6.かっこいいオトナの騎士さまに出会いました
「どなた?」
シスター・リナが扉を開けると、どさっと人が倒れ込んで来た。
「きゃっ!」
リナの口から小さな悲鳴が漏れる。
「ケガしてるわ! 大変。中に入れて手当てをしなくちゃ。ルネ、手伝ってくれる?」
あたしはリナとルネと一緒に、その人を中に運び入れた。
……この方、王家直属の騎士ではないかしら?
どうしてここに?
「大変ご迷惑をおかけしました」
半身を起こして、騎士さまは言う。
鳶色の髪に濃紺の瞳。そして、精悍な顔立ちに鍛えているとひと目で分かる体つき。
かっこいい!
低くて渋い声もいいわ!
たぶん、前世のあたしと同じくらいの年齢。
このくらいの年齢の男性って、魅力的よねえ。オトナっていうか。
ジョスリン殿下はあたしの好みじゃないのよ(だからジョスリン殿下にチャームの魔法かけたのは、ほんとうに物語の強制力のせいに違いないわ)。
この方みたいな人が好みなの!
「大丈夫ですか?」
リナが心配そうに言う。
そうよね。結構なケガだったもの。
「はい、回復魔法をかけてくださったものですから。……あなたが?」
後半の「あなたが?」はあたしに向けられたセリフだ。
好みの男性に見つめられ、どきどきしながらあたしは「はい」と答える。
魔力は基本的に貴族の血筋に受け継がれる。
この場で、貴族らしく見えるのはあたしだけだから、そう言ったのだろう。
「ありがとうございます。……正直、たすからないと思っていました。俺は王家騎士団のセルジュ・アルトーと申します。――あなたさまのお名前をお伺いしても?」
「あたしはサニエ男爵家のアニエスです」
オトナの魅力にくらくらしながら、あたしは平静を装って差し出されたセルジュの手を握り、握手した。
「……アニエスさま? ……もしかしてあなたが?」
ああ、やっぱり王家の騎士団の方ならご存じよね。
例の騒動を。
「ええ。今は謹慎していますの。サニエ男爵領で。その節は騎士団の皆さんにもご迷惑をおかけいたしましたわ」
「……いいえ。あれはあなたが、というよりも、ジョスリン殿下が――それにしても」
セルジュがあたしを濃紺の瞳でじっと見つめる。
前世のときから男慣れしていないあたしは、それだけでどきどきしてしまう。
そして、心臓の鼓動が気になっていたあたしは、ルネの暗い視線に気づかなかった。
「あの?」
「……話に聞いていた方とはずい分印象が違うものですから。それにしても、アニエスさまが回復魔法をお使いになれるとは存じ上げておりませんでした」
「ええ、まあ」
実は、回復魔法が使えるようになったのは、サニエ男爵領に来てからだ。
チャームの魔法の力は消え失せていて(物語から外れたから?)、まるでその代わりであるかのように芽生えた力だった(物語の強制力に逆らえたギフト?)。
「回復魔法は珍しい力です。アニエスさまに出会えたことを感謝いたします」
「お役に立てて嬉しいわ」
サニエ男爵領は豊かな土地だが、その向こうの辺境伯の土地は魔物が出現したり国境に接していたりして、厳しい土地だった。セルジュは辺境伯の要請で魔物討伐に向かい、帰還しようとしたところを強力な魔物と出会い、部下を逃がして一人で討伐したものの、深手を負ってしまったとのことだった。
「それでは、私は王都に戻ります。馬も戻って来ましたし」
「もう? 一晩休まれてから行かれては?」
リナが心配そうに気遣う。
「いえ、アニエスさまの回復魔法で、すっかり元通りです。何より、部下たちが心配していると思いますから、出来るだけ早く王都に帰らねば。……お礼は改めてさせてください」
セルジュはそう言うと、颯爽と馬を走らせ王都に向かった。
「――ふん。もう来なくていいよ」
小さい声だったので、リナたちには聞こえなかったらしい。でも、あたしには聞こえた。ルネの声だった。
「ルネ?」
リナたちは教会に入って行き、外にはあたしとルネだけが残った。
ルネが金髪の髪を揺らし、顔を上げる。
「アニエス先生は、あんなやつが好きなの⁉」
え?
好き?
確かにかっこいいなあって思ったけれど。そして、前世の記憶があるあたしには、あのくらいの年齢の人がいいなって思ったけれど。
「えーと、かっこいいなとは思ったわ」
「あんなの、オヤジじゃないか!」
まあ、十三歳のルネからしたら、三十歳くらいはオヤジかも。
「んーと、オトナって感じよね」
「アニエス先生は十八だから、あんなオヤジ、ふさわしくないっ」
ルネは顔を真っ赤にしてそう言うと、ぱっと教会の中に入って行ってしまった。
「……ルネ?」




