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17.再会


 ノインからアハトへ、と馬車で移動していく。


 わたくしを捜すときはかなりの強行だったみたいで、移動にかかった日数は十日。

 けれどわたくしがいるのにそんなことはさせないと抗議したカリアのおかげで、セリリルブローの皇都からツァルドゥーナの王都まで二倍の二十日の行程をかけて到着する。


「……これが全て、魔力暴走で」


 馬車から見える街は、復興の真っ最中だった。


 王太子様とアウレリア様との婚約パレードが行われた城前通りも、石畳も、焦げたり崩壊したりしたみたいね。中途半端に残ってしまっていた建物を、壊すことから始めているみたい。


 するりするりと、馬車は資材の山の間を進んでいく。

 順調に進んでいた馬車が、急に速度を落とした。かと思うと、またすぐに走り出す。


 何かあったのかと窓から外を窺えば、金髪の青年が街の人達に指示を出している所だった。あの方とお話したのかしら。


 馬車はそのまま城前通りを進み、城の中へ入っていく。

 城では配給も行っているらしく、門の隣にある通用扉からは人があふれていた。目を疑ったのは、その配給を行っているのがドレスを着た令嬢だったこと。


 この世界の貴族の基準はお父様だった。その物差しで考えたら、平民になんて貴族は興味がないと思っていたのだけれど……。


 馬車が進めるのはここまでのようで、停車した後扉が開けられた。


 ルイツァーリ様に手を引かれて馬車を降りていると、配給を行っていた女性が駆け寄ってくる。

 貴族にしては珍しい動作だと思っていると、その女性はあの日見た王太子様の婚約者――つまりは、アウレリア様だった。


 ドレスをつまんで動きやすくして駆け寄ってきたアウレリア様は、開口一番に叫ぶ。


「ちょろいな君は!」

「だがそんな所も愛してる?」


 聞こえてきた言葉に、反射的に返す。

 これは確か、妹がはまっていた話の一つ。探偵をする令嬢の相棒である王子が放った言葉だったはず。

 と、いうことは。


「お姉ちゃん!!」

「え、まさか……。ごめんなさいね、転生した影響で名前を思い出せないの」


 ガバッと、全身全霊で抱きついてくる。その勢いが強すぎてうっかりルイツァーリ様との接触が解除されそうになってしまった。

 胸元に顔を埋め、うりうりと顔を擦る仕草は、まさしく前世の妹そのもの。身長差も前世と同じくらいね。

 妹の後頭部を、以前と同じようにポンポンと叩く。


「ふふっ……。お姉ちゃんだぁ」

「アウレリア様。この世界では貴族になったのでしょう? それらしくしないとダメよ」

「ど、どうしちゃったの、お姉ちゃん!? そんな、お嬢様みたいな言葉使いなんて! お姉ちゃんは、もっとこう、野性味あふれる感じだったじゃん」

「どういうことよ。少なくても、以前のわたくしは普通の話し方だったでしょう?」

「お姉ちゃんなのに、お姉ちゃんじゃない……」

「転生の影響よ。身体に合わせた話し方をしないと体調が悪くなるの。アウレリア様は大丈夫かしら」

「うぅ……。お姉ちゃんだとわかっているのに、そんな呼び方されるとむず痒くなる。ねぇ、お姉ちゃん。わたしの名前、呼び捨てにすることはできないの?」

「どうかしら。やってみましょうか。アウレリア」

「はーい。ど? 体調悪くなっちゃう感じ?」

「名前ぐらいなら、問題ないようだわ」

「やった! お姉ちゃんに近づいた」

「近づいたって何よ。わたくしはあなたの姉よ」


 久しぶりの再会で、永遠と話せそうだった。

 けれど、繋いでいた手をルイツァーリ様が引っ張る。目線を向ければ、カリアもアウレリアを睨んでいる。まるで共闘宣言をされているようだわ。


「ロゼ。その方の紹介をしていただいても?」

「っていうか、あなた誰よ!? どうしてお姉ちゃんとずっと手を繋いでいるのよ! 離しなさい!」

「待ちなさい、アウレリア。これには事情があるの」


 右からはルイツァーリ様、左からはアウレリアから手を引っ張られる。

 カリアはアウレリアを睨んでいるけれど、一応身分は公爵令嬢。強引に手を出せないことが悔しいのか、唇を真一文字に結んでいるわ。


「賑やかだね。とりあえず場所を移動したらどう?」

「ヴァイリッヒ! 街の方は良いの?」


 突然現れたのは、街で見かけた金髪の青年。正面から見ると、星型の虹彩に目が行く。まさしく「物語」の中の人物ね。

 その青年に、アウレリアが駆け寄る。


 カーテシ―をしようとしたら、右手はルイツァーリ様と繋いだままだったから、少々不格好になってしまったわ。

 そもそも、今のわたくしは平民。ドレスを着ていなかったわ。


「ようやく会えたね、【クノスパル公爵令嬢】?」

「お初にお目にかかります。今は、ただのローゼリアでございます」

「その話も聞きたかったんだよね。公爵夫人はまだ、体調が万全じゃないから」

「お母様は、どちらに?」

「私達の話が終わったら、公爵夫人が休んでいる部屋まで案内させるよ」


 ちらりと、王太子様が視線を動かす。

 こんな状況でもまだ手を繋いでいるのかと、問われているような気がしたわ。


 ルイツァーリ様に視線を向けると、わたくしよりも一歩前に出た。右手を胸に当て、一礼する。


「お初にお目にかかります。ルイツァーリ・セリリルブローと申します」

「その名前は……まさか、貴殿は隣国の? 皇太子がいるとは聞いていたが……」

「我が国の事情についても、お話ししたく存じます。ロゼは、ツァルドゥーナにとってもセリリルブローにとっても、重要な人物名ようなので」

「わかった。では場所を移動しよう」


 こうして、わたくし達は馬車から離れ場所を移動した。




 移動した先は、国際会議も行われるという大会議場。長い楕円のテーブルの周囲に椅子が並べられており、壁際には絵画や花が飾られている。


 上座に王太子様が座り、少しずらしてルイツァーリ様とわたくしが座った。アウレリアはさらに少しずれて、王太子様側に着席する。カリアは侍女のため、壁際に控えていた。


「まず我が国の現状から伝えておこうか。ローゼリア嬢は、君の侍女から力の事は聞いたかな」

「はい。わたくしが国にあふれる過剰な魔力を抑える要になっていたと」

「そう。公爵夫人によると、その力はクノスパルの女系に引き継がれるようだ。国のためにも、その力は欲しい。だが……」


 王太子様が、テーブルの下の方に目線を向ける。接触を解くわけにはいかないため、手は繋いだまま。


「こちらとしては、クノスパルの女系が国にいれば良い。ローゼリア嬢には申し訳ないが、産まれた女児はツァルドゥーナへいただけないだろうか」

「わたくしとルイツァーリ様は……ちょ、ちょっと何ですかルイ様。今話をしているのですが」


 もう名前を明かしても大丈夫だろうと呼び方を戻したら、ルイツァーリ様がキュッと手を握って軽く引っ張ってくる。

 愛称で呼ぶと、にっこりと微笑まれた。


「……わたくしとルイ様は、そのような仲ではありませんの」

「そう、なのか?」

「えぇ、そうです」


 はっきりと否定すると、ルイツァーリ様が肩を落とし、その他の人達からはまるで幽霊を目撃したかのような表情をされる。

 あろうことか、壁際に控えているカリアまでもが目を見開いていた。


「お姉ちゃんと恋人じゃないなら、さっさとその手を離してよ」

「アウレリア。この世界での身分は絶対だとわかっているでしょう? ルイ様は隣国の皇太子。王太子様と婚約しただけのあなたでは、全く立場が違うの。わきまえなさい」

「うぅ……ごめんなさい」

「謝る相手が違うでしょう?」

「申し訳ありませんでした、皇太子様」

「良くできました」


 きちんと謝罪できたことを褒めると、小花が散るような可愛らしい笑顔を見せた。そんなアウレリアを愛で、視線をルイツァーリ様へ移す。


「ツァルドゥーナは、セリリルブローの隣国です。これからも良き隣人であるために、我が国の昔話を聞いてください」


 ルイツァーリ様が、いにしえの魔女と祖先の話を始めた。




 + + +


「……なるほど。そのような事情が」

「はい。先程女児を、というお話でしたが……ロゼとならば宝も得られるでしょう。ですが解呪がされないとなれば、継嗣は一人です。まず自国の存続を考えなければいけません」

「そうか……それは確かに、難しい問題だ」

「そう? 別に難しくなくない? あ、や、難しくなくないですか」


 ぽろっと口にした言葉で議場の視線を集めてしまい、アウレリアが言い直す。


「アウレリア? どういうことかしら」

「お姉ちゃんが国から出てツァルドゥーナは大変なことになっちゃったけど、お城の人達は大丈夫だったわけでしょ? わけですよ」

「確かに、言われてみれば……。王家の方々だけでなく、勤める方々も無事だったのは何か秘密があるのではないかしら」

「秘密というわけではない。単純に、王族や城に勤める者は魔力制御を義務としているだけだ」

「それです! 魔力制御の方法があるなら、国民全員にも義務化すれば良いんですよ!」


 ピシッと王太子様に指を向けるアウレリア。大丈夫かしら。その仕草、不敬にならない?


「限られた人数と、国民全員とでは文字通り数が違う。どれだけ壮大な事かわかっているのか」


 あ、どうやら大丈夫そうね。


「やれることはわかっているじゃない。国民全員の魔力制御。ただそれだけじゃない」

「それだけってなあ……それがどれだけ大変な事かわかっているのか」

「大変? それなら、お姉ちゃんはどうなるの? 国全体の過剰な魔力を抑えるために、自由に恋愛もできないの?」


 アウレリア、それは少し話の方向性が違うのではないかしら?


「お姉ちゃんだけじゃない。わたしはシュリーフェさんの血を引いていないから背負えないけど……お姉ちゃんの子供や、その先の子孫にまで自由を奪うということじゃない! どうして我慢しないといけないの。誰かが我慢をしなければ成り立たない世界なんて、本当に必要!?」

「……確かに、君の言う通りだ。我が国は、クノスパル家の女系に頼りすぎていたな。これまでは、奇跡的にその力が引き継がれてきただけだ。今後、女児が産まれず力が途絶える可能性がある」


 あら。話がまとまったようだわ。


「ローゼリア嬢。国全体で魔力制御すると陛下に進言する。王族や城の勤め人を合わせれば、そこそこ数はいるのだが、軌道に乗るまでどうか国を出ないでもらえないだろうか」

「ヴァイリッヒ? それじゃぁ、お姉ちゃんが不自由なのは変わらないじゃない。わざわざ国を出たのよ? 国に残りたいなんて思うわけないじゃない」

「落ち着きなさい、アウレリア。王太子様、申し訳ないですが無期限というわけにはいきません。しっかりと期限を決めていただきたいです。その間ならば、わたくしも国に留まりますわ」

「一つ、よろしいですか」


 白熱する会議の熱を抑えるかのように、ルイツァーリ様が静かに手を上げた。







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