エピローグ
「あー、あっちもいるっすよー……」
栄次とリカが話しているすぐ後ろにクゥが立っていた。
「えーと、クゥさん! クゥさんは私達と同じ系統なんですかね?」
リカの質問にクゥはあきれた顔をした。
「あっち、時神っすよ? 最古のー」
「そういえばクゥさんは神力の色んな使い方ができますよね」
「そうっすね。手足拘束する時神の鎖は自分で『縛』と呼んでるっす。時間が進んだり、戻ったりしない常に一定で真ん中の神力を鎖にすることで相手を拘束するっす。アヤ姉さんが得意なんじゃないっすかね? 現代は一番、真ん中っす」
クゥが意気揚々と言う中、リカは目を輝かせ、メモをとり始める。
「ほ、他には……」
「アヤ姉さんがさっきまでやっていた巻き戻しは時神特有の戻りの神力を鎖にして相手に巻くことでできるっす。相手の肉体のみを怪我をする前に戻すという、わりと難しい調整がいるっすね。しかもアヤ姉さんはその後、相手の神力だけを元に戻すこともやっていたっす。
あれはなかなかできないかと。実際、神力が回復するまでかなりの誤差があったっすね。でも、肉体のみでもわりとすごいっすよ。この巻き戻しは『復元』と呼んでるっす。あ、あっちだけだけど」
「……なるほど」
「その他はあっちが空を飛ぶみたいな、時間を止めた神力を足元に置いて空中で浮いたり、神力に季節風を取り込んで空を飛んだり……。
ああ、季節風じゃなくても、進む方向、未来の神力と、時間を止めた神力を両方使えば空を滑るように進めたりするっすね。
時間を止めた神力で空に駆け上がるのを『駆』、空を滑るのを『飛』と勝手に呼んでるっす。トケイ兄さんがそれっぽいのを使ってるっすねー」
「え、トケイさんはウィングで……」
リカはまばたきし、唖然としながら話を聞いている。
「いや、あのウィングはほぼ関係ないっすねー。たぶん、ウィングなくてもトケイ兄さんは飛べるっす。モモについたウィングだけで空を高速で飛ぶのは考えにくいっすね。弐の世界は勝手が違うので、ウィングも想像物の可能性もあるっすけど、トケイ兄さん、無意識に神力を使っているみたいっす」
「ここにきて新事実! も、もっと……」
「一回、後にして飯にするぞ。食ってから情報交換をもう一度しよう」
更夜が色々と食事を持ってきた。
「や、焼きナスだ……」
リカは苦笑いを浮かべ、冷や汗をかいた。リカはナスが苦手である。
「好き嫌いか、リカ。ひとつでも食べろ」
「は、はい……」
栄次に言われ、リカは以前怒られたことを思いだし、ひとつだけ食べることにした。残りは栄次に渡す。
「リカ、お味噌汁、どうぞ」
「わ、ありがとう! おいしそう!」
アヤが野菜が入った味噌汁を持ってきた。一同の腹が鳴る。
チャンバラをしていたルナとこばるとはお腹がかなり空いていたのか、横からつまみ食いしていた。
更夜にふたりとも手を叩かれ、叱られ、半泣きで箸やスプーンを受け取っている。
「おじいちゃん、こっわ~」
サヨが茶化すように笑い、ふわふわの卵焼きに箸をつけ、顔をほころばせた。
「うんま~」
「こっちもうまいぞ、ニンジンしりしりってやつかな? 沖縄の料理なんだって?」
プラズマはニンジンしりしりを大量に食べていた。
「冷やしトマトとブロッコリーの炒め物、漬け物! 最高っす!」
クゥが幸せそうに笑い、リカは冷やしトマトに目が行く。
「フライドポテトだー!」
「ルナ、ずるい!」
「ルナ、口に入れすぎ!」
ルナ、スズ、こばるとには一皿に盛られたフライドポテトが人気のようで奪い合って喧嘩をしているので、更夜が三等分にわけてしまった。
「メインは素麺だ。そのうち、流し素麺などをしても楽しそうだな」
更夜がそんなことを言いながら素麺のお椀を置く。
「おじいちゃん! ルナのポテト少ない!」
「ひいじいちゃん! ポテト少ない! 僕、もっとほしい!」
ルナがなにやら怒り、こばるとも同様に怒り始めた。
更夜はため息をつきつつ、裏で揚げていたポテトをふたりに盛った。
「こ、更夜……あたしのは……?」
控えめにスズも言ってきたのでスズの皿へふたりからポテトを適量かっさらい、置いたところ、また少ないと文句が出ている。
「おい、ルナ、こばると、野菜食べろー」
プラズマがニンジンしりしりやらブロッコリーの炒め物などを皿に盛り、ふたりの机に置いた。
「ぼ、僕、ブロッコリー苦手……」
「ブロッコリーうまっ!」
こばるとの小さな声をかき消すように叫んだルナにこばるとも真似して食べ始める。
「う、うまい!」
こばるとの方がルナよりも下なため、こばるとは時たま、ルナの真似をすることがある。
「だろ? 更夜とアヤが作ったんだぞ? うまくないわけないだろー」
プラズマがそう言い、アヤはなぜか顔を赤くした。
「僕はなんでも好きだよ。サヨちゃんの隣で食べられるなら何倍もおいしい……」
トケイがサヨを見つめながら素麺をすすっていた。
「トケイくん、食べにくい~」
「ご、ごめん! 後で僕が作ったプリン、食べてみて……」
「もちろん! トケイくんのプリン、おいしいからね! お菓子全般、何作っても最高っ!」
サヨにほめられたトケイは真っ赤な顔でサヨを見て、悶えながら食事をしている。
「んんー! 色々とおいしすぎるー!」
「よかったね、トケイくん」
サヨから穏やかな言葉をもらい、トケイはさらに「おいしすぎるー!」と叫んでいた。
夕飯を食べながらプラズマはライとユイに目を向ける。ふたりはプラズマの横で静かに食事をしていた。
「おい、ライと……ユイだったか?」
「わっ、は、はい!」
ライが慌てて返事をし、ユイも素麺から顔を上げた。
「あんた達は……マイを裏切った、という話でいいのか?」
「いえ、その……自分の姉を裏切るとそうそう言えないんですが、時神をゲームに閉じ込めるというのは反対していました。
結局はこの話に乗っているので説得力はないんですけど。ユイは元からほとんど知らずにマイお姉ちゃんと同調して騒いでいただけなので、一番、なんだか……」
「……まあ、話を聞くよ。ただ、逃げたら容赦はしないから覚悟しておけ。俺達を傷つけたことは消えないからな」
「……はい、そうだと思います」
「あたしはそちらが何かを要求してきたらちゃんと答えるぜ。あたしはあんまり知らないけど」
ライとユイはプラズマに頭を下げた。
「とりあえず、食べよう。おいしいだろ? 別に俺が作ったわけじゃないけど、自慢なんだ、ちょっと」
「うん、おかわりしたい!」
ユイがおかずのお皿を持って台所にいる更夜の元へと向かう。
「……調子狂うなぁ……」
プラズマは頭をかきながら、賑やかな夕飯に苦笑いを浮かべた。
……本来ならずっとこれがいいけど、これからなんかありそうだ。
リカはなんであんなに自己防衛をしようとし始めたんだろう。栄次と対峙できなかった。リカの怪我は栄次と更夜が負わせたのか?
芸術神は刀を使えない。
操る能力があるのはマイ。
ユイがコントローラーを握り、マイが更夜と栄次に攻撃させたんじゃないのか?
それでリカがトラウマに……。
仲間にやられて自分で守らないとと思った……。
……なんで、誰もこういう大事なこと、言わないんだよ。
まあ、わかってるが、俺が乱れるのが嫌なんだろ。
……皆、立ち回り良すぎだ。
後、優しすぎる。
俺のルールに合わせてくれてんだろうな。
少し……落ち着かないと……。
とりあえず、俺達はゲームから出られた。今はそれでいい。
後の事は後で考えよう。
「更夜、アヤ! ブロッコリーおかわりー! 大皿もなくなったー!」
「自分で取りに来てちょうだい!」
アヤの強めの一言でプラズマは苦笑いのまま、皿を持って台所へ向かった。
プラズマは時神達と夕食を楽しんだ。
なんだかんだと仲間達とバカ騒ぎしている時間が一番好きなのだ。
大切な仲間に何か大きな危害が加わらないか、神経をとぎすませながら、プラズマは夕焼けと冷たい風を楽しんだ。




