10.どんな人が好き?
「アニエス先生、結婚式、行くんですか?」
「行かないわよ」
ルネの質問に即答する。
王都には近づきたくない。
――今、どんな物語が始まっているんだろう? それとも物語展開はもうないのだろうか。
登場人物になるのはごめんだわ。
それに。
何より、ここでの生活が楽しいから!
「……アニエス先生、ロレシオ殿下のお兄さんが好きだったんですか?」
「好きじゃないわ」
「でも」
「とにかく、いろいろ誤解があったのよ」
あれは物語の強制力だと思うのよ。
だって、全然好みじゃないもの。自分でもどうしてあんなことをしたのか、さっぱり分からない。
「じゃあ……ロレシオ殿下と結婚するんですか?」
「しないわよ」
「でも」
「そもそも、男爵令嬢では王族と結婚は難しいと思うわ。身分が違うもの」
「身分……」
「そうよ」
この世の中では身分がとても大事だ。
そこには魔力も関係している。少しでも魔力の強い子が欲しいという思惑も絡んでいる。
「身分が違うと、結婚出来ないんですか?」
「難しいわねえ」
「そう、ですか」
ルネはなぜかひどく落ち込んだ顔をする。
「ルネは、あたしはロレシオ殿下と結婚するといいと思っているの?」
「そんなこと、思っていません!」
ルネの力強い視線があたしに刺さる。
碧い瞳。なんてきれいなんだろう? 金色の髪も、陽に透けてきらきらしている。
「……ルネはきれいね」
「えっ」
途端にルネは顔を赤くする。
かわいいなあ。弟ってこんな感じかな?
前世は一人っ子だったし、今はお兄さましかいないから、ルネみたい子が弟だと嬉しい。
「とにかく、ロレシオ殿下とは結婚しません。同い年だし」
「同い年だと駄目なんですか?」
「あたし、年上が好みなの!」
「セレジュさんみたいな?」
「うん、あのくらいが好きかなあ」
「……セレジュさんが好きなんですか?」
「かっこいいなあとは思うけど、恋愛の好きではないわ。だって、セレジュはリナのことが好きだし、リナはセレジュのことが好きでしょ?」
「……そうですね」
ルネはほっとしたように笑う。
ああ、やっぱりルネが弟だといいなあ。
「アニエス先生? どうかしましたか?」
「ああうん。ルネが弟だとよかったなと思って」
「弟……」
「そう!」
ルネはセドリックも認めるほど、優秀だ。
今ではセドリックについて、高等算術や経済について屋敷で勉強している。
――もしかして、お父さまに頼んで養子にしてもらう、という手もあるかもしれない。
あのとき。
ロレシオ殿下がいらしたとき、扉が急に開いたのは、やはりルネの魔力ではないのかしら? もしルネに魔力があるとしたら?
サニエ男爵家の養子になった方が守ってあげられるかもしれない。
「――僕は弟ではありません」
「それはそうだけど。でも、養子、ということも出来ると思うの」
「アニエス先生の弟、にはなりません」
「そう?」
いいアイディアだと思ったんだけどな。
ルネは下を向いているから、表情はよく分からない。
……貴族が嫌なのかもしれない。もしかして、出自に関係があるのかもしれないわ。
「アニエス先生は、どんな人が好みなんですか? 年上、という条件以外で」
「えーっと、どうだろう? 単に顔がいいだけの人は好みじゃないわ。……そうね。目標を持って頑張っている人が好きかも」
「……そうですか」
「うん。そうね、あとはいろいろなことを知っている人も好き。ロレシオ殿下は、顔はいいけれど、なんとなく軽い感じがするから、ああいうのはあまり好きじゃないわ――ないしょよ?」
「わかりました。ないしょ、ですね?」
ルネの笑顔、やっぱりすごくいいなあ。
ほんと、弟になってくれるといいのに。




