5.金髪碧眼の美少年は天才児
天は二物を与えずって嘘よね。
そんなこと前世のときから知っていたけどさ。
あたしは目の前に座る少年を見つめた。
教会の孤児たちの中で最年長の、金髪碧眼のルネ。
中学生くらいって思った感覚はあっていて、彼は十三歳の少年だった。美少年って言っていい、整った顔立ち。その上、ルネはすごく賢くて教えたことをすぐに吸収してしまう。
「アニエス先生、終わりました」
ルネが解いた算術のマル付けをする。もちろん、全問正解!
ルネは文字を覚えるのも早かったけれど、算術には天才的な才能があるわ。あたしが数年かかってやったことを、すいっと数ヶ月くらいでやってしまいそう。
*
セドリックに相談したすぐ後、あたしはさっそく教会に行った。
「こんにちは。あたし、サニエ男爵家の娘のアニエスです。すみません、この教会の責任者はどなたでしょう?」
「私です。リナ・ラフィと言います」
シスター・リナは少し青ざめた顔であたしを見た。
リナは三十歳くらいのほっそりとした女性だった。
「あの、何か問題でもありましたか?」
「ああ、違うのよ。あたし、相談があって」
「相談、と申しますと?」
「この教会は孤児院も兼ねているでしょう?」
「はい」
「あたしね、彼らに勉強を教えようと思うの」
「勉強を……? 確かに、あの子たちは学問を受けていません。ふつうの家庭では両親が勉強を教えます。しかし、ここでは人手が足りていなくて生活するので精一杯ですから」
そうだよね。
そもそも、人手が足りていない、というのも問題だわ。セドリックと相談しなくては。
でも、まずは出来ることから始めたい!
「孤児院の子たちも十六になる歳には独り立ちするって聞いたわ。少しでも可能性を広げるために、文字が書けたり算術が出来たりするといいかと思ったの」
「そうですね。そうすると、出来る仕事も増えますわ。……アニエスさまが教えてくださるのですか?」
「そう考えているの。……頼りないかもしれないけれど、でも、男爵家で教育は受けたし、王立魔法学園も卒業したのよ」
「頼りないなんて、そんな……! ただ、子どもたちにはいろいろ手伝ってもらっているものですから」
「その辺のことも相談しましょう」
リナと話し合い、教会で私塾を開くことが出来た。私塾と言っても、小さなものだけど。
人手不足に関しては、人員を少し増やして様子を見ることにした。大幅な改善に関しては、やはり領地の財政状態をよく考えて行わなくてはいけない。
それでも孤児院の子たちに勉強を教える時間は出来て、週に二回、あたしは教会に通っている。もう少し回数が増やせるといいのだけれど、まずは出来ることからで。
そんなふうにして二ヶ月くらいが過ぎた。
*
「アニエスさま、お茶にしませんか?」
「リナ、ありがとう」
「シスター・リナ、あたしたちのお菓子もある?」
子どもたちもそばに来る。
「あるわよ」
リナは優しく微笑むと、テーブルにクッキーとお茶を置いた。
子どもたちははしゃぎながらクッキーに手を伸ばす。
楽しそうでよかった。
最初は勉強を嫌がっていた子もいたけれど、勉強する日にはおやつがもらえるので、みな、だんだん勉強するようになったのよね。
「アニエスさま、ほんとうにありがとうございます」
「たいしたことはしていないわ」
「いいえ。アニエスさまのお陰で、子どもたちに笑顔が増えました。……このおやつの差し入れや本、文房具の差し入れなどはアニエスさまの私財でまかなってくださっているのでしょう?」
「あ、うん」
リナが微笑む。
リナって、前世のあたしと同じくらいの年齢よね。そのせいか、とても話しやすい。あたしたちはとても仲良くなったんだ。
「アニエスさまが持ってきてくださるお菓子、いつもとてもおいしいです。ありがとうございます」
そして、リナは察して気遣ってくれる。
私塾の費用をどう捻出するかは、まだ話し合っている最中だった。だけど、必要なものはどうしても出てくる。
だから、すぐに必要なものは、あたし用に割り振られている費用でまかなったのよね。
だって!
ドレス一着分の金額のなんと高額なこと……!
前世の記憶が蘇ったあたしにとって、それはありえない金額だった。
「セドリック、何なの、このドレスの費用は。高すぎるわ!」
「しかし、アニエスさまがパーティに出席されるにあたっては必要な出費かと」
「パーティなんて、もう行かないわよ。そもそもあたしは謹慎しているのだもの。新しいドレスは必要ないわ。……このお金を教会に使ってもいいわよね?」
「それは構いませんが――ただ寄付するだけではいけません。有効的な使い方をしてください」
そんなわけで、私塾に必要なものをあたし用の費用でまかなったのである。
確かに単にお金を渡すよりも、人材育成費に使った方がいいわ。
……ただ、領地全体の無償の教育、となると、お金は全然足りないのだけど。
「ルネ?」
ふと気づくと、ルネは一人でまだ問題を解いていた。
「ルネ、休憩しないの?」
「もう少しやってからにします」
ルネは一心不乱に問題に取り組む。
「ルネは本もよく読んでいます。アニエスさまが持ってきてくださった本も、ほとんど読んでしまったんじゃないかしら」
「そう。じゃあ、また新しい本が必要ね。どんなのがいいかしら?」
――ドンドン!
本について話そうとしたとき、教会の扉が荒々しく叩かれた。




