神を鏡の盾で防御していた。サルとしては上司である太陽神へ刃を向けたくはない。
エンは鏡の盾も出してきた。他の太陽神らも鏡の盾を出し、炎を出現させる。まぶしい光が鏡に反射する。
栄次は一瞬怯んだ。エンが炎を纏わせ剣を振り下ろしてきた。刀で剣を受け止めたが栄次の頬と肩から血が滴る。
熱い。燃えるような炎が栄次を苦しめる。着物が燃え、煤が舞う。
栄次は刀を弾き、無理やりエンから逃げた。髪紐が燃えて消え、着物の一部も切り裂き、燃えるのを回避する。
刀を構え直した刹那、エンが神力を乗せた剣を袈裟に斬り下ろしてきた。
栄次はなんとか避けたが胸から腹にかけて剣がかすった。
燃えるような神力がかすり傷を焼く。
「うっうう……」
栄次は血を滴らせながら呻いていた。神力が体に入り、栄次は口から血を吐いた。
「げほっ……げほっ……」
エンはさらに剣を突き立て、栄次に追撃をする。栄次を殺す気なのか。
栄次はかすむ目で刀を構え直し、エンを薙ぎ払うがエンの着物を一部裂いただけだった。
エンは鏡の盾を使い、栄次の視覚をおかしくし、後ろから斬りつけてきた。
「ぐっ……背中を斬られた……」
さらに炎が傷口を焼くため、栄次は気合いで立つしかなかった。再び振りかぶってきたエンを栄次は刀で薙ぎ払い、エンを遠ざける。
栄次は刀を一度軽く振り、集中を高め、エンの胴を振り抜くように横に凪いだ。
エンは飛び退いてかわしたが、腹を軽く斬られていた。
「……斬られたか。おぬし、なかなかやりおる」
「はあ……はあ……そちらもお強い」
栄次は速さを一段階上げ、エンの背後をとった。
「まだ動けるのか」
エンは剣を横に薙いだが栄次はしゃがんで剣を避け、そのまま脇腹を刀の柄で突いた。エンが呻いてよろけた。
エンは栄次に鋭い剣撃を繰り出すが栄次は再びエンの背後をとってきた。
エンは体を捻りながら栄次を剣で払い、栄次は腕を薄く斬られながら避け、そのまま踏み込み、刀を峰に返し、腹を付近を勢いよく打ち付けた。
エンは剣で受け止めようとしたが、首を狙ってくると思ったエンは腹をかばえず、そのまま吹っ飛ばされた。
「がはっ!」
苦しそうな息が聞こえ、栄次は目を伏せた。障子扉にエンは突っ込み、障子扉の木枠などがバラバラに壊れた。
障子扉の部屋から女の小さな悲鳴が響く。
エンは再び剣を振りかぶってきた。
栄次は刀を返しながらエンと対峙する。エンの攻撃を避け、エンは栄次の攻撃を避ける。お互い切り傷が増えていき、暁の宮の廊下は二人の血が飛び散っていた。
「……もう、やめよう」
栄次はエンに言葉をかけた。この戦いに意味を感じなくなったからだ。
栄次は過去を見て気付いてしまった。
エン達、男の太陽神が戦う力を持たない女の太陽神を守って戦っていること、男の太陽神達もなんで戦っているのかわかっていないこと、この戦いは時神が正義であることを。
「お前達もやめろ。サルは仲間だろう。そのサルが命令違反をおかしたと本気で思っているのか?」
栄次が鋭い瞳で交戦中の太陽神達を睨む。サル一匹に複数の太陽神達が剣で攻撃をしている。サルは太陽神に忠実、サル自体も太陽神に攻撃ができず、鏡の盾で防戦一方だ。
太陽神達もサルを本気で斬ろうとはしていない。誰かに配慮して動かざる得ないようだ。
「……わ、わかっておる……。だが、アマテラス様のご命令には背けぬ」
「逆らうと罰があるというのか。先程の太陽神達のように。太陽神がそんな思考を持ってはいかぬ。独裁ではないか」
栄次がエンから目を離さず、太陽神達をなだめる。
「この会話も筒抜けなのだ。我々はアマテラス様と常に繋がっている!」
「やめろ! あまりこの者に話すな!」
太陽神の一柱をエンが止め、エンは誰かに向かって話し始めた。
「我々は太陽と共に。時神は排除いたします」
「……太陽神を守るために俺を殺しにきているのか。なるほど。話さなくて良い。すべて見えた。女子達はそこか」
「やめろ……。女太陽神は関係がない」
エンは障子扉の部屋内にいる女性太陽神を必死でかばっていた。アマテラス様とやらに伝わるのを恐れ、あまり言葉を発さない。
「……人質か。女子太陽神は産み出す力の強い神。平和を愛する気質だ。こんな斬り合いをしているところなど見られれば神力が不安定になる。戦わぬ方が良い」
「……できぬ」
エンが苦しそうに言葉を発した時、少女の太陽神がエンの前に現れた。
「……っ?」
「ニチメ! 隠れていろ!」
エンは目の前に立った幼い風貌の少女に焦りを見せた。
「あちきは日女神! 女の太陽神であっちが一番戦えるんだ!」
日女神、ニチメは綺麗な橙の髪をなびかせ、剣と鏡の盾を出した。
「ニチメ! やめなさい……」
「血が……なぜこんなことに……」
「ニチメ、手を汚さないで……」
「エン、もう頑張らないで……」
女の太陽神の声があちらこちらからする。栄次は体が震えてきた。
太陽神は誰も戦いに参加していない。上の命令に従っているだけだ。
ニチメは周りの太陽神を守るため、栄次に剣を向けている。
「エンは……や、休んでて……あ、あちきが倒すからね……。うん、あちきが頑張るから……」
ニチメは剣を向けているが虚勢を張っているようだった。栄次が怖いようだ。血に塗れ、刀を持ち、仲間の太陽神をここまで痛め付けた男など怖いに決まっている。
「……娘、俺は……戦いを放棄する。故、剣を下ろしてくれ……頼む」
栄次は悲しげにニチメを見ていた。
「で、できるわけないよぉ……。あ、あんたが……わ、悪くないのは知っているんだ……。で、でも……」
「太陽神の頭がそんな神道的ではないことをするのか?」
「だって、だって……照姫様が……」
ニチメは涙目になっている。栄次はニチメの過去を見ていく。
照姫神という女太陽神が太陽の頭が出てこないこの数十年、上に立ち頑張っていたようだが、ここ最近、アマテラス神だと言う強力な力を持つ女が現れ、平和の象徴として保とうとしていた照姫を暴力で下し、封印刑にした。
アマテラス神の神力を持つ謎の女に照姫は封印され、優しい気質のアマテラス神力を凶器に使っている。
「……照姫は……今も苦しんでおられるのか。封印されるところをニチメは見てしまったと」
栄次からそんな言葉が出て、ニチメは驚いた。
「うっうわあああ!」
ニチメは気持ちが乱れ、剣を栄次に振り下ろしてきた。涙を流しながらニチメは剣を振り回す。
栄次はニチメの剣がすべて見えていた。エンよりもはるかに遅い。
元々、戦ったことがない神だろう。
栄次の冷や汗が頬をつたう。
……どうすれば良い……。トップに立つ例の女がどうくるのかがわからぬ。
エンや彼女達に理不尽な罰がいかないようにしなければ。
栄次は息を飲んだ。
「ニチメ! 時神をもう……攻撃するな……。我らは理不尽に彼に刃を向けているっ……」
「エン、ダメだ! それはアマテラス様に反するよっ! 言っちゃダメだよ! エン!」
ニチメは怯えた顔でエンに叫んだ。エンはあきらめたように目を伏せた。
「時神過去神はお優しい……。我を斬らなかった」
エンがそう言葉を口にした刹那、鋭い神力がエンに雷のように落ちた。
栄次はエンを抱え、アマテラスの神力とやらを避ける。
「……過去神……かたじけない……。我はもう良い。我ではなく……ニチメ達を……」
「……俺があまり頭のことを発言してはいかぬということか。過去は見えた。何も言わなくて良い」
栄次はエンを下ろし、悲鳴を上げている女太陽神達を見回した。
皆、エンを心配している。エンは慕われているようだ。栄次は過去見で深く知った。
「……もう戦わぬ。お前は負けた。この場に残ると良い」
栄次は一言そう言い、戦闘を無理やり終わらせることにする。
ニチメは剣を構えたまま涙を流し、震えていた。
「かわいそうに……剣は持たずとも良い。俺は何もせん」
栄次は怯えているニチメの横をすり抜け、女太陽神達が注目する中、刀を納め、廊下を歩きだした。誰ももう襲っては来なかった。サルも栄次の後を追い、走り出した。
ニチメは脱力したかのように膝をつくと恐怖により意識を失い、倒れた。
エンがニチメを廊下に倒れる寸前で受け止め、戸惑いの表情で栄次の背中を見つめた。
「エン、何も言わなくて良い。彼女が負った恐怖を少しでもなくしてあげてくれないか。太陽は今、見ていられん」
去っていく栄次にエンは軽く頭を下げた。
蒼炎王エン




