表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
20/31

20.ミヘット伯爵家

「……なんと! 亡き母上に生き写しだ! 王族の血が入った証である、金髪に碧眼も見事だ。――すまなかった……今まで放っておいて」


 ミヘット伯爵はルネをひと目見ると、そう言ってルネの手を取り、泣き崩れた。

 あたしはルネ一人で行かせるのが忍びなく、ルネといっしょに王都にあるミヘット伯爵家に来ていた。


「……僕がミヘット伯爵の血を引くと、信じていただけるのでしょうか?」


 ルネは殊勝な顔つきで伯爵を見る。

 優等生スタイルでいくことにしたのね。

 

「もちろんだ。その姿が何よりの証拠だ。年齢も合う。……セシルは?」

「母は亡くなりました。僕が五歳のときに」

「……そうだったのか……。名前はセシルがつけたのか? ジャン=ルネと」

「はい。父上に教えてもらった名前だと母は言っておりました」

「……セシルは覚えていてくれたんだな」


 伯爵はそう言うと、また目に涙を浮かべる。

 なんだかすごくいい人みたい、ミヘット伯爵。

 ――だけど。

 あたしはミヘット伯爵と並んで座っている、アーシェラ夫人や二人の妹たちが気になった。


 アーシェラ夫人の顔!

 眉間にしわが寄ってて、険しい顔つき――怖い!

 時期的には、浮気ではない。ミヘット伯爵がルネのお母さんと恋愛していたのは、アーシェラ夫人と結婚する前だから。

 でも、あんな顔をなさるんだ。

 ルネよりも二、三歳年下の妹たち――ビビアンさまとリンジーさまは……ルネを見て、顔を赤らめているんだけど? 特に、姉のビビアンさまは目がハート型になってる。

 ――なんか、もやもやする。


「ところで、ジャン=ルネ。お前に魔力はあるのかい?」


 ミヘット伯爵がそう言ったとき、アーシェラ夫人の目がきらりと光る。

 ビビアンさまとリンジーさまは、どちらも、魔力は弱いとセドリックの報告書にあった。


 貴族社会では、基本的に長男が家を継ぐ。

 しかし、血筋がよくないと後継ぎから外されることもある。なぜなら、貴族たちにとって魔力は最も重要な要素であり、その力は血筋に受け継がれるからだ。

 ルネはミヘット伯爵の長男だと認められた。しかし、母親は平民。だから、魔力が無ければ後継ぎにはなれないだろう。


 アーシェラ夫人にとっては、ルネの魔力の有無は重要問題よね。

 二人の娘は魔力が弱いから。


「……見ていただいても?」


 ルネはそう言うと、手のひらの上で風を起こした。

「おお! これは母上と同じ、風魔法……‼」

 ルネは部屋の窓を風魔法で開けると、気持ちのいい空気の流れを作り、部屋の外へ送り出した。

 庭の樹々がルネの風で揺れ、緑の葉が美しく飛んでいく。

「私は母上から、土魔法しか受け継がなかった。……懐かしいな。母上の風魔法にとても似ている」

 ミヘット伯爵はしみじみと言い、感慨にふけっているよう。


「それで、ジャン=ルネ。いつ伯爵家に戻ってくるのだ? 歓迎するぞ」


 アーシェラ夫人の眉毛が、またもやぴくりと動く。

 あたしははらはらしながら、ルネの顔を見上げた。

 ルネは大丈夫、というふうな笑顔をあたしに見せてから、答える。


「いえ。僕はまだしばらくは、サニエ男爵領に滞在する予定でいます。貴族としての知識やマナーも不十分でしょうから、それを身に付けるためにも。……それに、いきなり僕が伯爵家に入ったら、ご夫人や妹たちの気持ちを損ねてしまうでしょう?」


「そんなこと、ありませんわっ!」


 ルネが言い終わった瞬間に、姉のビビアンさまがぱっと立ち上がって、顔を上気させながら言った。

「わたくし、お兄さまがいてくださった方が嬉しいです! リンジーもそう思うわよね?」

 リンジーさまも深く頷く。

「わたしくしも、お姉さまと同じく、お兄さまといっしょに暮らしたいです!」


「ビビアン、リンジー! 何を言うの」

 アーシェラ夫人は表情を崩し、慌てたように言う。

「だって、お母さま! お兄さま、素敵だもの。王子さまみたいっ。ねっ? リンジー」

「かっこいいし、お優しそうで。こんなお兄さまがいたなんて、嬉しいですわ」

 二人はうふふふと顔を見合わせた。


 アーシェラ夫人はふうと深い溜め息をついた。

「まったく。お前たちが不憫な思いをするといけないと思っていたのに……」


 あら?

 アーシェラ夫人って、ルネを敵対視しているわけじゃなくて、単に娘たちの心配をしていただけ?


 アーシェラ夫人はにっこり笑った。

「ジャン=ルネさま。娘のビビアンとリンジーもこう言っておりますから、どうぞ屋敷にいらしてくださいませんか? わたくしも歓迎しますわ」

「アーシェラ夫人。しかし、それは」

「……娘たちは魔力が弱いんですの。ですから、ジャン=ルネさまが来てくださったら、ミヘット伯爵家は安心ですわ」

「ありがとうございます。しかし、今すぐというわけにはいきません。いろいろとやらねばいけないこともありますから」


 やらねばいけないこと?

 何だろう? インク羽根ペン作りとか?

 知識やマナーはもう十分備わってるわよね。


 ……でも。

 ルネが伯爵家に行ってしまったら、あたし、さみしいかも。


「ミヘット伯爵」

「父と呼んでくれると嬉しい。ジャン=ルネ」

「では、父上。ご相談があります」

「何だ?」

「父上の弟君、つまり僕にとっては叔父にあたるニコラスさまの件です」


「……ニコラス……! あいつ、また何かをやったのか?」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ