第3話:同じ名前のいない街
外に出るのは正直怖かった。
自分の存在が曖昧なまま、街に出る意味が分からない。
それでも確かめる必要があった。
“自分だけなのか”を。
駅はいつも通り混んでいた。
人は普通に歩いている。
──普通に見えるだけで、本当に普通かは分からない。
ふと、すれ違った女子高生の会話が耳に入る。
「ねえ、その人誰?」
「え、さっきまで一緒にいたじゃん」
振り返ると、そこには誰もいない。
女子高生はキョロキョロしている。
「え、消えた……?」
その言葉に、背筋が冷えた。
“消えた”。
まさか。
そのとき、駅のデジタル掲示板が一瞬だけ乱れた。
『欠損データ:1名』
何のことか分からない。
だが、嫌な予感だけが確実にある。
スマホが震えた。
通知。
『同一事象を確認しました(観測地点:3)』
「……観測?」
声に出してしまった瞬間、隣に立っていた男がこちらを見た。
スーツ姿。
昨日の“処理の男”と同じ服装。
でも顔は違う。
男は淡々と言った。
「あなた、まだ“個体”でいられるんですね」
「……は?」
「普通はもう統合されている段階です」
意味が分からない。
男は続ける。
「名前の削除は、個人の問題ではありません」
「これは“同期現象”です」
その瞬間、駅のアナウンスが流れた。
『繰り返します。現在、名前未確定個体が増加しています』
周囲の人間が一瞬だけ、動きを止めた。
まるで“認識がズレた”ように。
男は小さく言った。
「気づかれ始めましたね」
「あなたが“残っている理由”に」
その言葉の意味を理解する前に、スマホが再び震えた。
画面に表示される文字。
『個体識別:未確定(あなた以外に12件)』
その瞬間だった。
改札の向こう側に、“同じ顔の人間”が立っているのに気づいた。
こちらを見ている。
まるで、自分を見ているように。




