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この異世界転生はベタばかり  作者: 龍神慈樹
第一章

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56 『夢見がちな少女』




「ふぅ……素敵です……」


 手に持っている本を静かに閉じて、表紙に書かれている題名を優しく指でなぞった。


「私も、いつか……」


 ラキシアは、昔から本を読むのが好きだった。


 実際、種類を問わずいろんな本を読んだ。

 冒険譚に英雄譚、家族物語、友情物語、成長譚などなど。……復讐譚や悲恋物語は、少し苦手だったけれど。


 いつもワクワクしながら本を開いた。


 その中でもこの本は、ラキシアが一番好きな物語だ。

 それこそ、もう何度読んだか思い出せないくらいに。


「あんた、またそれ読んでるの?」


「はいッ、何度読んでも素敵ですッ」


「ほんと好きね〜」


「お姉ちゃんも読みますか?」


「私は遠慮しとくわ。なんか、現実的じゃないし」


「現実的……?」


「前に読んだけど……ちょっと都合良すぎるというかなんというか」


「そ、そんなことないですよッ」


「だって、お姫様が絶体絶命のときに限って、都合よく勇者様が現れるのよ? なんだか、ありきたりな展開というか、現実的じゃないというか…………うん、やっぱり都合良すぎるわ」


「そ、そこがいいんですッ」


「えぇ〜」


「それにッ、素敵じゃないですかッ?」


「素敵ぃ??」


「そうですッ。私もいつかッ、この物語のお姫様のように運命の人と…………」


「ちょ、ちょっとッ! 変な男に引っかかるのだけはやめてよね! お願いだから!」


「お姉ちゃん!!」


 ラキシアは、恋や愛を描いた物語が大好きだった。




ーーーーーー




「よいしょっと」


「お祈り?」


「はい」


「あんたも懲りないわねぇ。いるかどうかもわかんない神様に、毎日のようにお弁当持っていくだなんて」


「神様はちゃんといますよ」


「ほんとかしら」


「きっと神様にも事情があって、今は会えてないだけです。でも、いつか必ず会えます」


「…………」


「私は、そう信じてます」


「はぁ……わかってるわよッ。……まったく、あんたは言い出したら聞かないんだから」


「え、そうですか?」


「自覚なかったのッ!?」


「えっと……」


「はぁ…………まぁ、いいわ。行ってらっしゃい」


「はい。お姉ちゃん、行ってきま——」


「ラキシア」


「はい……?」


「あんた、いつまで子供用の剣を持っていくつもりなの? ちゃんとあの剣を持っていきなさい」


「あー、これですか……その、どうしても愛着が、湧いちゃって……」


「体に合わない剣なんて持って、もしものときどうするの?」


「そ、それは……」


「まぁ、あの森は危険な魔物なんて出ないけど。それでも、何が起こるかなんてわからないんだから」


「は、はい……」


「今日はもういいけど、次からはちゃんとあの剣を持っていくことッ」


「はぃ…………」


「き・こ・え・な・いッ」


「はいッ、わかりましたぁ……」


「ほんとかしら……」


「……ふふふ」


「な、なに笑ってんのよ……?」


「いえ、お姉ちゃんは心配性だなと思って」


「なっ!? だだ、誰のせいよッ! 誰のッ!!」


「ふふッ、いつもお姉ちゃんには感謝してますよ」


「ぐっ、ぐぬぬ………………く、くく、首飾りはッ、み、身に付けてるわねッ?」


「はいッ、もちろんですッ」


「何かあったら、すぐにそれを使いなさいッ! わかったわねッ!?」


「はいッ」


「……はぁ…………私は、あんたの将来が心配よぉ……」


「お姉ちゃん……」


「な、なによ……??」


「なんだか、おばあちゃんみたいですねッ」


「うっっさいわねッ!!」




 カチャ。


「確かに、小さくなりましたね……」


 森の中を歩きながら、腰に携えた剣に触れる。

 乾いた金属音が聞こえた。


 幼い頃はこの剣を振るのも一苦労だったのに、今ではだいぶ小さく感じる。

 姉の言う通り、今のラキシアの体には合っていない。

 それは自覚しているのだが……。


「でも、もっと使ってあげたいんですよねぇ……」


 小さな声で呟く。


 先生に初めてもらった剣。

 そのときから、ずっと使っている。


 ラキシアの宝物。


 だからこそ、体に合わなくなっても使い続けたい。


 ちなみに、姉妹で同じ剣をもらったが、姉の剣は汚れや傷がつかないように大切に仕舞ってある。


 ……私も、そうした方がいいのでしょうか……。


 この剣でも戦えないわけではない、のだが……。


「はぁ……」


 もちろん、魔物の討伐などで本格的に戦うときはちゃんとあの剣を持っていっている。

 でも、この森みたいに危険がないところでは——



「ふざけんなーーーッッ!!!」



「ッッ!?」


 カチャッ!


 ラキシアは咄嗟に剣に手を伸ばし、辺りを見回す。


 ……男の人の、声……?


 ラキシアの周辺には人の気配はない。

 もう少し奥に入ったところにいるのだろうか。


 この森には、基本的にラキシア以外は出入りしない。

 ごく稀に、薬草を取りに姉や先生が入ることもある。

 だが、お祈りが習慣になっているラキシアが、普段は薬草採取も担っているため、人と遭遇することはまずない。


 ラキシアは剣に手を添えて警戒を解かないまま、声のした方へ音を立てないように進んでいく。


 さっき聞こえた声は、どこか切羽詰まったように聞こえた。

 それも、人が出入りしない森の奥からだ。

 もしかしたら、何かの事件なのかもしれない。


 ……お姉ちゃんの言う通り、あの剣を持ってくるべきでした……。


 この先に、何があるのかはわからない。

 自分の体に合った剣を持ってこなかったことに、少し後悔した。


 そして……


「ぁ……」


 ……男の人と……女の子……?


「この苦しみ、から……解放、されるのか?」


「………………そうなんじゃねぇの?」


 木の根元に腰を下ろした男と、横たわっている幼い少女を見つけた。


 ラキシアは二人を観察する。

 森の中を歩くのにあまり適さない服装。

 その服はところどころ汚れている。長い時間、森の中を歩いたのだろう。

 それなのに、森の中を進むための装備も荷物もない。

 あきらかに、ただの旅人などではなさそうだ。


「…………」


 ……ど、どうしましょう……。


『変な男とか見かけたら、すぐに逃げること!』


『で、でも、その人がもし困ってたら——』


『わかったわねッ!!』


『は、はいッ』


 以前した姉とのやりとりが頭をよぎった。


 ……で、でもでもッ……悪い人では、なさそうですし……。


 心の中で言い訳を並べる。


 目の前の二人は盗賊みたいな悪い人には見えない。

 だから、もし困っているのなら……。


『ときには、見捨てることも必要です』


『ッ……』


『まずは、自分の身の安全を最優先するようにしてください。いいですね?』


『で、でも、その人がもし——』


『ラキシアさん。自分の身も守れない者に、何ができるというのですか?』


『ッッ………………はい……』


 姉の次は、先生とのやりとりが頭をよぎった。


「…………」


 先生の言葉はいつも正しい。

 少し厳しいところもあるが、それが自分のためを思っての言葉なのはわかっている。


 わかっているのだが……。


「ッッ」


 キュッと目をつぶる。


 ……お姉ちゃんッ、先生ッ、ごめんなさいッ!


 そして、目を開けてラキシアは足を踏み出す。


 二人からの言いつけを、ちゃんと守らなくてはいけない。

 だが……


 ……ちょっとくらい、いいですよねッ! 困ってそうですしッ!


「あの〜、何かお困りですか?」


 その言いつけを破って、ラキシアは声をかけた。




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