第2話: 消えていく証明
目が覚めると、昨日のことが夢のように感じた。
天井はいつもの白で、部屋も変わっていない。
スマホも枕元にある。
「……やっぱり、夢か?」
そう呟きながら、スマホを手に取る。
ロックは普通に解除できた。
連絡先も履歴も、昨日と同じ──はずだった。
しかし違和感があった。
一覧の中に、ひとつだけ“空白の名前”が増えている。
「……誰だこれ」
指でタップしても、詳細は表示されない。
名前欄だけが、ぽっかりと抜け落ちている。
ただの“空欄”。
気味が悪いのに、理由が分からない。
そのときだった。
背後から声がした。
「まだ気づいていないんですね」
心臓が跳ねる。
振り返る。
誰もいない。
いや、正確には“そこにいるはずの何か”が認識できない。
声だけが、確かに残っている。
「あなたの“削除処理”はまだ途中です」
「昨日は中断されただけ」
「……は?」
意味が分からない。
削除? 処理?
昨日のスーツの男の顔を思い出そうとする。
しかし輪郭が、掴めない。
思い出せないのではない。
最初から“思い出せない形”になっている。
スマホが震えた。
通知。
『削除ログ:再同期開始』
嫌な予感がしたまま画面を開く。
そこに、新しい項目が追加されていた。
『対象:あなた自身(未完了)』
息が止まる。
「……俺自身?」
その瞬間、鏡の中の自分が──
ほんのわずかに、遅れて動いた。
気のせいじゃない。
今の“ズレ”は、明らかに現実だった。
スマホが再び震える。
今度は通知ではない。
画面全体に、文字が浮かび上がる。
『再削除処理を再開します』
部屋の空気が、少しだけ重くなった気がした。




