太陽神、平成23年のこと3
悲鳴が聞こえた風呂場からアヤが真っ赤な顔で脱衣所へと出てきた。
「アヤ……すまぬ。手拭いか何かを……」
栄次は勢いで覗いてしまい、後悔していた。
「で? アヤ、どうしたんだい?」
「プラズマが……未来神が……紅雷王様が……」
「ん? 人? 三人?」
「アヤ、落ち着いてくれ! 俺は突然ここに来たんだ! それからアヤ、それは全部俺だ!」
サキが風呂場を覗くと冷や汗をかいている赤髪の高身長の青年が困った顔で佇んでいた。頬が赤い。
「男? アヤ、彼氏いたのかい? 一緒にお風呂入ってて喧嘩した?」
「違うわよ! さっきの栄次と同じよ! 未来神が突然、肆(未来)の世界から来たの! この世界は過去、現代、未来が三直線だから平成が過去になった世界から栄次が、平成が未来の世界からプラズマが来たのよ」
「プラズマっていうのかい? 粒子みたいだね……」
サキがつぶやき、赤い髪の青年プラズマは「あながち間違いではないかな」と笑った。
「そ、それより……アヤ、体を隠してくれ……。栄次も目線に困ってる……。いや、あんたは悪くないけどさ。風呂、入ってたんだろ……。ごめんな」
「あ……ごめんなさい! タオル……タオル……なんでこんな時にタオル脱衣所に置くの忘れているのよ……私。洗濯して積み重ねたまま……」
「ああ、さっき、あたしが入っちゃったからタオルがなかったのか。ごめん、あたしがさっき使ったのを使う?」
サキは仕方なく自分が使ったタオルをアヤに渡した。
「ありがとう……」
アヤは真っ赤な顔のまま、タオルを巻いた。
「はあ……びっくりした……時空が歪んだから歪んだ場所に向かって歩いていたらアヤの風呂場に飛んだ」
「俺もだ……」
栄次も目のやり場に困りながら答えた。
アヤが着替えるのを気まずそうに横目で見ながら栄次とプラズマはサキを見つめた。
「えーと……この子は……神?」
プラズマが眉を寄せ、栄次が首をかしげる。
「この娘の過去は見えぬ……」
「なんでだ? 過去見できないのか」
「わからぬ。過去なのか今なのかの判断ができぬ。見える過去は彼女ではないのだ。彼女の外見はしているが」
栄次はうまく説明できないようだ。
「……なんか時間関係でよろしくないということか」
「それすらもわからん」
プラズマの問いに冷や汗を流しつつ答える栄次。しばらくその場で考えていると、アヤがほぼ下着の状態で悲鳴を上げていた。
「え、なに?」
プラズマが我に返り、ふとアヤを見るとアヤのまわりを猿が一匹回っていた。
「え、猿?? なんだい? この猿! 日本猿?」
サキがタオルで猿を追い払っており、アヤはタオルをとられ恥ずかしそうに体を隠している。
大変なことになっていた。
「……なんで猿が?」
「ほんとだよ! 猿がアパートにいるって怖いじゃないかい!」
サキは猿がアパートにいることに疑問を持っていたが、プラズマはどうやら違うようだ。
「なんで太陽神の使いのサルがここにいるんだよ」
プラズマが猿に向かいそう言うと、猿は突然にヒト型に変わった。
「ああ、紅雷王様のお力で元に戻れたでござる……。感謝するでござる!」
全体的に茶色で茶の髪で髷を結っており、茶系の着流しを着ている。
見た目は青年だが目が見えてるのかわからないくらい細い。
「ええっ! ヒト型になった!?」
「な、なによ……」
サキは驚き、アヤは涙目で震えていた。
「アヤ、大丈夫だ。太陽神の使いのサルだ。そんな姿で震えちゃって……風邪引くから早く着替えてきな。俺に介助されんのは嫌だろ?」
「ご、ごめんなさい。すぐに着替えるわ……恥ずかしい……」
プラズマに言われ、アヤは涙目で着替え始めた。
「サル、こちら側に来い。目のやり場に困る」
栄次が頬を赤く染めつつ、サルを呼んだ。
「はいはい。申し訳ございませぬ。先ほどまで力を失っておりまして、時神様がそろってしまわれましたか。太陽と連絡がとれず、困り果てているのでござる……」
「太陽がおかしいのか。この辺だけ時空が歪んでいるし、天気も季節もめちゃくちゃだ。未来の平成は夏だったぜ」
「……そうでござるか……」
「そういえば……いつ冬になったんだい? あれ……夏だったかい?」
サキは頭を抱え始めた。気にしないようにしていたことばかり頭に出てくる。いつの間にかアヤが横にきていた。
「着替えたわ……ごめんなさい。プラズマ……あの……紅雷王様……、私は時間操作など何もおこなってはおりません……その」
「……疑ってはいない。今回、あんたは巻き込まれただけだ」
「巻き込まれたの? 私……」
プラズマはサキを見ていた。
「え、ちょっと! あたしは何もしてないって! なんだかわからないんだよ、ずっと」
「いや、あんたが原因だが、あんたじゃない……」
焦るサキにプラズマは眉を寄せたまま答えた。
「太陽に帰りたいのでござるが……太陽に連絡もできず……夜を迎えてしまったのでござる。帰れぬ……。霊的太陽は現在、反転世界、陸にある……。この辺周辺で時間が動いていない可能性もでてきてしまった。太陽の力が現在なく、やつがれはヒト型に戻ることができなかったのでござる……。紅雷王様か、他の何かしらの太陽の力でやつがれは戻れたと考えているのでござるが」
サルが困った顔をしているので、問題は太陽にあると思って良さそうだ。
ただ、こちらの世界の時空の歪みとは関係がないようだ。誰かがこの壱の世界の時間経過を止めている。
時神が時間操作をしたわけではなさそうだ。ならば他にできるのは……。
「アヤ、歴史神に会わなかったか?」
栄次が過去見をしたのかアヤにそう尋ねてきた。
「会ったわよ。流史記姫、ヒメに。あの子がサキをうちに連れてきたの」
「そうか……。ヒメが世界を止めている可能性があるぞ。プラズマ……どうする」
「ああ、サルを返しに太陽に行かないといけない。ただ、太陽は……反転世界、陸にある。時間が止まっている今、こちらは霊的月に変わっている。太陽に行くことはできない」
プラズマの会話を聞いていたサキは始終首を傾げていた。陸の世界とはなんなのか。反転の世界。つまり、同じ世界で反転している世界があるということか。鏡のように。
「だが……神々の図書館なら、あそこの歴史神の主が陸の霊的太陽と直接繋いでくれる可能性がある」
「行ってみる?」
アヤに聞かれ、プラズマは頷いた。
「ただ、歴史神のヒメが関係しているとなれば何か理由がありそうだ。図書館の館長は歴史神の主……。繋いでくれるかはわからない」
「とりあえず、行ってみましょう」
「あんたらお風呂入ったばかりなのに、この雪の中歩くのかよ……? 図書館まで……」
「風邪を引くぞ? ……いや、神は引かないのか」
プラズマと栄次が心配してきたので、アヤは大丈夫と伝えた。
「あたしはちょっと嫌なんだけどねぇ」
サキは渋々わからないながらついていくことに決めた。




