ゲームは遊戯4
プラズマが全体にようやく連絡ができ、全員の無事を確認し、時神の家から更夜達がいる方の弐の世界にある家の方に向かった。サヨが安堵の表情を浮かべつつ、門を開く。
更夜は芸術神の力で壱の世界にいられているようだ。
アヤが怪我をした者の時間を巻き戻し、様子を見ていたが、更夜達がいる家で回復させようと考えがまとまる。
特にルナだ。
ルナは元々、壱(現世)の世界にはいない。
「ルナが……時空神に?」
更夜がルナを抱えつつ、アヤに尋ねた。
「そう。時空神を呼んだらしいの、ルナが……。スサノオから私達を守ってくれた。怪我はしてないの。でも、神力の使いすぎで倒れてしまった……。頑張って戻したわ。でも、まだ完全に戻らないみたい」
アヤはすぐに治せず、申し訳なさそうに更夜を見ていた。
「……ああ、責めてはない。むしろ、感謝を伝えたい。ありがとう……。後、プラズマ……戻ってきて早々、話すことが多すぎるが……」
更夜は時神のおうちに戻ってきたプラズマ、サヨ、こばるとを心配そうに見つつ、言葉を投げた。
「……話は俺達が鶴が引く駕籠から電話した通りだけど、とにかく、東には文句を言ってきた。だけどこちらには芸術神が三柱いる。特に首謀者であるマイを捕まえられたことが大きい。あんたらがマイを捕まえる過程でリカに何かあったんだろ?」
プラズマは門をくぐりながら尋ねてきた。更夜はルナを抱え、栄次は意識が戻らないリカを慎重に運びながら下を向いた。
リカの傷はアヤが巻き戻した。時期に目が覚めるだろう。ただ、話はこれで終わらない。
栄次や更夜が芸術神に操られ、リカを傷つけたとなれば、プラズマは怒り、芸術神の裁判で非神道的な何かを要求しかねない。改心しかけているユイが今回の首謀者となり、ユイと話す前に厳罰が下りそうだ。
一番監視をしないとならないのは、マイもだが、更夜が泳がすために逃がしたセイだ。
マイとライはクゥが風を操り浮かせて運ぶ。ユイは更夜の後ろを素直についてきた。とりあえず、全員がなんだかんだと、更夜の屋敷に戻ってきた。
更夜はすぐさま倒れた者達への布団を敷き始める。
「しばらく、ここで寝かせよう」
布団にそれぞれ、リカ、ルナ、ライが寝かせられ、マイはクゥが手足を拘束する神力の鎖を巻く。
「……マイは……ワイズに付き出したいところっすけど……ダメなんすよね? 更夜の兄」
クゥは控えめに更夜を見た。
「……ああ、ダメだ」
「わかったっす。拘束してそこの柱にでも縛っておくっす」
クゥは日本家屋内にある柱に意識のないマイを縛り付けた。それを見たプラズマは慌てる。
「お、おい……もうちょっと神道的に……子供の時にされたお仕置きを思い出すからあんま、いい気分じゃないんだが……」
「そういえば……プラズマ兄さんは幼少時代、未来見ができないと泣くと人間達から非人道的なことをされていたっすね。
奈良の時代、あっちは年神としてプラズマ兄さんの屋敷に行ったことあるっすよ。これから時神未来神になる神を泣かせてあやまらせて、柱に縛り付けたり、蔵に閉じ込めたり、ひどい時期は罪人のように笞刑にあっていたり……人間はむごいっす。
プラズマの兄さんはあの時小さな男の子だったっす。神を思いどおりに使いたい人間の心理があっちはずっと怖いっすよ。未来神として高い位置にいたにも関わらず、実際は捕虜っす。
当時の五刑のうちの笞刑なんて、平和的な考えの幼子にやることじゃないっすよ。お尻、痛かったんじゃないっすか? それに暗い閉塞的な空間、兄さん、今も苦手っすよね」
「……千年前の話を出されてもな……。あんた、人間の皮をかぶっていた時代の俺を見ていたのか、悪趣味だな。まったく」
プラズマはクゥに苦笑いを浮かべた。
「ルナのお嬢さんが悪気なく、禁忌に手を染めた時、更夜の兄さんは部屋に閉じ込めて正座させたり、意見を聞かずに怒鳴ったり、お尻を叩くお仕置きをしていたっす。子供にやることじゃないと更夜の兄さんを止めたのも自分と重ねたんじゃないっすかね? 実際今も、あっちを止めたっすよね?」
「……なるほど、あんたが顔を出さなくても正月を家に迎え入れれば、全部筒抜けってわけか。あんた、ワイズ軍だったよな。ワイズに話が全部いっていると考えていいのか?」
プラズマはクゥを軽く睨んだ。
「いんや、あっちがね、話してないから知らないんじゃないっすかねー。あっちは最古の時神。こんな話、いちいち上層部に話さないっす。ただ……」
クゥはプラズマをしっかり見た。
「ワイズはオモイカネっす。オモイカネは世界とつながっているっす。知らないってわけはないかと」
「……まあ、だよな。千年前の俺、うまく生きるために必死な子供だったよ。おたあさま、おもうさまや監視達が未来を見る人間を選んできて、俺の前に連れてくるんだ。仰々(ぎょうぎょう)しく頭なんて下げて。
俺は全部見えちまうから、当時の五刑が目に映って、処されたその人が映って、目の前で頭下げてるその人にそれを震えながら説明するんだ。
その人は泣きながらどうしたらいいのか、拷問されると俺を見る。冤罪だとしても俺は過去が見れない。未来にある事実しか、言えない。
辛くなって泣き叫んだこともある。泣いてあの人を助けてと懇願したこともある。意味なかったけどな。
何の罪を犯したか知らねぇどこぞの優しいじいさんが辛くないかと尋ねてきて、あなたが流罪だから辛いと言ったら、あのじいさん、俺に『おかわいそうに』と言ったんだ。だから……」
プラズマは自分があの時のことをなぜ、こんなにたくさん話しているのかわからなかった。そもそも、こんなに覚えていなかったはずだ。
「俺はあのじいさん、逃がしたんだよ。未来を変えようとして。雨の日を未来見で見て、足音も足跡も消えるそんな日を選んで……」
プラズマが過去を思い出している。これは異様な光景だ。
「未来は変わらなかった。俺には監視が沢山ついていたんだ。俺の行動が見つからないわけはない。そもそも、うまくいかないことだってすでに未来で見ていたんだ。
紅雷王はすべてわかっていて逃がした、逃げられないことも未来でわかっていたはず、人の命をもてあそんでいる、まだ子供だから矯正と教育がいると裏で話され、極秘に教育係が俺の矯正に入った。
言葉は丁寧だったが、従わせるためになんでもやってきた。あれはおもうさまか、おたあさまの指示に違いなかった」
プラズマは頭を押さえた。アマテラスを思い出した。未来を見ていく意味がわからなかった。ずっと、よくわからないまま未来を見た。
なぜ、忘れていた記憶をすぐに思い出せたのか。アマテラスと自分の関係を思い出したからか。
「俺は今も閉塞した暗い場所が怖くてしかたがない。アマテラス様がお隠れになった岩戸の話のように、太陽のない場所に恐怖を感じる。策を練り、あの岩戸からアマテラスを出した司令官は……賢者のオモイカネ……。
太陽の戻らない世界はいずれ、滅ぶ。太陽は近すぎても世界を滅ぼす。俺はアマテラス様の太陽の力を持っていた。
俺はお仕置きで暗い蔵に閉じ込められていたが、俺を監視していた人間らはアマテラス様を知らないわけはない。だから、俺が嫌がる太陽のない場所に閉じ込めた。
アマテラス神力を持つ俺にとって、どれだけ心が傷ついたか、あの人間達にはわからない。平和を愛し、豊かさを愛した俺に、当時の非人道的刑罰、五刑のうち、笞刑をお仕置きとして持ってきた人間に怒りが沸き上がる。
俺は……時間いじりの禁忌を犯したルナがワイズに責められた時、俺がやられていた笞刑をワイズが再現して様子を見ていたということに気付くべきだった。
ルナがやられたあれは重敲きじゃなかった。江戸の重敲きは背中もだ。しかも竹だ。あれは奈良時代にあった笞刑だった。
ワイズが持っていたのは笞杖だ。おまけにあいつはルナの尻しか笞を入れてない。奈良時代の刑罰じゃねぇか。奈良時代は尻にしか笞を入れないんだよ。あいつ……俺がアマテラス様を思い出しているか毎回静かに確認していたんだな……」
プラズマはルナを叱る更夜を思い出す。あの時、必死に動いたのは小さな女の子が相手だったという面もあるが、それよりも心のどこかで覚えてなかった記憶が反応していたのかもしれない。
……なぜ、更夜は彼女を部屋に閉じ込めて泣かせていたのか、なぜ、泣いている彼女に追い討ちをかけるように痛みを加えているのか……わからなかった。いや、表向きはわかっていた。
自分がなぜ、こんなにも動揺していたのかがわからなかった。
でもそれがわかったのは今だ。
プラズマはルナと自分を重ねていた。
「ずいぶん、思い出したみたいっすね」
クゥは話を静かに聞き、まっすぐプラズマを見据えた。他の時神は何も言わず、眠っているルナやリカを見ていた。
「……思い出したのは、リカが来たからか?」
「そうっすよ。リカっす。それでプラズマ兄さんはアマテラス様を思い出した」
「……まあ、そうか」
プラズマは暗い蔵に閉じ込められていた恐怖を思い出す。
……ここより出だし給へ(たまえ)!
……ここより出だし給へ!
……ここより出だし給へ!
……免し給へ(ゆるしたまえ)!
……免し給へ!
ここから出してください、ごめんなさいと言い続け、扉を叩き、叫ぶ幼い自分。
必死に恐怖と戦う。アマテラスの力に寄り添っていたいと心が太陽を求める。それを遮断し、教育する人間達。
未来を見ることができる特性を上手く使うことばかりを考え、自分を持ち上げる人間達。
未来はわかる、行き道も見える、それを良いように扱い、操作できることに快感を得る人々。
……俺はゲームの主人公じゃねぇ。
意思を持つプログラムだ。
プラズマは暗い空間に震えながら座り込み、泣く幼い自分を思い出す。
未来見をしなかったり、余計なことをすると極秘で教育される。
それは決まってこの蔵で行われた。まずはこの光の届かない蔵に入れられる。その後、蔵の扉が少しだけ開かれ、わずかばかりの光のまま、柱に縛り付けられたり、柱に手をつかされ、笞で打たれるといったお仕置きが行われる。
プラズマの泣き声や叫び声は蔵の外には漏れない。全部、アマテラスのことをわかった上での人間の行動だ。
そしてプラズマは表向きは人々の上だ。皆が頭を下げてくる。
「……マイは縛り付けないで、手足を拘束するくらいでいい……」
プラズマはクゥにそう言った。
「逃げちゃうっすよ?」
「まだ、意識が戻ってない」
「まあ、そう言うんなら。でも彼女を捕まえるの、大変だったんすから」
クゥがあきれつつ、神力を手足に集中させた。
「プラズマ、芸術神の目的についての尋問はした。後、首謀者のひとりであるユイがわりと話してくれた。今は協力的だ」
更夜がプラズマに答え、プラズマはなんとも言えない顔で頷いた。
その時、ルナ、ライ、リカが目を開けた。
「気がついたか」
栄次、更夜、アヤがルナを見、リカを見、ライが逃げないか確認する。
三柱はそれぞれ、自分が何をしたか思い出すとそれぞれの反応で話し出した。




