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23.ルネといっしょに暮らす⁉ ――婚約破棄事件の裏側

「アニエス。俺、アニエスといっしょに暮らすことにしたから。サニエ男爵の許可もとっているし、セドリックもその方がいいと言っている」


 ミヘット伯爵邸から王都のサニエ男爵邸に戻ると、すぐにルネは言った。


「え? サニエ領の男爵邸でいっしょに暮らすってこと?」

「そうだよ。王都のサニエ男爵邸でもいいけれど――まだ領地の方が安全だから」


 安全?

 ……あたしが卒業パーティでやらかしたことを言っているのかしら?

 確かに、あたしは謹慎の身の上。ルネにくっついて王都に来ることが許されるのかどうかも、分からなかった。

 でも、ロレシオ殿下の言葉――「君が王都に戻ることを反対する人はたぶん、いないんじゃないかなあ」――を思い出して、もしかして大丈夫かもしれないと思って……思い切ってお父さまにお伺いしたのよね。ルネについて王都に行ってもいいかと。お父さまはあっさり「いいよ」と言ってくれたわ。……だから、王都に来たのだけれど。

 王都に本格的に戻る、となると、それは別問題なのかもしれない。


 それより!

 俺、アニエスといっしょに暮らすことにしたからって、言った!

 ルネといっしょに暮らす……⁉

 ど、どうしてそんな話に?

 同棲? ――違う違う! 同居! 同居だってば。


 ……ルネがミヘット伯爵家に行ってしまったらさみしいなって思ったから……嬉しいかも、あたし。



「アニエス、ミヘット伯爵邸はどうだったかね?」

「お父さま!」

「顔が見れて嬉しいわ、アニエス」

「お母さま!」

「なんだ、元気そうじゃん?」

「お兄さまも!」


 ルネと話をしていた応接間にお父さまたちが入ってきて、抱き締め合う。

 懐かしい我が家。大好きな家族たち。……久しぶりに会うことが出来た。

 嬉しい。

 謹慎のため領地に行ったときは急いでいたから、ゆっくり別れの言葉を伝えることも出来なかったんだよね。


「君がミヘット伯爵の落とし子か。――なるほど。伯爵の母君、亡き王女殿下にそっくりだね」

 お父さまに言われ、ルネは頭を下げた。

「我が領地にいらしたとは驚いたよ。セドリックから、大変優秀だと聞いている」

「ずっと領地の教会でお世話になっていました。セドリックさんにもよくしていただいています。……サニエ男爵領はとてもいいところですね。人も皆、あたたかくて」

「そうだろう! 自慢の領地なのだ。……それで、君は領地の我が屋敷に住むんだね?」

 お父さまは笑顔を浮かべながら、でも、探るような瞳でルネの顔をじっと見た。

「はい。お話させていただいた通り――アニエスさまのために」

「……アニエスを頼むよ」

 

 お父さまとルネは握手を交わす。

 ……えっと、でも。


「あのう、お父さま、ルネ。あたしのためって、いったいどういうことなの? 卒業パーティのやらかしのこと? でも安全がどうとかって、どういうこと?」


 お父さまとルネは視線を交わす。

 お父さまはルネに頷き、ルネがあたしの方を見て話し出した。


「アニエス。卒業パーティでの婚約破棄事件のこと、覚えているよね?」

「それは、もちろん」

「……アニエスはどうしてジョスリン殿下にチャームの魔法をかけたの? 全然好みじゃないって言っていたよね?」

「――それは」


 物語の強制力だから。

 だけど、そんなこと、言えない。


「チャームの魔法、どうやって使ったの? 今も使える?」

「……使えない」


 それに、どうやったのかも、正直、覚えていない。

 あれはあたしの意志じゃないし。


「アニエスはね、はめられたんだよ」


「えっ?」

「たぶん、直接動いたのは、ニコラスさまだ」

「……どういうこと?」


 ルネはにこっと笑うと、お父さまに目配せをした。

 お父さまが言う。


「私はね、アニエス。お前があんなことをするとはとても信じられなかったんだよ。だから、ずっと真相を探っていたんだ。お前を領地に逃がして」

「……そうだったの」

「そうだ。大切な娘を争いの駒にされて、黙っていられるはずもなかろう? ……しかし、証拠がない。用意周到に練られた計画らしくて、なかなか尻尾が掴めなかったんだ。そんなときだよ。ルネから連絡があったのは」


「……ルネが?」

「ああ。お前が教会で勉強を教え始めただろう? そうしたら、教会に騎士団長や第二王子でいらっしゃるロレシオ殿下がいらしたね?」

「いらしたわ」

「あれは、お前のことを探るためだったんだ」

「……やっぱりそうだったの」

「アニエスが思うような理由じゃない。アニエスのことを被害者だと見て、調べていらっしゃったんだ。ロレシオ殿下は」

「ロレシオ殿下が?」

「そうだ。ルネはロレシオ殿下から秘密裏にあることを頼まれた。そして、それはルネがもともと知っていたことでもあったんだ」


「……何を頼まれたの?」


 声が震えた。

 思っていたよりも、ずっと大きな悪意を感じて。

 ルネはあたしの手をぎゅっと握って、肩を抱く。

 そして、静かに抑えた口調で言った。


「教会にキール教のヴァーン司祭がいらしたら、教えて欲しいと。司祭はユトリア王国の教会を回っているからね。……そして、ヴァーン司祭が特定の誰かと会っていたら、その人物が誰か教えて欲しいと頼まれたんだよ。――俺はそれが誰か、ずっと前から知っていたんだ」


「――ニコラスさまなのね?」

「ああ、俺が教会で暮らし始めた頃から、定期的に会っている」


 キール教の頂点に立つ、ヴァーン司祭。

 遠目からしか見たことはないけれど、いつもにこやかな笑みを浮かべている印象がある。御年はもう六十を過ぎているはずだ。

 それにしても、ヴァーン司祭とは。

 ……あまりにも大物の名で、震えが止まらなかった。

 ニコラスさまと組んで――何を企んでいたの?


 婚約破棄事件のことも、仕組まれていた? なぜ?

 あたしは……操られていた?

 ヴァーン司祭ほどの魔力があれば不可能ではない。


「アニエスは、薬草とヴァーン司祭の魔法とで、操られていたんだよ。証拠もある。ミヘット伯爵に協力してもらって、ニコラスさまが薬草を持っていたことを突き止めたんだ」



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