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18.セドリックとハミルトン羊毛商会、その後のこと

 セドリックに頼んでいたルネの調査結果は、ルネの話を裏付けるものだった。

 ただ、魔力については言及がなかった。

 ……用心深く隠していたのね。


「セドリック、ありがとう。ルネはミヘット伯爵の落胤で間違いがないわね」

「その通りでしょう。……ルネは名乗りを上げると申しておりました」

「あたしもそう聞いたわ」


 あたしと結婚するために、とか何とか!

 ……思い出したら、顔が熱くなってきた。


「アニエスさま。ハミルトン羊毛商会のことでございますが」

「その件、セドリックとも話し合いたかったのよ」

「……その前に。もう一度、謝罪をさせてください。私情が入り、かの商会の報告を正しく見ることが出来ませんでした。ほんとうに申し訳ありませんでした」

「顔を上げて、セドリック。……疫病の流行や先代が急死してしまったことも、大きく関わっているわ。変化の多い数年だった。すぐに見抜くのは難しかったと思うわ」

「アニエスさま……」


「モーリスはハミルトン羊毛商会のために、お金を使ったって言っていたわ。……もちろん許されないことだけど」

「特にアニエスさまとルネを殺そうとしたことは、許されることではありません」

「だけど、あたしもルネも無事だし、それよりハミルトン羊毛商会の今後のことや男爵領としての羊毛産業について、きちんと考えたいの」

「――分かりました」


 あたしはルネを呼び、セドリックと三人で、どのようにするかを話し合った。

 まず、帳簿のつけ方をもっと正確にすること。細かい項目を決め、書式をサニエ男爵家で作ることにした。


「これは他の産業でも使えますね」

 セドリックが感心して言う。

 前世日本人の感覚からすると、この世界の帳簿のつけ方は適当過ぎるのよ。


「羊毛に関しては、品質と銀貨換算率もかなり大事よ。そこ、きちんと書かないと、いくらでも抜け道が出来ちゃう」

「……不正をさせない工夫も必要ですね」

「そうよ、ルネ」


 ルネはあたし以外の人物がいるときは、これまでの一人称が「僕」であるルネでいる。

 ……なんて器用なのかしら?

 でもそれは、出自がバレないように、ほんとうの自分を隠すための手段だったのだとしたら、なんだかとても悲しいことだわ。 


「疫病が流行ったなどの記述を書く備考欄も必要だし、疫病が流行ったときの男爵領としての対応も考えておくべきね」

「それから、羊毛の量の記述も。シアー単位でしか書いていないので、羊毛の量があいまいすぎます。その下の単位の量まで書くべきです」

「ときどき、実態調査もしなくてはいけないわ。不正防止のためにも、或いは間違い防止のためにも」

「……どのくらいの間隔で調査しますか? それも決めないといけません」


 あたしとルネがあれこれ意見を交わしていると、セドリックが涙ぐんだ顔をしているのに気がついた。


「セドリック? どうしたの?」

「いえ。……アニエスさまもルネも、ほんとうに成長されたなあと思いまして。アニエスさまが騒動を起こして、領地に来たときはどうなるかと思いましたが」

「……ああ、そうね」


 あたしは自分がしたことを思い出し、恥ずかしくなった。

 物語の強制力とはいえ、どうしてあんなことしちゃったんだろう?


「そして、ルネ。あなたの成長には目を見張るばかりです。なんて素晴らしい!」

「ありがとうございます。アニエス先生やセドリックさんの教えがいいからです」


 ルネは天使の笑顔を浮かべる。

 ……だめだ。

 あたし、なんかルネの笑顔を見ただけで、息が苦しくなる。


「そして、お二人にお礼を言わせてください。アニエスさまとルネのお陰で、私の大切な友人の忘れ形見であるパウロは、ハミルトン羊毛商会を立て直していくことが出来そうです。今度は、モーリスの言いなりではなく、自分の目で見て自分の頭で考えて、行動できるでしょう。その道は決して平坦ではありませんが。……これもお二人のおかげです。ほんとうにありがとうございました」


「セドリック。みんなで力を合わせて乗り越えましょう。考えなくてはならないことは他にもあるし。……あたし、学校作りたいっていう希望、忘れてないわよ」

「そうでした。アニエスさま。……とても難しいことですが、いっしょに頑張っていきましょう」



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