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価値を書き換える俺は、正義を名乗れない  作者: 逆回転カエル


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価値を書き換える俺は、正義を名乗れない⑤

その日を境に。


 俺の中で、何かがはっきりと切り替わった。


 数値は、ただの表示じゃない。


 観察対象でもない。


 ――“操作可能な現実”だ。


 黒崎の変化。


 73から70。


 たった3。


 それだけで。


 人間はここまで崩れる。


(……なら)


 思考は、自然と次へ進む。


(どこまで削れば、どう壊れる)


 止める理由は、もうなかった。


 いや、正確には。


 止める“動機”よりも。


 理解したい“欲求”が勝った。


「……あなた」


 隣で、白峰が低く言う。


「その顔、嫌い」


「……そうか」


「前よりずっと」


 刺さる言葉だ。


 だが。


 思考は止まらない。


「……検証する」


「やめなさい」


 即答だった。


「これ以上は、本当にダメ」


「……0にはしない」


 それだけは、繰り返す。


「それがダメだって言ってるの!」


 珍しく、強い声。


 だが。


「……線はある」


 自分の中では、確かに。


「0は越えない」


「……それ、免罪符になってない」


「わかってる」


 わかっている。


 それでも。


 やめない。


 ギルド内を見渡す。


 人の流れ。


 滞留。


 偏り。


(……低い数値は、固まる)


 受付付近。


 新人。


 失敗続きの者。


(……分配は、そこに落ちやすい)


 まだ仮説だ。


 だが。


(確かめればいい)


 視線をずらす。


 奥。


 人だかり。


 ざわめき。


「……なんだ?」


 自然と足が向く。


 そこにいたのは。


 一人の男だった。


 長身。


 無駄のない立ち姿。


 空気が、明らかに違う。


 周囲の冒険者たちが、距離を取っている。


 視界に浮かぶ数値。


 ――128


(……高すぎる)


 今まで見た中で、明らかに突出していた。


「……あの人」


 白峰が小さく呟く。


「ギルドの上位よ」


「名前は?」


相馬そうま 鷹也たかや


 その名を聞いた瞬間。


 周囲の空気がわずかに変わる。


「“失敗しない男”って呼ばれてる」


(……失敗しない)


 興味が湧く。


 数値を見る。


 128。


 高いから、成功しているのか。


 それとも。


(成功してるから、高いのか)


 どちらでもいい。


(……削ったら、どうなる)


 その発想が。


 あまりにも自然に出てきた。


「……やめなさい」


 白峰の声が、明確に低くなる。


「その人に手を出すのはダメ」


「……なんで」


「強いからじゃない」


 一拍。


「壊れ方が、大きくなる」


 その言葉で。


 思考が、一段進む。


(……高いほど、落差がある)


 つまり。


(分配も、大きくなる)


 喉の奥が、少しだけ熱くなる。


「……いいな」


「よくない!!」


 白峰が、はっきりと怒鳴る。


「本当にやめて!」


 その声には、恐怖が混じっていた。


「……2だけだ」


「ダメ!!」


 それでも。


 手は、止まらなかった。


 128。


 触れる。


 今までで一番、重い感触。


「……1」


 ほんのわずか。


 128を、127に。


 その瞬間。


 ――歪みが、遅れて来た。


「……っ!」


 今までとは違う。


 遅延。


 そして。


 “広がり”。


 周囲の数人が、同時に違和感を見せる。


「……あれ?」


「ちょっと待て、これ……」


 小さなミスが、連鎖する。


 書類が落ちる。


 ペンが転がる。


 言葉が詰まる。


(……分散してる)


 一点ではない。


(……広く、薄く)


 理解する。


「……なるほど」


 口に出していた。


「高いほど、分散する」


 つまり。


「制御できる」


「やめて」


 白峰の声が、震える。


「もう、それ以上考えないで」


 だが。


 そのとき。


「――おい」


 低い声。


 振り向く。


 相馬が、こちらを見ていた。


 まっすぐに。


 逸らさずに。


「……今、何した?」


 空気が、変わる。


 周囲のざわめきが止まる。


「……何も」


「嘘だな」


 一歩、近づいてくる。


 その視線は。


 明らかに、“気づいている”目だった。


「……妙な感覚があった」


 低く、静かな声。


「一瞬だけ」


 心臓が、強く鳴る。


(……感知した?)


 今まで、誰も気づかなかった。


 なのに。


「……お前」


 視線が、完全に合う。


「面白いことしてるな」


 その言葉は。


 確信だった。

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