2.断罪回避して田舎暮らしをしています。……平和だけど、暇過ぎる
サニエ男爵領に引っ込んだあたし。
結構のんびり過ごしちゃってる。
「アニエスさま。お茶のお代わり、いかがですか?」
「ありがとう、ネリー」
ふう。
まったり、ティータイム。平和だ!
王都から離れた田舎の暮らし。
ジョスリン殿下の婚約破棄宣言は撤回され、いろいろあったけれどエレーヌさまとの結婚式の日取りも決まったらしい。
あたしにはお咎めはなしだった。すぐに謹慎宣言したのもよかったみたい。お父さまがうまく立ち回ってくれたのよね。ありがとうお父さま!
あの日、王都の屋敷に帰って、あたしはお父さまに泣きついた。
「お父さま! あたし、間違えちゃったんです」
「どうしたんだい、かわいいアニエス」
「あたしあたし、うっかりジョスリン殿下と仲良くなっちゃって」
「最近、ジョスリン殿下と仲良くなったと嬉しそうに言っていたね」
「でも、ジョスリン殿下の婚約者は、公爵令嬢のエレーヌさまです。あたし、自分の立場のことを顧みず行動しちゃって、エレーヌさまを傷つけてしまったんです」
お父さまはあたしの頭を優しく撫でた。
「アニエス。私はずっと心配していたんだよ、どうなることかと。自分で分かって偉かったね」
「お父さま!」
おとうさまがあたしとぎゅっと抱き締める。
「アニエス、いい子だ」
「あたし、責任を取って、王都から出てきます。サニエ男爵領で謹慎したいと思います」
「分かった。私に任せておくがいい」
娘に甘いお父さまはすぐに行動してくれた。
どうも、本心では、あたしがジョスリン殿下と仲良くなっているのを心配していたみたい。
「アニエス、しばらくの間、領地で大人しく過ごすんだよ」
「分かりました、お父さま!」
あたしはそうして、チャームの魔法の効力が切れる前に領地に来られた、というわけ。
「平和だ……」
クッキーをかじりながら、庭を眺める。
ごはんはおいしいしお茶もおいしいし、領地のみんなは優しいし。
それにどうやら、物語の強制力から逃れたっぽいし。
ああ、よかった! 断罪されて死んじゃうのはごめんだもの。
「……だけど、暇だわ」
前世のあたしは結構忙しく働いていた。だから、こんなふうに時間があると、ちょっとどうしていいのかわからない。アニメとマンガだけが生きがいだったけど、働くことは嫌いじゃなかった。……二十代後半で過労死しちゃったみたいだから、ちょっとそこは反省すべき点だけど。
アニメもマンガもないしなあ。
こんなに時間があったら、アニメ見放題、マンガ読み放題なのになあ。
よくある悪役令嬢ものみたいに、「お菓子を焼くのが好きで!」とか「料理をするのが好きで!」みたいなのもないしなあ。「お菓子焼いたの、みんなで食べて」とか「お料理作ったのよ」とか、絶対に無理。……みんなレシピ覚えていてすごいなあって思いながら見てたのよね。そうそう、家庭菜園の趣味もないわ。だから、ここで農作物作る、なんて出来るはずもない。どうしてあんなふうに農作業が得意だったりするのかしら。あたしなんて、ミニトマト一つ育てられないのに。
それにしても、どうせ転生するなら悪役令嬢の方がよかったわ。
エレーヌさま、ほんと、きれいだったなあ。
あたしは栗毛色の髪を見ながら、エレーヌさまの銀色の髪を思い浮かべた。
でもまあ、あたしはあたしだ!
気を取り直して、少し冷めたお茶を飲んでいると、セドリックが入って来た。セドリックは五十絡みのイケオジで、サニエ男爵家に長年仕えてくれている執事だ。
「アニエスさま。もし、お時間がおありでしたら、領地を見学されてはどうですか?」
「え? いいの?」
謹慎の身だから、やたら出歩いてはいけないかと思っていたのよね。
「旦那さまも、領地内であればそろそろ出歩いてもいいとおっしゃっております」
「嬉しいわ!」




