太陽神、平成23年のこと2
サキはぼんやりと会話を聞いていた。
「時空が歪む? 消えたり現れたりするの? この子」
かわいらしい少女の声が聞こえる。
「そうなのじゃ。前回は夏の時期。今回は冬。なぜか季節も今年は乱れ、12月初頭であるのに昨日は真夏日。今日は雪じゃ……。人間は異常気象に気付いてしまっておる」
「……確かにね。テレビはそればっかり」
「たびたび開く陸の世界に鎖国状態の太陽……どうなっておるのかワシは頭を悩ませておる」
「ヒメ、陸の世界って何かしら」
少女は例の古風な話し方をしている幼女をヒメと呼んだ。
「陸の世界とはここ、壱(現世)の世界と同じ世界でバックアップをとっている世界じゃ。同じもの、同じ人間が同じ行動をとって存在している」
「バックアップ……そんな世界があるのね」
「この世界は六つの世界で成り立っている。壱はここ、弐は霊魂や夢といった宇宙空間にある世界、参は過去、肆は未来じゃ。伍はいまのところ不明、陸は先ほど説明した壱のバックアップじゃ」
ヒメは少女にそんな説明をしていた。
「参(過去)と肆(未来)は確か、三直線なのよね? 現代(壱)が平成なら、参も肆も平成で参は過去になった平成、肆は未来になった平成。あってる?」
「うむ。そうじゃ」
ヒメは頷いた。ただ聞いているサキはまどろみながら何やらすごい空想を話しているなと思っていた。
「で、この子をうちに連れてきた意味は?」
「もうちょい調べる故、とりあえず時神現代神のアヤに助けてもらおうとな。この周辺はおぬしのおかげで狂っておらんからの」
「……勝手よね……」
少女はため息をついた。
ヒメは「ではの!」と言うと去っていった。扉をしめるような音がする。
「えーと、ちょっと起きてくれるかしら……」
少女はサキを揺すっている。意識がなんだかハッキリしてきたようなしないような。
「起きて!」
少女の言葉にサキは目を開けた。
「んん……。なんであたしはこんなとこに寝てるんだい……」
「こんなところって私のベッドなんだけど」
サキの目に少し不機嫌そうな顔で立つ少女が映る。少女は茶色の短髪にピンクのシャツ、青いスカートをはいていた。
「えっと、誰?」
「私は時神現代神アヤよ。あなたは何かの神のようだけれど?」
「神? なんかファンタジーの話?」
サキの言葉にアヤは頭を抱えていた。
「とりあえず……もう夕飯の時間なの。何か食べるかしら?」
「え、食べる!」
サキは即答した。アヤの部屋は狭かった。ほぼワンルームだ。部屋は三階でアパートだった。
「……そうねー。雑炊とかにしましょうか」
「賛成!」
サキはよくわからないまま元気よく返事をした。
「お風呂も沸かしておきましょう」
「ありがとう!」
「のんきね……」
アヤが冷蔵庫にあった冷やご飯で雑炊を作り始める。ずっとひとり暮らしなのか色々と手慣れていた。
「まだ、あんた、十代だよね?」
「そうよ。十六歳」
「十六で一人暮らし? なかなかなくない?」
サキはひとのこと言えないなと思いつつ、親近感で尋ねた。
「ああ、私、時神だからね、人間の母親から産まれたけど全く似てなかったの。時神は人間から産まれるんですって。えっと、似てなかったのは私だけね。理由はわからない。だから……かわいがってもらえなくて、家を出てきたの」
アヤは少し言いにくそうに言ってきた。
「ああ、そうかい。なんか、ごめんね」
サキは目を伏せて小さくあやまった。
「いいのよ」
アヤは手早く鍋用カット野菜を取り出し、出汁で煮立てた鍋に入れる。
「いいにおい」
「雑炊はよく作るの、おいしいから」
アヤはおいしくできた雑炊を鍋ごと持ってきた。お椀とスプーンを準備する。
「鍋からとってね。食べましょう。いただきます」
「いただきまーす!」
雑炊に息をふきかけて冷まして食べながらサキは二人で鍋を囲んでいるこの環境を知っているような気がした。
そう、自分にはお母さんがいたような気がする。でも、まるで思い出せなかった。
雑炊はどこか、母を思い出させる味でおいしくてサキは沢山食べた。母を知らないのに。
「おいしかった?」
「うん、すごくおいしかったよ! 天才じゃないかい?」
サキが満面の笑みでアヤを見て、アヤは頬を赤らめながら微笑んだ。
「よかったわ。サキ、じゃあお風呂、使っていいわよ」
「ありがとう!」
サキは食器を流しに持っていくと好意に甘えてお風呂に向かった。
「アヤの家、きれいだなー! あ、これ、あたし着ていいのかい?」
「どうぞー」
棚に服が畳んで置いてあった。アヤの寝巻きのようだが着させてもらうことにした。
サキは着替えを確認して服を脱ぎ、風呂場のドアを開けた。体を流してお風呂に入った。
「わあ、あったか……え?」
サキが浴槽に入った刹那、風呂場にサムライ姿の男が現れた。いきなりだ。
入ってきた感じではない。現れた。
「うわああ!? どういうこと?」
サキは慌てて体が見えないよう深く風呂に浸かった。
「むっ……み、見ていない……見ていない。す、すまぬ! 今出る故! ここはどこなのだ……」
サムライは着物に袴姿で慌てて風呂場から出ていった。
「な、なんだったんだい?」
サキは混乱しながら一通りきれいにして風呂場から出た。
とりあえず着替えて脱衣所から出るとサムライが居心地悪そうに座っていた。
「栄次、とりあえずお茶でも飲んで……」
「あ、ああ……すまぬ」
アヤに栄次と呼ばれたサムライは肩身狭そうにお茶を飲む。ふとサキと目が合い、顔を赤くして目線をそらした。
「アヤ、知り合いなのかい? このおサムライさん」
「ええ、過去を常に見る神、時神過去神、栄次よ。普段は過去の世界である参の世界にいるの。現代の壱の世界に来るのは異常よ。だいたい何か悪いことが起こってるってこと」
アヤの説明にサキは眉を寄せた。
「と、いうか、絶対あたしの裸見たはずだよ」
「すまぬ……見るつもりはなかったのだ……」
栄次はさらに萎縮し、眉を下げたままお茶を見つめていた。
「栄次は大丈夫よ。あなたにひどいことはしないわ。私はお風呂に入るわね」
「アヤ、気まずいのだが」
栄次が顔を赤くしたままアヤに小さく声を上げるがアヤはさっさとお風呂に行った。
「ま、まあ、事故だからいいよ。それより……過去が見えるのかい? ああ、あたしはサキだよ。あたしの過去、見えるかい?」
サキは栄次と会話をすることにした。
「あ、ああ……サキの過去はなぜか曖昧でよくわからぬ」
「過去神なんじゃないかい?」
「……あなたは……子供で、母と共に暮らしているのでは?」
「え? なんだって?」
困惑した栄次からとんでもない言葉が出た。自分がまだ子供で、母親と暮らしている?
サキには身に覚えがなさすぎて思わず笑ってしまった。
「ただ、それはあなたではないようだ」
さらに謎の言葉をかけられたサキは苦笑いを浮かべた。
「あんた、本当に過去が見えるのかい? 的外れだよ」
「俺の目は真実しか映さない。違う過去は見えるが、それはあなたではない」
栄次の真面目な顔でサキは笑うのをやめた。
「まあ、いいや。あたしはよくわからないし」
サキが一息つくと、風呂場からアヤの叫び声が聞こえた。サキと栄次は慌ててアヤの元へ走っていった。




