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21.今後の生き方


 聞こえてきた拍手の主は、確認しなくてもわかっている。ルイツァーリ様が、わたくしの健闘を称えてくれているわ。

 そんな彼に釣られるように、その場にいた方々が拍手を重ねていく。


「ローゼリア嬢、見事であった。罪人を牢へ運べ!」


 陛下から直々に言葉をいただき、頭を下げる。その間に、昏倒したお父様は連行されていった。


 それから躊躇わずにルイツァーリ様の隣に並ぶ。わたくしの行動に、周囲からざわめく声がした。


「陛下。王太子様から聞かれておりますでしょうか」

「聞いてはいるが……そなたには、本当に支障が出ないのだな」

「はい。今はこうして呪いの効果が発動してしまっておりますが、一晩経てば一時解除されます。申し訳ありませんが、その時間の間この場に滞在する許可をいただきたく存じます」

「それは構わない。だが、未婚の男女が一晩というのは……双方にとって外聞が良くないのではないか」

「ルイツァーリ様は、意思が固いお方です。決して、不利になるようなことはされません」


 だから問題ないのだという意思を伝える。

 けれど謁見の間にいた王太子様、アウレリア、お母様、陛下、王妃様、そして壁際に控えていた兵士達までも、わたくしを残念な子だというような目を向けてきた。


「……謁見の間で一晩過ごす事、許可しよう。ただ、二人でよく話し合うように」

「ありがとうございます……?」


 座れるように椅子を届けようと告げた陛下達は、兵士達も引きつれて謁見の間を出ていった。


 陛下がルイツァーリ様に憐憫の目を向けていたような気がするけれど……。


 陛下の言葉に疑問を持っていると、すぐに二人が余裕で座れる長椅子が運ばれてきた。貸し出してくださった長椅子を腐らせないため、ルイツァーリ様と再び手を繋ぐ。


 腰を下ろすと、お母様と王太子様、それにアウレリアが近づいてきた。


「私も失礼させてもらうよ。この先の事は、家族間でよく話し合った方が良い」

「あ、はい……。ご協力、ありがとうございました」


 王太子様が謁見の間から出て行き、アウレリアがじわりじわりと一メートル以内に入ろうとしている。


「お姉ちゃん。今は、大丈夫なんだよね?」

「散々傍で見てきたでしょう? 問題ないわ」


 そう伝えると、アウレリアはわたくしの左側に座った。ぎゅーっと左腕を抱きしめられる。


 アウレリアの頭を撫でてあげたかったけれど、生憎今は両手が塞がっているわ。


「ロゼ。今後のことだけれど」


 ちらりちらりと、お母様がルイツァーリ様と繋いでいる右手に視線を向ける。


「ロゼが嫁いでしまうのは悲しいけれど、応援するわ。あの人は戸籍改ざんの指示を出していたけれど、実行されたわけじゃないの。まだあなたはクノスパル公爵令嬢よ。身分だって申し分ない」

「お、お待ちになって、お母様。それではまるで、わたくしがルイ様と結婚すると聞こえますわ」

「違うのかしら? ここへ来てから、少なくても一ヶ月以上は、ずっと一緒だったのよね? その前までの時間と合わせたら、もっと長い時間を。つまり、あなた達は普通の夫婦よりも濃密な時間を過ごした」

「なっ……!! ち、違いますわ! ルイ様は意思の固いお方です! 身体を清めるときは、お互いに目隠しをしていましたわ!!」

「そういうことじゃないのよ、ローゼリア」


 ゴゴゴと、なぜかお母様の背景に炎のような幻覚が見えますわ。わたくし、何かしてしまったかしら。

 いつも穏やかで声を荒げたことのないお母様が、ルイツァーリ様を見ている。いえ、睨みつけていた。


「クノスパル公爵夫人、失礼いたしました。ご挨拶が遅れた事をお詫び申し上げます」

「皇太子殿下。貴方様の意見を伺ってもよろしいかしら」

「はい」

「わたくしが貴方様に伺いたいことは、たった一つ。わたくしの娘を幸せにできるかしら?」

「そう感じていただけるように、尽力いたします」

「明言しないのね。そんな浅い気持ちじゃ、娘を任せられないわ」

「人の心を覗く事はできません。ですがおれは、ロゼの気持ちを推測できます。様々な感情を迅速に捉え、対応していくと約束します」


 義母と未来の婿として、二人が対峙している。その顔は真剣そのもので、それぞれがわたくしの将来を考えてくれているとわかった。


 けれども。


「お母様、ルイ様。わたくしの気持ちは置いてけぼりかしら?」

「ロゼ、あなたもなぜ意地を張っているのかしら」

「べ、別に意地なんて……」

「この一ヶ月。あなた達はずっと一緒にいたわね。呪いのことがあってもそれを許していたのは、あなた達が相愛だと感じたからよ」

「そ、相愛なんて……」

「皇太子殿下の呪いを解くことは、きっとあなたにしかできないわ。けれど、解呪後のことをきちんと考えなさい」


 お母様は諭すように仰ると、謁見の間を出て行ってしまった。

 その姿を目で追っていたら、アウレリアがぎゅぅっと抱きしめる力を強くする。


「ねぇ、お姉ちゃん。皇太子様のこと、どう思っているの?」

「な、なぜかしら」

「だって、誰が見ても両想いなのに、頑なに認めようとしないんだもん。何か理由があるのかなって」

「り、理由も何も……わたくしは、ルイ様の解呪係。呪いが解ければ、ルイ様には新しい出会いがあるわ。セリリルブローの唯一の継嗣だもの。そこにわたくしがいたら、ルイ様の未来を邪魔しちゃうじゃない」

「何で邪魔だって思うの。皇太子様のこと、好きなんでしょ? だったら、解呪したってことを取引材料にしてでも一緒にいれば良いのに」

「そんな脅しめいたこと、できるわけがないでしょう!」

「おれは、ロゼと一緒にいられるのならどんな方法でも受け入れますよ」

「ルイ様! お口にチャック! それよりもアウレリア。あなた、そもそもわたくし達のことを反対していたのではなくて?」

「お姉ちゃんが幸せになれないならって思っていたけど……ここ一ヶ月、王妃様と会っている時間以外のときに毎回、いちゃついているのを見たから」

「い、いちゃつく!? そんなつもりは……」

「お姉ちゃんは、自分のことを客観視できてないよね。シュリーフェさんも言っていたでしょ? 相愛に見えたって」


 アウレリアからの指摘に、頭を抱えたくなる。けれど物理的に難しく、首を傾げた。


 ここ一ヶ月の状況を振り返る。

 身体を清めた後の髪を拭く役を買って出たことかしら。

 それとも城内で躓いただけで抱き上げられたことかしら。

 はたまた、右手を使えるルイツァーリ様に、なぜかわたくしが食事を食べさせたことかしら。


「お姉ちゃんはさ、どうして自分の気持ちを認めてあげないの?」

「わ、わたくしの気持ちは別に……」

「一ヶ月の間はさ、確かに制御者として毎日忙しそうにしていたけど……。ずーっと二人は一緒にいたんだからさ、その間のどこかでも、皇太子様の呪いを解けたんじゃない?」

「解呪の方法はわかっていないもの」

「でも確か、ロゼは解呪方法について推測を立てていませんでしたか?」

「そ、それは……」

「なになに? お姉ちゃんってば、推測を立てているのに実行しなかったの? そんなの、解呪しちゃうことで皇太子様と離ればなれになっちゃうって思ったってことじゃん」

「ち、違うわよ」

「それなら、今推測した方法をやってみてよ」

「そ、そんなこと、できるわけないじゃない!!」

「お姉ちゃん、顔、真っ赤だよ」


 アウレリアに指摘され、顔を隠したい衝動に駆られる。けれど両側から手を持たれていて、それが叶わない。


「怪し~い。お姉ちゃん、何を推測したの」


 アウレリアが、ニマニマと意地悪そうに笑っている。

 おかしいわね。前世ではこんな風にわたくしをからかうなんて、一度もなかったのに。


「恥ずかしいなら、わたしにだけ教えて」


 アウレリアが、自分の耳に手を当てて内緒話を誘う。

 アウレリアは原作も知っているし、意見を聞いておいても損はないわね。


 わたくしはアウレリアの耳元へ顔を寄せる。


「……わたくしが推測したのは、愛する者同士の、キ、キスよ」

「っ! 良いじゃん、良いじゃん! アリ寄りのアリ!!」

「そ、そうかしら? けれどね、アウレリア。重要なことを忘れているわ。絶対に必要な、条件を」

「だからさ、どうして頑なに拒むのかわからないんだよね。推測を、実践してみれば良いじゃん」

「なぜって、それはだから……」

「それはだから?」

「ルイ様は、まだ未来のある十六歳なのよ? 年上のわたくしが若者の未来を潰してはいけないでしょう!?」

「お姉ちゃん……」


 思わず立ち上がってしまった。

 わたくしは今、どんな匂いを出してしまっているかしら。


 アウレリアが、すごく残念そうな子を見るような目を向けてくるわ。

 そんな反応を見て、しおしおと長椅子に座り直す。

 そうしたらアウレリアが、わたくしの左手に両手を重ねてきた。


「あのね、お姉ちゃん。お姉ちゃんはいつからそんなにお馬鹿さんになっちゃったの?」

「失礼ね」

「だってそうでしょ? どうしてお姉ちゃんが皇太子様よりも年上のなるの? 生まれ月?」

「そうではなくて、わたくしは二十三歳だし、ルイ様は前世のあなたと同じ年だし……」

「まぁ? 精神年齢が違うっていうのはわかるよ? でもさ、今ロゼちゃんの身体年齢はいくつ?」

「十六よ。あなたと同い年じゃない」

「あのさ、お姉ちゃん……あ、わたしがお姉ちゃんって呼ぶから、余計にそう思っちゃうのか」


 アウレリアは一人で納得したように、腕を組んでウンウンと何度も頷いている。けれど呼び方を変えられないのか、そのままの呼称を使う。


「お姉ちゃんが皇太子様との恋愛に踏み切れないのは、前世のことも影響しているよね?」

「それはそうね。だから年齢を」

「そうじゃなくて。わたしもお姉ちゃんに甘えっぱなしだったから良くなかったけど。お姉ちゃん、前世でも恋人を作らなかったでしょ? いつでも、わたしを優先してくれた」

「可愛い妹が甘えてくれるのだもの。そりゃぁ、何よりも優先するでしょう?」

「前世のことは、ありがとう。でも今は、っていうかここは、日本じゃないんだよ? 転生しちゃって、次の人生を歩んでいるんだよ? お姉ちゃんは、ううん、ロゼちゃんは、十六歳の女の子だよ」


 アウレリアから突きつけられた現実に、否が応でも対峙しなければいけなくなる。


 ルイツァーリ様への気持ちなんて、とっくに認めていた。けれど前に進めなかったのは、彼に拒絶されるのが怖かったから。


「……お姉ちゃん。わたしは、お姉ちゃんにだってこの世界を楽しんでもらいたいよ。幸せになってもらいたいよ」

「アウレリア……」


 妹の手がわたくしから離れ、寂しくなった左手が少し寒い。

 アウレリアが立ち上がる。


「わたしはお姉ちゃんの性格をよく知っているから……お姉ちゃんが、きっちりしたいのはわかる。でもさ、どっちが先でも良いんじゃないかな」

「どっち、って……?」

「両想いになってから解呪を試すでも、先に解呪を試すでも。どっちでも結果は変わらないよ。だって二人は、誰が見ても両想いだから」


 そう言うと、アウレリアは謁見の間から出て行ってしまった。






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