28.結婚式
あたしはルネといっしょに結婚式のパレードを見る列に並んでいた。
「エレーヌさま、きっとすごくきれいよねえ。どんなドレスかしら!」
「アニエスも結婚式、したくなった?」
「……そ、それは……!」
「俺たちの結婚式も、素敵なものにしようね?」
「まだまだ、結婚するなんて言ってないもん! ……婚約式もまだだし」
「! アニエス、すまない。すぐに手配しよう」
ルネはそう言って、つないでいた手にキスをする。
「ルルルル、ルネ!」
「アニエス、真っ赤だよ」
「だって!」
「あ、パレード来たみたいだよ」
祝福の声が青空に溶けていくみたい。
魔法で花々が舞い、その中をジョスリン殿下とエレーヌさまを乗せた、屋根のない白い馬車がゆっくりと進んで来る。
ああ、エレーヌさま、やっぱりきれいだわ。
レースをふんだんに使った純白のドレス。宝石も散りばめられていて、太陽の光にきらきらしている。
二人は沿道にいる人々に手を振りつつ、ときどき見つめ合って幸せそうに微笑む。
……よかった。
ほんとうに幸せそう。
*
ヴァーン司祭がニコラスに刺されたあと、事態は一気に収束した。
ヴァーン司祭は捕らえられ、現在、これまでの悪事を聞き取り中だ。
「私は『奇跡』の力を持っているんですよ! ロレシオ殿下、あなたとは仲良くやっていこうとしていたではありませんか」
「……僕は軽薄で扱いやすい第二王子だったんだろ? ――残念だったね。あいにく、そこまで馬鹿じゃない」
「私は! 私こそがユトリア王国のことを考えているんです!」
「そういうご託はいいからさ。これまでの悪事、全部話してくれるかな?」
尋問はなかなか進まないようだけど。
「ねえ、ルネ。回復魔法保持者って、もしかしてあたし以前にもいたんじゃないかな?」
ずっと心に詰まっていたことを口にする。
「たぶんね。ロレシオ殿下もそう考えている」
自分と同じ、「奇跡」と呼ばれる回復魔法を持っていた子たちが消えてしまったことを思うと、涙が出てしまう。
「アニエス――泣かなくてもいいんだよ」
ルネはあたしの涙をそっと拭う。
「だけど――かわいそうで」
「……これからを考えていこうよ」
「これから?」
「そう。アニエスは生きている。まだやりたいこともたくさんあるだろ?」
「うん」
「『これから』を奪われた人たちのことを少しだけ考えて、アニエスの『これから』を考えればいい。そうしたらきっと――平和に楽しく生きられるんじゃないかな?」
あっ。
そう言えば、あたし。
「ねえ、ルネ。あたしね、平和に暮らしたいって思って、領地に行ったのよ。婚約破棄事件のあと」
あのときの切迫した気持ちを思い出す。
……やっぱりつらかったな。
だけど。
ルネの横顔を見つめる。
金髪碧眼できれいで賢くて強くて――何より、意志が強くて、折れない優しさを持った人。
会えてよかった。
ジョスリン殿下とエレーヌさまの乗った馬車があたしの目の前をゆっくりと通り過ぎて行く。
花とともに光が舞い散る――エレーヌさまと目が合ったような気がした。
エレーヌさま、あたしに気づいて――笑いかけてくれた?
なんてきれいな笑顔。
ああ、もう充分だ。何もかも。
涙が滲んで、世界が喜びで歪んだ。きらきらと。
*
ヴァーン司祭が捕らえられたあと、あたしは、ジョスリン殿下とエレーヌさまの結婚式への参列を正式に辞退した。
いくらはめられたとは言え、婚約破棄騒動を起こした張本人が幸せの場にいるべきではないと思ったのだ。
「じゃあ、パレードを見たら?」
「ロレシオ殿下! いいんですか?」
「いいよう、もちろん。兄上もエレーヌ嬢も、事の真相を知って、ほんとうはアニエスに参列して欲しいと思っているのだから。……兄上は謝りたいとも言ってたね」
「……謝られる立場にはありませんわ」
「そう言うと思ったよ。……パレードは平民に混ざっての見学になるけど、いいかな? その方がお忍びで見ることが出来るからさ」
そんなわけで、あたしはルネといっしょに平民に混じってパレードを見ることが出来た。
花が舞い、光がきらめき、音楽隊の演奏も風に乗り遠くまで流れていく。
結婚を祝福する歓声、笑顔――ルネの手のあたたかさ。
「アニエス。近いうちに俺たちも、結婚しよう」
うん、と言いかけて。
あれ? ルネって、まだ十三歳よね?
突然我に返る。
「ルネって、まだ結婚出来ないんじゃない?」
「細かいことは気にしなくていいんだよ」
「だって」
「俺さ、平民として暮らしていただろ? 平民はさ、何となくいっしょに暮らして、それで夫婦になったりするんだよ。俺たち、もういっしょに暮らしているからさ。結婚しているようなもんじゃない?」
「なんか違う! ちゃんと届け出を出したり結婚式をしたりするんだもん」
「結婚式はするよ――いつにする?」
「い、いつって? だからまだ――」
「俺、早くアニエスとしたいからさ。……結婚するまでだめって言うし」
それは貴族のたしなみで! ……そもそも恋愛経験皆無だし。……前世も含めて。
恋愛スキル、低っ。
「あ」
ルネに腰を抱き寄せられて、顔が近づいてきて――だめだめ。キスも結婚してから!
「ぷっ」
「あ、もう。なんで笑ってんのよう!」
「かわいいから」
あたしの方がずっと年上なのに、全然勝てる気がしないのはなぜ?




