19.害虫駆除?
「ルネ――いいえ、ルネさま」
「どうしたんですか? セドリックさん。ルネ、さま、なんて」
「私はアニエスさまの命を受けて、あなたさまをお調べしました」
「男爵家に出入りするのだから当然のことです」
「出入りするから――というよりも、あなたがとても優秀でいらっしゃるからですよ。……お調べした結果、あなたはミヘット伯爵の長男であることが分かりました。ご自身でもご存知ですよね? 名乗りを上げると、決められたとか」
セドリックとルネの視線が絡まる。
ルネの碧眼がいっそう美しく光りを帯びる。
ルネは何かを決意したような表情をして、それから目を細めて、口を開いた。
「――決めたよ。貴族のことは嫌いだったけど、アニエスに出会って、考えを改めたんだ」
セドリックにも装うのをやめたんだ!
あたしは嬉しい気持ちで、二人のやりとりを見守る。
ルネが自分らしくいられる方がずっといい。
「……私に何かお手伝い出来ることはありますか?」
「服を用意してくれるとたすかる。ミヘット伯爵家に赴いても恥ずかしくないように」
「他には?」
「……またあとで頼みたいことがある」
「かしこまりました。――一つ、お伺いしてよろしいでしょうか?」
「何だ?」
「今、このタイミングで名乗りを上げようと決めたのはなぜでしょう?」
「アニエスのためだよ」
あたしと結婚するため? でも。
……なんか、そういうニュアンスじゃないような?
「アニエスさまの?」
「ああ、そうだ。……正直なところ、ミヘット伯爵家には、生涯は関わらないつもりだった。俺は伯爵家にいなくても、うまくやっていける自信があったからね」
それは分かる。
ルネはきっと、何をしても一流になれたと思う。
「だけど、俺はアニエスを大切に思っているんだ。とても。……ね? アニエス」
笑いかけられ、あたしはどきまぎしてしまう。
ルネはくすくす笑うと、すぐに真面目な顔をした。
「正直なところ、アニエスが気にしている身分差というものを乗り越えることは可能だと思うよ」
「じゃあ、どうしてミヘット伯爵家に、自分が落とし子だと言いに行くことにしたの?」
「やっぱり、アニエスのため。俺は、アニエスを害するものは決して許さないんだ。害虫駆除はきちんとしないとね」
ルネはセドリックに意味ありげな視線を送った。
セドリックはうやうやしく頭を下げる。
……いったい、害虫って何なのかしら?
「俺の魔力のことは二人だけの秘密だよ、アニエス」
セドリックが部屋を出ていくと、ルネは顔を近づけて耳元で言う。
耳にルネの息がかかり、すぐそばでルネの声がして――心臓の鼓動が速くなる。
息が止まりそう……!
「う、うん。分かってる。セドリックにも言ってない」
「ありがとう、アニエス。……ところで、アニエスの回復魔法も隠しておいて欲しい。セレジュさまに使って、秘密ではなくなっているかもしれないけれど。それでも、出来るだけ隠しておいてくれると嬉しい」
「分かったわ。……ねえ、ルネ。害虫駆除って、何のこと?」
「アニエスは心配しなくても、大丈夫だよ」




