第4話:名前の管理者
男に連れられていた。
いや、正確には“連れて行かれている感覚”だった。
気づくと、駅の裏にあるはずのない建物の前に立っていた。
そこには看板があった。
『個体情報管理局』
「……何だよこれ」
男は淡々と鍵をかざし、扉を開ける。
中は異様に静かだった。
人の気配はあるのに、音がない。
まるで“会話を禁止された空間”のようだった。
廊下を進むと、巨大なモニターが並んでいた。
そこに映っていたのは──人の名前だった。
無数の名前。
そしてその横に状態が表示されている。
『確定』
『未確定』
『削除処理中』
『残骸』
「……これは何だ」
男は答えない。
代わりに、一つの画面を指さした。
そこには見覚えのある表示。
『対象:あなた』
状態は──
『残骸(観測中)』
息が詰まる。
「残骸って、なんだよ」
その瞬間、背後から声がした。
「簡単な話です」
振り返ると、白衣の女が立っていた。
昨日の男とは違う。
だが“知っている気がする”違和感がある。
女は続ける。
「名前は“存在の固定情報”です」
「それが消えると、人は“観測できない状態”になる」
「つまり、社会から消える」
画面を見せられる。
そこには“削除された人間”の一覧があった。
しかしそこにあるのは、名前ではなかった。
ただの数字。
識別番号。
「じゃあ俺は……」
女は一瞬だけ間を置いて言った。
「あなたは“完全削除に失敗した個体”です」
「本来なら存在していないはずの残骸」
その瞬間、モニターの一部が点滅した。
新しい表示。
『異常個体:同期発生』
「まただ」
男が小さく呟く。
「同期が始まっている」
「……何が?」
女は静かに言った。
「あなたと同じ状態の人間が、同時に増えている」
「それがこの世界の“エラー”です」
その言葉の意味を理解する前に、
モニターの中の“自分の名前”が──
一瞬だけ、書き換わった。
『未登録』




