価値を書き換える俺は、正義を名乗れない(最終話)
ギルドの喧騒は、いつも通りのはずだった。
だが。
その中心にいる男だけが、違った。
「……お前」
相馬 鷹也。
その視線は、まっすぐこちらを射抜いている。
「妙なことしてるな」
疑いではない。
確信だった。
「……何のことだ」
「とぼけるな」
一歩、距離を詰めてくる。
「さっき、一瞬だけ」
「世界がズレた」
心臓が、強く鳴る。
この男は。
「……見えてるのか」
「見えてはいない」
即答。
「だが、“感じる”」
静かな声。
だが、その中に確かな圧があった。
「……お前、何者だ?」
問い。
だが。
答える必要はなかった。
「……ただの人間だ」
「嘘だな」
相馬は、わずかに笑う。
「普通の人間は、世界を歪めたりしない」
その言葉に。
白峰が、強く息を呑む。
「……やめて」
小さく。
「それ以上、関わらないで」
懇願に近い声。
だが。
相馬は、視線を外さない。
「……面白い」
そう呟いた。
「壊す側か」
その一言で。
すべてを見抜かれた気がした。
「……だったら」
一歩、踏み出す。
「試してみろ」
空気が、張り詰める。
周囲のざわめきが、完全に止まる。
「……いいのか?」
「死ななければいいんだろ」
その言葉に。
白峰の顔が、強く歪む。
「やめて……!」
だが。
もう、止まらない。
視界に浮かぶ数値。
――128
今までで、最大。
(……どこまで通用する)
手を伸ばす。
その瞬間。
「――やめろ」
相馬の声。
低く、重い。
それだけで。
体が、わずかに止まる。
「……それ以上は」
一拍。
「“洒落にならない”」
その言葉に。
初めて、“恐れ”を感じた。
だが。
それでも。
指先は、止まらなかった。
「……1だけだ」
128を、127に。
書き換えた瞬間。
世界が――
“軋まなかった”。
「……?」
違和感。
今までと、違う。
遅れも、分配もない。
「……遅いな」
相馬が、静かに言う。
「……は?」
「来るぞ」
次の瞬間。
“外”で、爆音が響いた。
地面が揺れる。
悲鳴。
そして。
圧倒的な、“歪み”。
「……なんだ、今の……」
理解する。
これは。
「……1じゃない」
呟く。
そう。
「……増幅されてる」
相馬が、笑う。
「やっぱりな」
「高すぎると」
「“収まりきらない”」
背筋が、冷える。
今までの理屈が。
通用しない領域。
「……あなた」
白峰の声。
震えている。
「もうやめて」
懇願。
だが。
思考は、止まらない。
(……まだ上がある)
世界は。
もっと広い。
もっと壊れる。
もっと、歪められる。
「……行くのね」
白峰が言う。
静かに。
「……ああ」
短く答える。
「止めるわよ」
「……好きにしろ」
それでも。
隣にいる。
敵でも。
味方でもなく。
ただ。
そこにいる。
相馬が、笑う。
「いいな」
「面白くなってきた」
その視線は、もう完全に。
“獲物を見る目”だった。
ギルドの外。
まだ、騒ぎは収まらない。
だが。
そんなものは、もうどうでもよかった。
見える。
数値。
世界。
歪み。
そして。
その先。
「……まだ、足りない」
呟く。
世界は広い。
壊せるものも。
まだ、無限にある。
――だから。
これは、始まりだ。




