ゲームは遊戯5
スズとトケイが更夜の屋敷に帰ってくると、皆がすでにいた。
「ただいまー……」
「スズ、トケイ! 無事だったか! 話はプラズマが電話した通りだが、サヨは東にいた。皆、あの空間から出られて、怪我したリカ、意識がなかったルナ達は元に戻った」
更夜がふたりを迎え入れた時、なぜか眉を寄せた。
「……え、どうしたの? 更夜」
スズが気がつき、声をかける。
「……ネズミがくっついている……」
スズの肩から日本で長年、人間のペットとなっているハムスターが顔を出した。
「ん? かわいー!」
「あ、これはジャンガリアンハムスターだね! 毛並み的にサファイヤブルーだ」
トケイがうっとりした顔でハムスターを眺める。
「……なんでネズミがスズの肩についてるんだ……?」
更夜はハムスターの背中の皮を慎重に掴む。これは母親が子を運ぶ時、口で掴む場所だ。ある程度の哺乳類は大人しくなる。
持ち上げられたハムスターは更夜に顔を近づけられ、怪しまれている。
「……誰かの使役か?」
「えー、こんなにかわいい子が? 人慣れしてて穏やかな子だよ?」
「だから怪しいんだろうが」
更夜がなめるように見回していると、ハムスターが更夜を見た。
……ご伝言でしゅー、望月更夜さん。
「……ん? ネズミ……から声?」
更夜は気味が悪くなり、少しだけハムスターを離した。
……んー、忘れちゃったでしゅ。主さんからヒマワリの種もらわないとでしゅ! では! ていっ!
ハムスターは短い足で更夜の手に無理やりよじ登り、更夜は反射で摘まんでいた手を離した。
「おい、あぶなっ……」
更夜の制止もむなしくハムスターはそのまま、手から飛び降り、開いていた扉から勢いよく走って去っていった。
「な、なんだったんだ……」
更夜は眉を寄せたが追いかけはしなかった。
「ハムスターってしゃべるネズミなんだ、かわいいー!」
スズがのんきにそんなことを言う。
「ネズミがしゃべるわけねぇだろうが……。……いや、まて。あれはテレパシー……」
「神がよく使うテレ電みたいだったよね」
トケイはぼんやりと更夜を見上げた。
「……気味悪い。後で調べるか」
「誰かに使役されてるかもといえばー、さっき、すごい強い忍の魂に会ったよ。猿飛サスケだった。芸術神の笛を持った女の子を守っているみたい」
「なんだと!」
更夜はスズの体を突然に触り出した。
「ちょっと更夜! いやん!」
「変な声、あげんな! 猿飛になんかされてないか? スズの体になにか細工が……」
更夜は珍しく必死でスズを触っていた。
「更夜、僕はすぐに逃げたんだ。スズちゃんが怖がっていたから」
トケイは更夜を落ち着かせる。
「そうか……。さっきのハムスター……猿飛のか? ネズミをつけて俺になにか伝言を……」
更夜はしばらく固まった。
「更夜?」
「いや、違う……。伝言などどうでもいいのか……。この家の場所がわかれば……っ!」
更夜は玄関から外を覗いた。
「オイ、どうしたんだ、更夜……。あ、スズとトケイ! サヨを探してくれてありがとう。連絡遅くなって悪かったな」
プラズマが騒ぎに気がつき出てきた。
「うん、サヨちゃんが無事だったから僕はいいんだけど、探している最中にヤバイ魂に会っちゃってさ……」
「ヤバイ魂?」
「中で話すね。更夜……お部屋で話そうよ……」
トケイに言われ、更夜は頭をかきながらため息まじりに部屋に向かった。
部屋に入るとルナとこばるとがチャンバラをして遊んでおり、アヤは台所におり、栄次はリカに何やら教えていた。
「今、更夜とアヤが夕飯作ってくれてたんだ。詳しい話はさっき情報交換したからあんた達にも言っておくよ」
プラズマが空いてる場所にふたりを座らせる。横にライが肩身狭そうに座っていた。クゥがライに高天原東のルールについて確認させている。
「更夜兄さん! あたし、料理ゲーム作ったんだ! 見て! 包丁をタイミングよくふる、ふる! 横にGOOD! ってでるんだぜ! すげーだろ! この材料をグラフィックにして、効率よく調理できるような……イテッ!」
更夜はユイの頭にゲンコツを入れた。
「食べもんで遊ぶな。クソガキ」
「そんな、頭にゲンコツ入れるなんて……」
「そんなに強くやってない。ほら、さっさと皿を運べ」
「はーい……」
ユイは小さな子供のように純粋だった。更夜も扱いに困る。
アヤは横でため息をついていた。
「更夜、あの子、首謀者なのよね」
「そうだ。ユイが一番、何もわかっていない。あの子の処分はどうなるか、その時が来るまで見守るつもりだ。そもそも、芸術神が何をしたかったのかがわかっていないんだ」
「……まあ、そうね。マイはまだ意識を失っているし」
「あれはたぶん、何をしても吐かない。年神クゥが彼女の神力を故意に放出させて目覚めないように今はしているそうだ」
「そう。マイは逃げる可能性があるのね……」
アヤはすぐに状況を理解してしまう。
「そうだ」
更夜が短く答え、アヤは鍋をかき回しながら、包丁でニンジンを切る更夜を見上げる。
「……更夜もしかして、プラズマに知られたくないことをして、マイを意識不明にしたのかしら。例えば……暴力ではない拷問を……」
「アヤ、ハッキリ言うとそうだ。ユイを従わせられたのも、少しだけ神道的ではないことをした。プラズマの気持ちは組み、尊重はした。プラズマは色々と怒りを抑え込んでいる。
今回は……リカに酷い怪我をおわせたのは俺達だ。あいつらにマリオネットにされた。その前の戦ゲームも犯罪だが、リカの件までプラズマが詳細に知ると、プラズマの抑えていたものが爆発するかもしれない」
「……マリオネット……そういう怖い力をマイは持っている……」
「マイだけではない。ユイもだ。戦ゲームに関しては演出、人形がマイ、BGMがセイ、背景やグラフィック、人物描写はライ、プログラムを組んだのがユイだ。全員クロだ」
「私達をあのゲームに閉じ込めた理由はわからないということね。それであなたは……拷問をしてまで吐かせようとした、空間から出ようとしたというところかしら?」
アヤが尋ね、更夜は頷いた。
「俺はプラズマに話せる範囲しかやってない。仲間を守ろうとするプラズマの感情が、リカの件で爆発しないかが不安ということだ。リカは芸術神に理不尽に暴行されているんだ。しかも俺達に攻撃させたんだ。一番、プラズマは芸術神を許さない」
「ええ……言わない方がいいかもね」
アヤは更夜のフライパンさばきに目を丸くしながら小さく答えた。
「プラズマが言っていたが、俺の兄がこの件を調べているようだ。お兄様に任せて今は待機した方がいい」
「そうね……」
「アヤ、俺はお前達を守る。お前は特に俺の孫だ。こばるとはひ孫だな」
「……ありがとうございます。お祖父様」
アヤの一言に更夜はわずかに顔を赤くした。
「いや……アヤからお祖父様と呼ばれると気恥ずかしいな……」
「そうかしら……」
ふたりは夕飯を話しながら作った。
※※
リカと栄次は和室で紙を丸めた棒を持ち、戦いの練習をしていた。
「まだ体が戻っていない。無理はするな。息を吐いてから胴を狙ってこい」
「は、はい……!」
リカが栄次の脇腹めがけて紙を丸めた棒を振り抜く。
「動作が大きすぎる。脇をしめて素早く撃ち抜け」
「は、はい……」
リカは栄次と対峙しただけで冷や汗が止まらず、刀を構えている栄次を思い出し、震える。刀を構えてこちら側にいる時は安心していたが、こちらを向いて立っている時、斬られる想像がリカを襲う。ただ、栄次は構えてもなく、刀もなく、紙の棒を持っているだけだ。
リカは震えながら棒を構えるが足が動かなくなってしまった。
先程の戦いでリカは栄次と対峙することが怖くなっていた。
「リカ、肩の力を抜け」
「は、はい……」
「……一度、やめよう」
「は、はい?」
栄次はリカの様子を見て中断した。
「あの、ごめんなさい……。なんだかすごく怖くて……」
「わかっている。少しずつでよい。俺に向かってやるよりも、外の木で練習しようか」
栄次は紙の棒を置き、リカの元へとやってきた。
「ごめんなさい……」
「リカはよく戦った。俺や更夜と対峙したのだ。気持ちが戻るまで休め」
「ですが、休んでいては……」
リカは焦りから目に涙を浮かべていた。
「休め。わかったな」
栄次はリカを落ち着かせるため、リカを軽く抱き、背中を優しくさする。
「……栄次さん……」
「泣くな。大丈夫だ。ゆっくりで良い。だから今は休め」
「……なんで、怖くなってしまったんでしょう? 私に身の守り方を教えてくださっているのに」
「リカが平和な時代を生きているからだ。人殺しが常だった昔の生き残りを見たらそれは怖いはずだ。構えてなくても対峙をしたら斬りかかって来そうで怖いのだろう?
それは正常だ。当時の更夜など戦いに気持ちがない時も恐ろしかったぞ。江戸後期の有名な人斬りの写真などを見てみると、目に光がなく、何を考えているのかわからん目をしている」
「……そうなんでしょうか……」
リカは半泣きで栄次を見上げた。
「ああ。故にそれは正しい反応だ」
「せっかく、少しでも身を守れるようにしてもらおうと思っていたのに」
リカはため息をついた。
「急には色々できぬ。剣術でなくとも身を守る手段をゆっくり教えよう。後は、更夜にどうすれば良いか聞いてみる」
「……はい。神力も上手く使えるようになりたいです」
「そうだな。皆が同じ型で特徴のある防御の神力、相手を怯ませる攻撃の神力があれば時神全員を同水準にできるかもしれん」
栄次の一言にリカは目を見開いた。
「……それだ。時神の神力の系統は似ている……。だから型が作れる……。そうしたらルナだってこばるとだって身を守れる。アヤと更夜さんに相談しましょう! あのふたりが一番、神力を扱うのが上手い」
「……そうだな」
栄次はリカに優しく言葉をかけた。




