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24.あたしのため――火事の真相

 えと。

 待って。じゃあ、もしかしてルネがミヘット伯爵のところに行った一番の目的はもしかして。


「ねえ、ルネはあたしのためにミヘット伯爵のところに行ってくれたの? 無実の罪を晴らすために?」

「前からアニエスのためだって言っていたよ。アニエスを狙うやつなんて、許せないからね」

「……あたしとの結婚のため、ではなく?」

「それももちろんあるよ! 結婚って思ってくれた? ねえ、アニエス。俺と結婚する気持ちになってくれたんだ?」


 ルネは満面の笑みを浮かべ、あたしの肩を抱き寄せて囁く。

 顔! 顔がくっついちゃう!

 それに、お父さまもお母さまも、お兄さままでいるのよ。

 無理!


「……妹が顔を真っ赤にしているから、その辺で勘弁してやって?」


 お兄さま、ナイス!

 いや、顔が真っ赤って何よ。……たぶん間違いないだろうけど。


 ルネはふふふと笑うと、「アニエスはかわいいね」と言う。

 もうもう! どっちが年上か分からないじゃない!


「アニエス、話を戻していい?」

「いいわ、お兄さま」

 深呼吸よ。

 気持ちを落ち着かせなきゃ。


「アニエスはね、けっこう危険な状況にあるんだよ」

「お兄さま? でもあの婚約破棄事件は終わったでしょう? ジョスリン殿下とエレーヌさまの結婚式は近々行われるそうだし」

「そうだね。――だけど、事件の根幹となる部分は解決されていないし、アニエスの身の安全もまだ確保出来ていない」

「……どうして?」


 もう物語の強制力から抜け出せたんじゃないの?


「アニエス、また物語がどうとかって言っているけど、これは現実の話だよ。俺たちの、生きた世界の話」

 ルネが困ったような顔――ううん、心配そうな顔で言う。

 ……あたしのこと、ほんとうに思ってくれているんだ。

 そうよね。

 あたし、アニメの世界に転生した! って思っているけど、それでもあたしはここで()()()いるのよね。物語をなぞるのではなくて。


「ごめんなさい、ルネ」

「うん、分かってくれたらいいんだ」


「はい、そこ。結婚前だし、そもそも婚約すらまだしていないのだから、いちゃつかないで!」

「お兄さま! いちゃついてなんて、いません!」

「……ジョスリン殿下と仲良くなった、なんて怖いこと言っていたときは、目が死んでいて怖かったけど。今はいい顔してるよ、アニエス」

「お兄さま」

「でも、いちゃつくのは禁止ね?」


 お兄さまがおどけたように言い、それがおかしくて、みんな笑った。

 部屋中が明るい空気で満ちる。

 あたしのことを信じてくれたお父さま。お母さまもお兄さまも。

 そして、ルネ。

 ありがとう……!


「さて。アニエスのことだけど……どこから話そうかな?」

「……やはり、ハミルトン羊毛商会の火事の一件が分かりやすいのではないでしょうか」

 お兄さまの言葉を受けて、ルネが言う。


「火事? あたしは無事だったわ。モーリスも捕まったし」

「そのモーリスを尋問していたら、おかしなことが分かったんだ」

「お兄さま、おかしなことって?」

「モーリスは操られていたんじゃないかと。アニエスに使われたものと同じ薬草が使われた痕跡があった。ハミルトン羊毛商会が不正をしていたのは事実だが、火を点けたのはモーリスの意志ではなかった可能性が高い。何しろ、火を点けたときの記憶がすっぽり抜け落ちているんだ」


「記憶が?」

 あたしも……。

 婚約破棄事件のとき、チャームをどう使ったのか、まるで思い出せないわ。

 ……似ている?


「アニエス、あのときの火の回り方を覚えている?」

「覚えているわ、ルネ。火の回りがすごく早かった」

「あれは火の魔法によるものだと、俺は思っている」

「火の魔法……ニコラスさまが?」

「それはまだ断定出来ないけれど。あれはアニエスを狙ったもので間違いがないと思う」


「……どうしてあたし、狙われてるの?」

 あたしなんて、単なる男爵令嬢に過ぎないのに。

 あたしは自分の肩を抱いた。顔から血の気が引いていく。――こわい。


「アニエス、落ち着いて。みんなであなたを守るから」

「お母さま……! でも、こわい。どうして?」

「あなたには回復魔法があるでしょう?」

「はい。婚約破棄事件のあと、突然使えるようになって」


 物語の強制力から脱したギフトかと思っていたけれど――違うの?


「この国で、回復魔法を使える人間は誰だ?」

 声を低くして鋭い視線で言うルネ。

 回復魔法の使い手は。


「――ヴァーン司祭!」


「そう、ヴァーン司祭だけが使える、『奇跡』だと言われている。そして、彼はその力でキール教をまとめ上げている」

「あたし、突然回復魔法が使えるようになって。……でも、なんとなく隠しておいた方がいい気がしていて」

「それは正しい判断だったね。ただでも、回復魔法に目覚めたのはもっと前だろうね」

「前?」


「たぶん、王立魔法学園に入学した年に発現したんだ」



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