0 物語が始まる
ずーっと遠い世界の
漠然とした時の中の
たった一欠片の、お話。
魔法の溢れる世界で起こった
ありがちな、けれど、真実のお話。
次代の王となる、国を愛した男がいた。
何があろうと、大切な人を守ろうとする女がいた。
友情と劣等感に挟まれ、苦しみ続ける男がいた。
自分の欲には忠実に、裏でほくそ笑む女がいた。
笑顔を貼りつけ、愛をただ求めた男がいた。
自分のためだけに生きる、臆病な女がいた。
「俺は馬鹿だったんだ。大きな存在にとらわれすぎて、一番大切なものを見落としたんだ。」
「あの方とあの方の愛するもののためなら、この命を喜んで捨てるわ。」
「僕を救ってくれたあいつが、大好きで、憎かった。僕は、自分だけが苦しいと思っていたんだ。」
「魔法って素晴らしいものよね。ふふ、本当に滑稽。誰かの不幸は私の喜劇。もっと楽しませて!」
「容姿でも能力でも家柄でもない、そんな僕だけを見てくれたあの人を、守りたかったんだ。」
「私は愛されたいの。愛されるために生まれた存在になりたいの。だから、邪魔、しないで。」
己の信念と愛、そして世界の理と変化が交錯する中、
それでも誰もが
自分の大切な何かのために必死だった。
咲き続けた1人の少女を手折ったのは
いったい誰だったのか。
これは、後に聖女と呼ばれた少女の物語。
彼女は最後まで、儚く、美しかった。