第6章 襲来02
マナの、グアンベリーとのコミュニケーションをとるための試みが始まった。マナは集中するために、最初に与えられた小屋に一人で籠もる(こもる)ことになった。
マナが小屋に入る前にシェバはいった。
「マナ、もう君のグアンベリーのリングに賭けるしかない。デビルタワー攻略の命運は君にかかっている。頼んだぞ」
レオルドもいう。
「仇をとるんだろ。やるしかねえぜ、マナ」
マナの孤独な戦いが始まった。瑛気の修行のときのように、シェバに頼ることはできない。グアンベリーとのコミュニケーションを図るためのコツも、糸口も掴めない。だが、マナはやるしかなかった。
(テュエルは最期に泣き言なんかじゃなく、俺のことを信じるといってくれた。守る。守れなかった人たちのためにも、俺はこの世界の人たちを闇の手から守ってみせる……!)
エメラルドグリーンのオーラがマナの体から発せられる。マナは瑛気を発動させ、その右手首にはめられたグアンベリーのリングを見る。
すぐにグアンベリーのリングが輝きを放ち、明滅を始める。
マナは耳を澄ませるように、グアンベリーの声がするのを待った。
しかし、目の前に闇がいないせいか、例のグアンベリーの声が聞こえてこない。
マナはグアンベリーのリングに向かって語りかけた。
「グアンベリー、答えてくれ! 俺はあんたと話がしたいんだ!」
しかし、当然のようにグアンベリーは反応しない。頭になんの声も響いてこない。
「グアンベリー、頼む! 聞いているなら、答えてくれ!」
マナは必死に語りかける。だが、そのマナの声もむなしく、グアンベリーは沈黙していた。
「グアンベリー……!」
マナはその晩、何度もグアンベリーに声をかけた。声が枯れるほどに。だが、答えが返ってくることはなかった。
◇
翌朝、シェバとテュエルの母親が朝食を持って小屋にやってきた。そこには椅子に座りぐったりとしたマナがいた。力なくシェバの方を見る。
「まだグアンベリーと会話ができていない。ぜんぜん答えてくれないんだ……」
「そうか」
シェバはマナのことを心配そうな顔つきで見た。
「一晩中、明かりがついていた。寝ていないのだろう? 昨日の今日だ。少しでも眠るべきだ」
昨日、目の前でテュエルを殺されたばかりなのだ。それでなくとも瑛気も発動させたばかりで、大量に使い、グアンベリーとの対話のために、一晩中、発動しつづけていた。マナが心も体も疲弊しきっていることは、シェバにはよく分かっていたのだろう。
「でも、そんな余裕は……」
マナには時間がなかった。月の刻の期限が迫っている。
しかしそれでもシェバは、落ち着いた声でマナを宥める(なだめる)ようにいった。
「食べることだ。そして眠ることだ。瑛気を養うためにも必要なことなんだ。瑛気を発するにはそうとうなエネルギーがいる。どのみち瑛気を発動できなければグアンベリーは呼び出せないだろう?」
その言葉を聞き、マナは納得したように頷いた。確かに疲れている。瑛気もだしづらくなっていたのだ。マナは重い瞼でシェバを見ていった。
「分かった。ありがたくいただくよ。それからちょっと寝る」
そしてシェバの目の前で、用意してきてもらった朝食を食べる。パンに口を付け、スープを飲む。そして目玉焼きにソーセージ、サラダを口に運んだ。
やがて食べ終わると、シェバはそれを確認するように声をかけた。
「よし。あとはちゃんと眠るんだぞ」
「分かってる。いわれなくてもすぐに眠ってしまいそうだ」
疲弊し腹が満たされたマナに急な眠気が襲ってきていた。抗い(あらがい)きれないほどのものだった。
シェバたちの見守る中、ベッドに入ると、すぐに意識を失った。
どのくらい時間が経ったのだろう。マナは目を覚ましていた。部屋の中も窓の外も真っ暗だった。
(まだ眠気はあるけど、時間がない。今日一日眠っていたとしたら、明日で月の刻は終わりだ)
明日がデビルタワー攻略にチャレンジできる最後の日だ。シェバの話によれば、明日の夕暮れ時、日が沈むのと同時に三つの月の重なりが解け、月の刻が終わってしまうという。そうなれば、もう、デビルタワー攻略は一〇〇年後まで不可能だ。このまま眠っているわけにはいかない。
重い体に活を入れベッドから抜けだし、瑛気を発動させた。グアンベリーのリングが光りだす。
「頼む、グアンベリー! 本当に時間がないんだ! 答えてくれ!」
だが、声はしない。マナは絶望的な気持ちになりかける。だが、テュエルのことを思いだす。諦めるわけにはいかない。
「やるしかないんだ!」
そう叫ぶと、さらに瑛気を発動させる。体中からエネルギーを絞りだすように、瑛気を迸らせた。
そして、また声をかけた。
「グアンベリー! あんたと会話がしたいんだ!」
声はしない。だが諦めはしない。諦念などとうの昔に置き去りにしてきたのだ。
「グアンベリー! あんたのことが知りたい! そして、俺のことも知ってもらいたいんだああああ!」
絶叫に近い雄叫びをあげた。そして、また辺りが夜の闇の中で静かになった。そのときだった。
「ねえ、それって、恋?」
「は? 今、声が……!」
マナの背後から声がした。マナは後ろを振り返った。するとベッドの上に誰かが腰掛けている。マナは慌てて、部屋の電灯をつけた。
そこには見知らぬ女性がいた。ボブカットの艶やかな栗色の髪、涼しげな瞳はブラウンカラー。まつげが長い。胸元が大きく開かれたピンクのひらひらしたドレスから露だした肌は白絹のようだった。スカート丈は短く、そこから伸びた足は、カモシカのようにしなやかに細い。女の子然とした姿だったが、その佇まい(たたずまい)はりんとしていた。
「グアンベリー! グアンベリーだよね!」
「そうよ。ねえねえ、それって恋なの? アタシのこと知りたいって。あんたのこともアタシに知ってもらいたいんでしょう?」
ついにグアンベリーが答えてくれた。マナは歓喜を抑えきれない。グアンベリーの妙な問いかけも気にならないくらいの喜びがあった。
「俺はずっとあんたと話がしたかったんだ!」
「分かるわ。本命の相手に声をかけてもらえて舞い上がってるんでしょうね。でも、ごめんね? アタシはあんたと恋をするつもりはないわ」
「い、いやあ」
「あ、でも、あんたの気持ちも分からないわけじゃないのよ。ほら、アタシっていい女ってやつ? ただ可愛いだけじゃなくて性格もいいし。ほら、可愛いと綺麗って別々の場合もあるけど、アタシは可愛い上に綺麗っていうか。美しい女って感じ?」
「あの、その……」
「醸しだすオーラが、他の奴と違うっていうの? あんたがアタシに惚れてもしょうがないと思うよ」
(な、なんだ、このグアンベリーって奴は?)
戸惑うマナをよそに、今までの沈黙を取り戻すかのようにグアンベリーの弁舌はつづいた。マナが呆れ返るほどのお喋りだった。
やがてグアンベリーは落ち着いたのか、喋るのを止め、マナにいった。
「そういうわけだから、申し訳ないんだけど、あんたとはつき合えません。ごめんなさい! じゃあね」
「え、ちょ、待って!」
グアンベリーの姿がふっと消え、しんと静まり返る部屋の中、マナは呆然としていた。
「き、消えた……。せっかく会話できたのに……、そんな……」
がっくりとうなだれるマナ。ぼそりと呟いた。
「でも、変な奴だったな……。恋とか勘違いしてたし……」
「ええええええええええええええええええ!?」
「うわ、びっくりした!」
グアンベリーが再び姿を現した。心底驚いたような顔をしている。
「なな、何よ、それええ? アタシ、一人で舞い上がってバカみたいじゃんかああああああ!」
慌てふためくグアンベリーの姿を再び見ることができ、ほっと安心したのもあって思わずマナは笑った。
「ぷふっ」
「あー、笑った。今、笑ったね。い~けないんだあ、乙女の心を弄んだ(もてあそんだ)上に嘲り(あざけり)笑うとかあ」
「い、いや、バカにしてるとか、そういうわけじゃなくて、つい……」
「ついってなんなんのよお。ついってえ。あー、もういい。アタシ消えるから」
「ちょ、ちょっと待って! 俺、本当に、あんたと話がしたかったんだよ! あんた、かっこいいと思うよ! だってあんたの指示通りに指鳴らしたら、闇がドッカアアアアアンって! あんなのあんたの加勢なしじゃできない!」
「そ、そう? そうかなあ……」
(あれ? もしかして、グアンベリーって煽て(おだて)に弱い?)
頬を赤くして照れている様子のグアンベリーに、マナは好機と見て畳みかけた。
「もう本当にかっこいいと思うよ。あんたのいうとおり、醸しだすオーラが違うよ。俺なんかのために力を貸してくれるし、ほら、こうやって会話してくれてる。いい女だね!」
「ほ、ほわあ。そんなに? そんなになの、アタシって? アタシってそんなにいい女なの?」
「もうね、超絶かっこいいし。ていうか、俺、あんたに恋してるかも。かあっこいいわあ……ため息が出るね」
そういい、わざとらしくため息をつくマナ。
「そうかあ。そうだったかあ。アタシ、そんなにかっこいいのかあ。自分では気づかなかったわ!」
(さっき、さんざん、自画自賛してたじゃん……)
「いや、やっぱりアタシってかっこいいのよ。ほら、客観的な他人の意見て、本当の自分の評価だったりするし、アタシっていい女、男を惚れさせちゃう魅力を持ってるんだなあ」
「そうそう!」
「あ、でもお……」
「な、何?」
(やべえ。おだててるのがばれたか?)
若干、冷や汗をかくマナ。だが、グアンベリーは意に介していないようだった。
「かっこいいってだけじゃなあ。アタシ、やっぱり女だしい。アタシって綺麗だと思う?」
「う、うん! 綺麗、綺麗! それに可愛い! 男だったら放っておかないよ!」
「そうかあ、そうだよね! あんた、いい奴だね。名前はなんていうの?」
「俺は、勇希学! マナって呼んでよ!」
「マナね。アタシのことは、ベリーでいいよ」
「よろしく、ベリー!」
「うん。よろしくね、マナ」
グアンベリーはにこやかな表情だった。とても友好的な感じだ。
グアンベリーとのコミュニケーションが成立している。マナは嬉しさで小躍りしたいくらいの気分だった。
「それでさ。ベリーがすごいことは分かってるんだけどさ、でも、今の状態だと、倒せない相手がいるんだよ」
「ん?」
「もっと、ベリーに力を貸してほしいんだ。ベリーとのリンクを、絆を深めたい」
「それって、アタシと特別な契約がしたいってこと?」
「うん!」
「……」
グアンベリーは、あからさまに嫌そうな顔をした。
(あれ? 変な雰囲気になったぞ……)
「あの……ベリー?」
「面倒臭ああああああい!」
「えええ? で、でも、俺たち、もう友達だろ? さっきまでノリノリだったじゃないか!」
「友達って……。アタシら知り合ったばっかりだよ? お付き合いするにも段階ってもんが必要でしょうよ。アタシ、こう見えてガードが固いのよ?」
「そんなあ」
「でも、そうねえ。マナのことは気に入ったし、チャンスをあげないわけじゃないよ。アタシのこと知りたいんでしょう?」
「うん! ベリーのこと、もっとよく知りたい!」
「そうだよね。じゃあ、当ててごらん」
「あ、当てる? 当てるって何を?」
「アタシの好物が何かを」
「好物う?」
「アタシの好きな食べ物だよ。想像力を働かせてごらん。アタシのことばかり考えて、もっとアタシに夢中になってごらんよ」
うふふと笑うグアンベリー。マナは若干、引いていた。
「夢中にって……」
「じゃ、そういうことだから。そうね。期限は月の刻が終わるまでってことで。ちょうどいいでしょ? マナたちはそれで焦ってるみたいだし」
「し、知ってたのか」
「知ってるわよ。一応、リングの中でそっちの様子伺ってたし」
「じゃあ、力を貸してよ!」
「アタシの好物を当てられたらね。またアタシは現れるから、そのときに、答えてごらん。じゃあね、ばっはは~い」
「え、ちょ、ちょっとお!」
そして、グアンベリーはいたずっらぽい笑顔を見せて消えてしまった。
「そんな……待ってくれ! ベリー!」
マナはそこで目を覚ました。ベッドに横たわったまま、グアンベリーを呼ぶように右手を宙に上げていた。
がばりと体を起こす。きょろきょろと周りを見渡した。
チュン、チュン、チュン。
窓の外から、小鳥のさえずりが聞こえる。朝日が射していた。
「え、夢?」
周りをきょろきょろと見回すがグアンベリーの姿はない。
「本当に夢だったのか?」
グアンベリーのリングを見つめるマナ。
「いや、夢じゃない! 俺は確かにグアンベリーと話してたんだ!」
前屈するように上半身を折り畳むと、マナは嘆いた。
「ていうか、ヒントくらい教えてくれよお……!」
「あ、ヒントね」
「え?」
声に驚いてリングを見ると、その上に小人のようなグアンベリーがちょこんと腰掛けていた。
「ベリー!」
「小さくても可愛いでしょ? うふふ」
なんと答えていいのか戸惑っていると、グアンベリーは小悪魔のような笑みを浮かべた。
「で、ヒントね。アタシは自分のことが大好き! だって自分のことを大切に思えない奴が、他人を大切になんてできないでしょう? そういうこと。じゃ、がんばって!」
「え、え、? ちょ、待って!」
今度こそ、グアンベリーは消えてしまった。
「やっぱり、夢じゃなかったのか! それよりなんだ、今のヒントは?」
マナはグアンベリーのヒントの意味を考えた。だが、すぐに分かるはずもない。
「ていうか……」
そのとき、マナは気づいた。強い瑛気を放っていない状態でグアンベリーが姿を見せてくれたことを。
「このままでも普通に会話できるのか? あの小さい姿なら? ベリーとのリンクが深まってるってこと?」
しかしそのことを喜んでいる暇はない。現にグアンベリーの姿は消えてしまった。とにかくグアンベリーの好物がなんなのかを当てなければならない。マナは頭を抱えた。
◇
「好物を当てろといったのか? グアンベリーは」
「そうなんだよ。ベリーの好きな食べ物を当ててみろって」
「そうすれば、特別な契約ができるということか」
その日の早朝、グアンベリーとのコミュニケーションに成功したことをシェバに告げた。そして例の話を。マナとシェバ、そして雷霆棒を担いだ小さなチェインリーたちは村の広場に向かって歩いていた。小屋の中にだけいても、煮詰まるので、気分転換に外で考えることにしたのだ。
「ヒントは一応くれたんだ。ベリーは自分のことが好き。自分のことを大切にできない奴が他人を大切になんてできないって」
「自分が好き、か。禅問答か何かのつもりだろうか」
マナは両腕を頭の後ろで組みながら困った顔をした。
「ベリーの好物ってなんだろう。それって、生前の記憶ってこと?」
「それなんだが、どうやらスピリットアイテムの人格は、こちらに呼びだされていないときは、こことは違う別の世界で暮らしているらしい」
「え、別の世界?」
「うむ。我々はその世界のことを『夢幻界』と呼んでいる。だから、グアンベリーの好物というのも、普段その世界で食べているものと考えていいだろう。もちろん、生前好きだった物である可能性も高いが」
「じゃ、じゃあ、リーくんの人格もそこで?」
マナはチェインリーの方を見た。チェインリーは自分を指さし「オイラ?」といった。
「リーくんの好物って何?」
チェインリーはシェバの方を見た。シェバが「答えてやってくれ」と促す。
「グアンベリーって変な奴だな。その点、オイラなんて分かりやすいぜ。シェバとは力比べで特別な契約をしたしね」
そういうとチェインリーは鼻をほじりだした。お、でかいの取れたといって喜んでいる。
(君もちょっと変わってると思うけど……)
それを言葉にはださず、「頼むよ、リーくん」とマナは両手を合わせた。シェバはそんなチェインリーの行動に慣れた様子で、声をかける。
「でだ。リーは何が好きなんだい」
「オイラ? オイラはなんといっても桃が好きだね! 桃! ありゃあ、最高だ! 甘くていい匂いがしてとろけるね! 一度に一〇〇個はいけるねえ」
「ひゃ、一〇〇……」
マナはチェインリーの大食漢ぶりに目を白黒させたが、シェバは特に驚いた様子もなく、訊いた。
「グアンベリーは何が好きか知らないかい」
「うーん。オイラ、グアンベリーとは面識ないからなあ。会ったことないし。オイラたちの住む夢幻界はとっても広いんだ」
「そうか」
次はマナがチェインリーに訊いた。
「リーくんは桃が好きってことだけど、夢幻界にはどんな食べ物があるの?」
「なんでもあるよ。こっちの世界と同じさ。食べ物屋だってあるし」
「君たちが店を開いてるの?」
「うん。オイラたちって、基本食べなくてもいいんだけど、趣味はあるからさ。店やったり、いろんな奴がいるよ。だってなにもしてないと暇だろ? オイラも趣味でバナナ作ってるし」
チェインリーはそういうと、にっと白い歯を見せた。猿のよう顔がますます猿のように見える。
(ぽい。元が孫悟空だしな)
「あー、桃の話したら食いたくなってきたあ! もう戻ってもいい? 桜桃園っつう桃園があってさ。あそこの桃、最高なんだ。戻ったら食いに行こうっと。あそこの主人は気のいい奴でさ。顔なじみのオイラにゃ、食べ放題のサービスしてくれるの」
チェインリーは桃の味を思いだしたようにべろりと口の周りを舐め回した。
「ありがとう、リー。宿まで雷霆棒を運んでくれたら、夢幻界に戻ってもいいから」
「うん!」
チェインリーは涎を拭って、にひひと笑った。
「うーん。ますます分からないよ。夢幻界にはこっちの世界と同じ食べ物があるってことは、それだけ選択肢も多くなるし」腕組みをして首をひねるマナ。
「確かに。グアンベリーのヒントだけでは情報が少なすぎる」
すると、マナが「あ」といい、何かを思いついた。しかし、すぐに眉根を寄せる。
「瑛気ってオチはないよねえ。スピリットアイテムの人格を呼び起こすのに必要だけど……」
「それはおそらくないだろうな。瑛気を餌に呼び寄せるという表現はできるが、好物ではないだろう」
「だよなあ」
マナは中空を見上げる。
(これは困ったぞ。ヒントの意味も分からないし。どうすりゃいいんだ?)
それから、マナは円の形を成した噴水の周りをぐるぐると周り始めた。シェバはその場で目を瞑り(つむり)考え込んでいる。
(うーん。ベリーの好物……)
それから何周くらいしただろうか。マナが途方にくれていると、シェバの動きに目がいった。
後ろ足で、頭をかいていた。
「ぷっ。シェバ、本当に柴犬みたいだね」
「なぜ?」
シェバは納得がいかないといった顔をした。自分の今の姿に不満があるのだろう。
マナはそのまま噴水を回りながら笑顔でいった。
「だって今、犬みたいに後ろ足で頭かいてたじゃん」
「え」
絶句する様子のシェバ。「気がつかなかった」と気落ちした声をだした。
「まあ、気にすんなよ。別にいいじゃん」
「うむ……」
シェバの方を見ると、しょげ返ったように頭を下げている。
(それにしても、この世界ってどうなってんだろう。シェバは柴の子犬になっちゃうし。シェバとシバ。なんかダジャレみたいだよな)
そう思った瞬間、マナは自分の言葉に「ん?」となり、その場に立ち止まった。
「どうした。マナ」
マナは、グアンベリーのいったヒントを思いだす。
(グアンベリーは自分が好き……ダジャレ、グ……アン……ベリー……)
そして、はっとした顔をして前を向く。
(あくまで可能性だけど、もしかして……!)
「マナ?」
「もしかしたら、分かったかもしれない!」
「本当か?」
シェバが尻尾を振りながら駆け寄ってくる。その姿は、やっぱり柴の子犬だ。
「ダジャレだ。可能性はあるぞ。だって、ベリーってあんなキャラだったし……!」
可能性を見いだしたマナ。月の刻が過ぎる期限は、もう明日に迫っていた。




