太陽へ1
ヒメに連れられてやってきたのは近くの山とまではいかない丘を登った先にある民家付きの神社だった。
暑い。夏だ……。プラズマは汗を拭い、アヤは息を漏らした。
栄次だけはなんともないのか顔色変えずに歩いている。
「暑い……。暑い!」
プラズマが半泣きで叫び、アヤがため息をつく。
「私達、霊的着物になってないからよ。プラズマ……。冬の格好しているし」
「ああ、そういえばそうだった……。脱ごうっと」
プラズマは上着を脱ぎ、下に着ていた黒の半袖一枚になる。アヤは控えめに上着を脱ぎ、腕をまくった。
「しかし、本当に暑いわね。こちらも異常気象なの?」
「そうじゃ。連日猛暑を通り越しているのじゃよ……」
目の前にできた陽炎を眺め、ヒメちゃんは息を吐く。
「ああ、逃げ水まで見える……。地面、普通に土なんだけど……」
「日の光が異様に強いのじゃよ」
ヒメは鳥居まで歩くと、横にある看板を指差した。
「なんだ?」
プラズマは目を細めて看板を見る。
看板にはアマテラス大神を祭ると書いてあった。
「……アマ……テラス?」
「まあ、そういうわけでの、太陽神の神社ということじゃの」
「は、はあ……」
ヒメはなんとなく言葉を濁すと困惑している時神達を鳥居の中に入れた。
鳥居をくぐるとすぐに民家があった。宮司さんが住んでいるのか?
時神達が鳥居をくぐったすぐ後に、先程消えたサルが民家の扉を開けて出てきた。
「あ、サル! 勝手に行くなよ……。びっくりしただろ?」
プラズマがサルを心配し、サルはなんとも言えない顔で頭を下げてきた。
「申し訳ない……太陽神の力があるこちらの……」
サルは言葉を濁しながら後に民家から出てきた少女を見る。
「……っ!? あ、あんたは……」
「サキ!? 子供の……サキ?」
出てきた少女に時神達は驚いた。サキは六歳くらいの少女だった。
「こんにちは。時神さん? あたしはサキだよ。よろしく」
サキはまるで初めて会うかのようにあいさつをしてきた。
「あのサキとは違うの?」
「あのサキって?」
サキは首を傾げていた。
「どういう……」
アヤが言葉を詰まらせた刹那、サキが鳥居の先にある社に目を向けた。
「おかあさん……もうやめようよ……」
社から見える太陽に階段が現れた。そこから太陽神らしい神々と使いのサルが剣や鏡の盾を持ちこちらに向かって走ってきていた。
「な、なんだ!」
プラズマが怯え、ヒメが後退りをする。
「……まずいのぅ。太陽がおかしくなっておる。なんとかして太陽へ向かいたいが、あやつら、時神を消しにきたか!」
「なんだと!」
プラズマは慌てて霊的武器「銃」を取り出し構える。
「相手は太陽神だぞ。何故俺達を襲う?」
栄次は刀を抜くか迷っていた。時神は太陽神と争うことは何一つない。
そもそもなぜ、突然攻撃を受けることになったのかわからないのだ。
気がつくと太陽神やサル達に囲まれていた。剣を向けてきているが顔は戸惑い震えている。
不思議な状態だ。
「剣を俺達に向ける意味はなんだ……?」
プラズマはそう問いかけたが太陽神の一柱が剣を振りかぶってきた。
栄次が間に入り、剣を受け止める。
甲高い金属音が響いた。
「アマテラス様の……ご命令だ……」
栄次と剣を交えた青年の太陽神は力で剣をそのまま振り下ろしてきた。
栄次は力を抜き、後ろへ下がり、攻撃を危なげに避けると再び構えた。
一方で現在太陽に逆らっているらしいサルは太陽神達から罪状をよみあげられ、拘束されかかっており、なにやら逃げている。
猿らしく、太陽神の頭を飛び越え、他のサル達の攻撃を避けていく。
「太陽神様、どういうことでござるか! くっ! 時神殿! うまく避けて太陽へ続く階段へ!」
「このまま太陽へ行くのか?」
栄次は太陽神の攻撃を避け、階段に目を向ける。
「栄次、俺がアヤを抱える! 逃げるぞ!」
プラズマはアヤを抱え、アヤは栄次とプラズマに早送りの鎖を巻く。
「……っ! 時間操作!」
太陽神達はわずかながら後ろに退いた。ただ、一柱のみ燃えるような炎に包まれた剣で追いかけてきた。
栄次と刃を交えたあの青年だ。
「うわ、なんだ! 剣が燃えてる……」
「太陽へは行かせぬ……」
青年はまわりの太陽神をまとめ、剣を振りかぶってきた。
「待て! エン! や、やはりアマテラス様のご意向は間違ってはおらぬか! エン!」
「アマテラス様はこんなことを望まぬはずだ! エン!」
太陽神達はエンという青年に必死に声をかけるがエンは迷いながらも剣を栄次に振ってきた。
「……迷っているのか……?」
栄次に問われ、エンと呼ばれた青年は眉を寄せた。プラズマに似ている風貌をしている青年だった。
「……太陽へは行かせぬ……。アマテラス様がようやく現れた。太陽が乱れることはもうないのだ」
エンは苦しそうな顔でそうつぶやき、栄次を剣で薙ぎ払う。栄次は前に走りながらかろうじて避けた。
追いかけているのはエンだけだ。
他の太陽神、サル達の顔には戸惑いしかなかった。狙われたサルは華麗に飛びながらアヤとプラズマの横に着地し、一緒に走り始めた。
「なぜだが、やつがれが罪に問われているようでござる。太陽命令に背いたと言われた」
「太陽命令に背いた? なんでだ?」
プラズマが眉を寄せた時、太陽神の何柱かに強烈な神力の刃が落とされた。
「アマテラス様っ! おやめください! ご命令には逆らいません故!」
「……っ!」
プラズマ、アヤ、栄次は目を見開いた。先程まで立っていた太陽神達が黒焦げで倒れた。苦しそうにもがいている。
「どうなってるんだ……」
「……時神さん達! 先に行っておくれ! あたしがこの子達を治すから! おかあさん! もうやめておくれ!」
幼いサキは心配そうに倒れた太陽神達の元へ寄る。サキは悲しそうに泣き、必死に太陽神達に神力をわけていた。
「……サキ……。プラズマ……どうしよう……」
アヤが不安になり、プラズマを仰いだ。
「……太陽に行こう。なんかヤバイ」
プラズマはアヤを抱え直すとさらに足を速めて走り出した。
栄次もエンの攻撃を避けつつ走る。
エンは必死に追い回してきた。
プラズマはエンを見てから、なんとなく横にいたサルに尋ねた。
「なあ、あの太陽神……強いな。名前は何て言うの? エンはあだ名だろ?」
「……ああ、蒼炎王様でござる。皇族の血筋の太陽神でござる。神名は炎天照槍神」
「……あー、親族かよ……。まあ、いいや」
プラズマはそこで話を切り、階段をそのまま登り始めた。
階段の横には四足の犬かなんかの石像が等間隔に浮いており、階段はそのまま太陽に続いている。
栄次はエンを振り切り、階段を登り始めた。
階段はどこまでも続いているように見えた。景色が遠くに見え、階段はどういう原理か浮いている。登っていると景色が橙色一色へと変わった。
階段の終わりも見えてきた。
「はあはあ……やっと太陽か!」
「暁の宮でござる」
「プラズマ……ごめんなさい。重いわよね……」
アヤが控えめに言ってきたのでプラズマはそのまま走りつつ答える。
「大丈夫、大丈夫。あんたに危害が加わる方が俺は怖い!」
「もう降ろして大丈夫よ……」
「まだエンとかいうやつが追ってきている。いいから俺に抱っこされてろ。ちょっとイケメンセリフだな?」
プラズマが自分で言っておいて恥ずかしくなっているので、アヤはそのまま何も言わずにプラズマに任せた。
「……サキは……なんだか壱にいた時よりも神のことがわかっていたわね。当たり前みたいに助けようとしていたし、神力のわけかたもわかっていた」
アヤがそう言い、栄次、プラズマも頷く。
「一体、サキは何者なんだ?」
プラズマはサルを横目に見つつ、暁の宮に入り込む。
「あのサキ様は……太陽神だったのでござるが、壱にいたあのサキ様は太陽神ではなかった……。やつがれもよくわからないのでござるよ」
「あっちのサキはどこに行ったんだよ……。太陽神は壱と陸、どちらかにしかいないんじゃなかったのか?」
「……壱にいた方のサキ様は、太陽神ではなかったのでござる。彼女の方は我々を認識していなかった。こちらのサキ様は……太陽神で神力の使い方がわかっておられた。やつがれもよくわからないのでござる」
サルもなんだかわかっておらず、太陽神の神力を感じて幼少サキの元へと走ったらしい。
「……ヒメは?」
アヤが尋ね、プラズマと栄次はヒメが一緒に来ていないことに気がついた。
「そういえば……。でも大丈夫だろ。あの子は狙われてなかったから」
「ヒメは確かに狙われてはいなかったな。そもそも太陽神が迷っていた」
プラズマと栄次は話しつつ、暁の宮の門を抜ける。中へはすんなりと入れた。不気味なくらい静かだ。
ただ、気配はする。
プラズマはアヤを降ろし、栄次が一番後ろを歩き、様子をうかがう。
サルは一番前を歩いていた。
「……エンという青年が追ってこない……」
栄次は後ろを気にしつつ歩いている。
暁の宮は長い廊下の両側に部屋があるのかすべて障子で仕切られていた。
「……とりあえず太陽へ来たが、これからどうすんだ?」
プラズマはサルに尋ねた。
「よくわからぬが、やつがれが太陽神様の力を感じ、お迎えしようとしていた時期に太陽では何者かの指導者が現れて、その指導者が暴走をしているようでござる……。
太陽をこちらに止め続けているのはその指導者で、歴史神ヒメはバランス調整をせざるえなくなっている。ということのようでござる……。故に太陽をこちらに止め続けている指導者に会い、時間管理が仕事の時神が指導者を止めねばならぬ」
サルはそう言い、頭を下げた。
「お願い申し上げるでござる。現太陽神トップを止めてくだされ……」
「……とりあえず……会えばいいのか?」
プラズマが尋ね、サルは冷や汗をかきながらさらに頭を下げた。
「行くか……」
栄次は刀を構えたまま障子で仕切られた部屋をうかがう。神力はするが恐ろしいくらいに静かだ。
サルは霊的武器「剣」と「鏡の盾」を手から出現させた。
様子をうかがいつつ歩くと後ろから複数柱の太陽神が剣と鏡の盾を持ち、再び襲ってきた。先程攻撃をしてきた太陽神の残りか。障子扉奥では気配が怯えに変わっている。
栄次はやりにくさを感じつつ、プラズマとアヤに落ち着いて言葉を発した。
「……先に行け。エンとやらは俺が抑える」
栄次がそう言ったので、プラズマとアヤは先へと進み、戸惑いながらも走り去った。
サルは栄次とこの場に残る。
……女の太陽神がいない……。
栄次は目の前に立ったエンを視界にいれ、息を吐いて刀を構えた。
複数柱の太陽神は皆、男性。
戦士なのか。
太陽は神々しく産み出す力と燃やし尽くす荒々しい力の両方がある。役割がありそうだ。
エンは炎を纏わせ、栄次に斬りかかってきた。




