高天原東は何を?3
プラズマとこばるとは鶴が引く駕籠に再び乗り込んだ。
「オモイカネのとこにいくのかよい?」
「ああ、高天原東へ頼む」
ツルに尋ねられ、プラズマは特に他には言わず、そう答えた。
「よよい! あんたも大変だねぇー。オモイカネは……」
「ワイズが現在、何かしらで動けねぇんだろ? 禁忌を犯す芸術神を放っておくわけない。あいつは知恵の神、地球ができるできないあたりからいた神だ。システムを狂わせ、壱を改変するリカの存在が許せないのと、リカの存在でシステムが狂ったことで、ワイズ自身のシステムも狂ってきている……はずだ」
「……そこまでわかってて、ワイズのところにいくのかえ? よよい、芸術神の過失を問いに行くと? ジョーシキ外れじゃないかね? よよい!」
ツルは高天原へ飛び立ちながら楽観的に聞こえる声でプラズマに言ってきた。
「もろもろの確認と、サヨがあそこにいるだろ? サヨを連れて帰る」
「なるほどねぇー。まあ、芸術神の、音括セイが天狗に守られていて、どこぞの忍者らの魂を味方に付けてなんかやっているというのはワイズの側近、天御柱には言わないでねー、よよい!」
ツルの言葉にプラズマは眉を寄せた。
「……どういうことだ? セイはライの妹だろ、マイ、ユイともなんか関係するのか」
「今はまだ、知らないかもしれないがねぇ、あんたは未来神さ。全部知る。弐の(夢、霊魂)世界を飛ぶやつがれは、セイが動いていることを知っている。それをワイズに話すなと言っている」
ツルが珍しく楽観的雰囲気を消して静かにそう言った。
「……なんだよ。今回、芸術神側の肩を持つのか? 神に対し、中立なツルが」
「中立だよぃ。天狗様のな、気持ちをくんだだけよい」
ツルはそこから何も言わずにプラズマとこばるとを高天原東まで送り届けた。
「ほれ、ついたよい」
「天狗ねぇ。セイの味方をしているのがカラス天狗というわけか。鳥同士なんかあるのか?」
プラズマはこばるとを地面に下ろしながら尋ねたが、ツルは何も答えなかった。
「ま、やつがれは行くよい」
ツルは優雅に飛び立った。
「待て。もしや、あんた、サヨを高天原東まで送ったのか?」
遠くへ飛ぶツルにプラズマが声をかけると、ツルは親指を上げて笑顔で去っていった。
「……やっぱりあいつがサヨを乗せたツルだな……」
「プラズマ、この変な金色の城がオモイカネ様の城なの?」
こばるとに尋ねられ、プラズマは苦笑いを向ける。
「変なって……まあ、変だけどな。そうだよ。この金色の天守閣の最上階にワイズがいる。あの天守閣に出入りしている神は東のワイズ軍だ」
プラズマはこばるとを連れて天守閣になぜかついている自動ドアから中に入った。
「……ん?」
プラズマがエントランス部分の椅子にサヨと天記神が座っているのを見つけた。机になにやらトランプが散らばっている。
サヨは不機嫌そうにトランプを見つめ、「パスッ!」と叫んでいた。
「サヨ、次は破産だなー! あっはっはっは!」
「ハートの八を止めやがってぇ!」
どうやらふたりで「しちならべ」をしているようだ。
「サヨ、無事だったか!」
プラズマが慌てて駆け寄り声をかけたら、サヨは驚いて椅子から落ちた。
「わっ! え? プラズマくん!?」
「ねぇちゃん、しちならべしてんの?」
驚くサヨにこばるとも声をかける。
「え、こばると君まで? あたしはクゥって年神に任せようとここで待機してて……」
「クゥちゃんが助けに来てくれてんのか? 更夜達の動きが不明なんだ。俺達は戦中の人間の記憶を使ったゲームに閉じ込められて、俺の力で出たその後は栄次、更夜が芸術神捕縛のため動いたが、再びゲーム世界に飛ばされ、行方不明だ。
俺達……えーと、アヤとこばるととルナと俺は戦後に流行ったレトロゲームに閉じ込められていた……。リカは突然に消されて行方不明。トケイとスズはサヨ捜索に動いてもらっていた」
プラズマは天御柱を睨み付けつつ、状況を説明した。
「行方不明……皆は大丈夫かわからないの? あたしは皆が戦ゲームに参加させられていたのを確認したから東のワイズ軍本部まで乗り込んで聞き込みを……」
サヨは言葉を飲み込んだ。プラズマが怒っていたからだ。
「サヨは無事で良かった。あんたがサヨをここに引き留めていたのか?」
プラズマは天御柱、みーくんを睨みつつ、尋ねる。
「……時神の安否が確認できるまでお嬢さんは保護しておこうと思ってな。お嬢さんを捜索してこちらへお連れする予定だったが、怒って乗り込んできたんで、落ち着かせてトランプをやっていたわけだ」
「お前、ワイズの側近だろ。ワイズからの命令か? ワイズは動いてないのかよ」
「ワイズは動ける状態にない。だから代わりに大年神クゥが動いている。海神のメグも動いている。俺は待機。なんでかわかるか?」
みーくんはハートの「8」をいじわるそうに出しながらプラズマを仰いだ。
「……芸術神姉妹が女だからか」
「そうだ。ワイズは俺の制約がよくわかっている。今回は珍しく動かないことになった。何度も説明しているが、厄神は産み出す女から始末し、世界を混沌に導く。俺は厄神の元締めなんで、他厄神を制御させるために女子への危害を一切禁止にしたわけだ。俺自身も制約をつけている」
「芸術神はお前らの軍だろ。北が被害を受けたぞ」
「ああ、そうだな。時神に甚大な被害が出た。他軍だとしても許されることじゃあない。だから、俺からも望月逢夜を調査として送り出している。あいつはうまくやるんだ。元忍は強いな。なんかしらの情報を掴んでくるはずだ」
みーくんはスペードの「6」をかざし、サヨを見た。サヨの顔が赤くなる。
「そこも止めてたの! 信じらんない、ムカつくー」
「まあ、こんな感じで相手の運を多少、俺はいじれるんだ。わかったか、お嬢さん」
「望月……逢夜。更夜の兄貴か」
プラズマがつぶやき、みーくんは口角をわずかに上げた。
「芸術神は……他にも禁忌を隠している。それを暴いてから捕まえるつもりだ。時神の件も禁忌として罰する。さあて、どういう処分が下るかな? 望月兄弟はあのライという芸術神に寛容になりそうなんで、高天原裁判は外すつもりだ」
「ライは同罪だが……なにやら事情がありそうだ。俺達時神にしたことは東がきっちり処分し、すみやかな原因究明を願う。後にワイズを出せよ、天御柱」
「……口約束はできないが、後で天記に記録させる。時神への賠償も検討する。高天原北には謝罪をし、再発防止につとめる。女の子に心労はいっているか?」
みーくんはスペードの「9」を出しながらプラズマに尋ねた。
「女の子? ああ、ルナか。ルナは戦が怖いと泣いていたぞ」
「待ってください。ルナだけじゃなく、僕も苦しい気持ちになりました!」
プラズマの横からこばるとが声を上げた。
「あァ、君は……黄泉に閉じ込められていた子だな」
みーくんが声をかけるとこばるとは肩をびくつかせながら二、三歩後ろに下がった。
「僕は皆が傷つくのを見たくない! あ、あんたはどういう気持ちで、そ、そこでトランプなんか……」
「やることがないからだ」
みーくんがそっけなく答えた。プラズマはこばるとの発言を制止することなく、一歩下がって見ていた。
「僕達はっ! とても悲しかったし、怖かった! 責任、とってくれますよね? ルナは……怖がってたし悲しがってた。ぼ、僕はゲームは好きだけど、あれは好きじゃない! トランプなんかやってないで、あのゲームの怖さを知ってよ!」
こばるとの子供らしい言葉を聞いたみーくんは突然にトランプを集め、きりはじめた。
「なんだよ、僕はやらないよ! ふざけないでよ!」
「口が悪いな、お前ー。わかってるよ、ごめんな。君も苦しかったんだな。平和思考か。まあ、子供は戦の犠牲者だ。君は優しい男になりそうだな」
「責任をとってって言ってるんだ!」
「責任ねぇ。さっきその話をしていたんだがな。ああ、君に聞きたいんだが、直に責任をとるなら俺は何をしたらいい?」
「え……」
こばるとは配られるトランプを見ながら声を上げた。
「なにしたらいいかと聞いた。責任は取る。芸術神を目の前で苦しめればいいか? それとも俺への代償を求めているのかな。何をしたらいい?」
「……ち、違うよ……。そ、そういうのじゃなくて」
「数字は読めるか? 一から十二まで言える?」
「そ、それはわかるよ! 僕は五歳だ!」
「責任とってほしいんだろ?」
みーくんはトランプを見ながら七を並べる。
「責任とってほしいんじゃないかも」
こばるとは少ししょんぼりした顔で残りの七を並べる。
「わかるぞ、君の気持ち」
「……なにがわかるって言うんだよ」
「悲しかったこと、知っていてほしいんだろ? 皆に知ってほしいんだろ?」
「……僕は平和に暮らしたかったのに、怒っているんだ」
「怒ってる方か」
みーくんは「8」のハートを出す。
運を比較的左右できるみーくんは手元に八や六を持っていた。
「クラブの六」
「クラブの五。で、君は俺に怒って今後、どうするんだ? 俺は皆に言いふらせばいいか?」
「そんなのいいよっ! 僕はね、あんたに……あんたに響いてほしいんだ! あんた、偉いんだよね? なんでわかんないかな! なんでわけわかんないことばっか言うの?」
こばるとはスペードの「6」を出しながら、いらだちつつ叫んだ。
「俺はわかってるぜ。紅雷王が交渉にきたんだ。俺も答えるさ。子供にこんな思いはかわいそうだ」
「……ねぇ」
こばるとはみーくんを仰いだ。
「ん? なんだ?」
「そういえば……僕達をハメた神の中に……僕らと同じくらいの子がいたんだ」
こばるとはトランプに目を落とし、つぶやいた。
「まあ、神なんて年齢ないようなもんだがな」
「あの子、つらそうだった。ずっと……お姉ちゃんにしがみついてて……震えてた」
「……だとしても、東は厳しい罰を与えるだろうな」
みーくんはスペードの「1」を出し、こばるとを見た。
「……出せるのないや……パス。あの子にさ、何するの? 禁忌ってなにするの?」
「……千年単位の封印刑か、禁忌を重ねたとなると……存在を許してもらえなくなる。時神の前で謝罪させてから、時神と東がどうするか決める」
みーくんはスペードの「8」を出してやった。
「……それって、どうなのかな」
「どうなの、とは?」
「ひどいとおもう」
「そうかな。それだけのことをしたんだぜ? 君もひどい心の傷を負ったはずだ、許せるのか?」
「……わからない」
こばるとはスペードの「9」を出した。
「まあ、だからな、原因究明が必要なんだ。結局、どうなのかっていうな」
みーくんはサヨとプラズマも見た。
怒って乗り込んできていたサヨは苦笑いで黙り、プラズマは顔色変えずにみーくんを見返していた。
「あんたらは争いを禁じるルールで有名な紅雷王の一派。こちらも対応が難しい」
「……あんたは信頼してるよ。天御柱。あんたに……こばるとを会わせられて良かった」
プラズマはみーくんにそう答えた。
「時神が組織として結成してからそんなに経ってねぇのに、怖いくらいの統率。あんたの統率力なのか? すごいな」
「……いや、皆が……俺を守ってくれるんだ。俺は年長なだけだよ。あんたみたいにさ、厄神に慕われて怖がられてもいるような、バランスよくはできない。俺達時神は……アンバランスな家族だ」
プラズマはどこかせつなげに目を伏せた。
「ま、そうか。クゥも仲間にいれてくれよ。あの子は最古の時神だ。ワイズ軍だが、時神の味方をする」
みーくんの言葉にプラズマは軽く頷いた。




