30.それぞれの行く末
「そ、そんなこと、あるはずがありませんっ! だ、だって結婚もしてないしっ。こここ、子どもだなんてっ」
「そうは言うけどさ、ルネはミヘット伯爵十八、亡き母君セシル十六のときの子どもなんだよ? アニエスとルネはいっしょに暮らしているし、まあそういうことがあっても不自然じゃないよね? ねえ、二人の関係はどこまでいってるの?」
ロレシオ殿下の瞳が怪しく光る。
「どこまでって……それは」
「アニエス。まともに答えることない。……ロレシオ殿下は俺たちをからかって遊んでいるんだよ」
ルネはあたしをひっぱり、抱きかかえるようにした。
「やだなあ、心配してんだよー。……そのようすじゃ、まだだねっ」
「もう、帰れよ!」
「はいはい、帰りますよー」
ロレシオ殿下は実に嬉しそうに帰って行った。
ルネは苦虫を潰したような顔をしている。
「あー、ほんと。こういうとき、もっと年上だったらって思うよ」
ルネはあたしの肩に顔を乗せる。
「……婚約は一刻も早くするとして。……十六、かあ」
はあという溜め息があたしの肩にかかる。
「ルネ」
「……ロレシオ殿下に渡したりしないからな!」
「……うん」
「はあ。どうしたらいいんだろう?」
先のことはまだよく分からないけれど、あたしはまだこのサニエ男爵領でやりたいことがある。教会の子どもたちに勉強を教えたいし、それに学校を作りたい。
ユトリア王国初となる、領民のための学校を。
そのためにもっと領地のことを勉強したい。
「やりたいことは見えているのに」
「では、それを貫いてみてはいかがでしょう?」
セドリックが入ってきて、そう言った。
「やりたいことを?」
「はい。アニエスさまは、学校を作りたいとずっとおっしゃっておられました。早々に着手し、サニエ男爵領になくてはならない人におなりになれば、よろしいのではないでしょうか」
セドリックは新しいお茶を、あたしたちの前に置く。
いい香りが漂う。
「学校、作りたいけど、領地の財政をまだ勉強中だもの。どう財源出せばいいのか、さっぱり分からないわ」
「新しいものを生みだして、それを売り、そのお金を資金に充てる方法もございます」
あ。
「インク羽根ペン!」
いろいろあり過ぎて、すっかり忘れていたけれど、そう言えばセドリックがインク羽根ペンを売ったらどうかと言ってくれていたわ。
「インク羽根ペン、商人に売ってもらったのですが、もう在庫がないそうですよ。実によく売れています」
「嬉しい!」
「しかも、かなりの量の追加注文が来ています」
あれを仕上げるには魔力が必要だから、教会の子たちだけでは作れないのよね。
……あ、そう言えば。
「ねえ、ルネ。実は前から気になっていたんだけど、魔鉱石を砕いて粒を作るとき、あの小さな粒状魔鉱石に仕上げていたのって、もしかしてルネの土魔法?」
「当たり前だろ? 普通に都合よくあんな粒になるわけない」
「あはは! そうだよね」
ルネは、そういうことを言わずに力を貸してくれていたのね。
「じゃあまず、インク羽根ペンを作って売るところから始めようかしら。そうして、資金を貯めるの!」
「別の魔道具を作ってみるのもいいかもしれません」
……セドリック。
あたしは某アニメの主人公じゃないんだから、そんな才能はないわ。
だけど。
あたしは、あたしの人生の主人公だ。
ヒロインとか悪役令嬢とかではなく。
あたしはあたしで、アニエスで、そうしてあたしの人生を生きている。
「あとは寄付を募るのもいいかもしれないわ。寄付者、というか、出資者、というか」
「そのためにも、きっちりした計画書を作らなくてはいけませんね」
「頑張る!」
「俺も手伝うよ」
「……ルネはミヘット伯爵のところに行かなくていいの?」
ずっと聞きたかったこと。
ルネといっしょにいたい気持ちだけでいっしょにいたけれど(危険は去ったのに)、でもルネはそれでいいのか、ずっと心配だった。
「俺の居場所は、アニエスの隣だから」
ルネはそう言ってあたしを抱き寄せた。
あたしの居場所もルネの隣だから。
セドリックは優しく微笑むと、「ではお二人でごゆっくりお考えください」と言って退出していった。




