表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『名前が消えた朝、俺は自分を削除したらしい』 ──ログイン履歴に“存在しない自分”が残っていた件──  作者: Yolu大臣


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/6

第1話:『名前を忘れた朝』

この物語はフィクションです。


ただし、もしあなたがふと「自分の名前が正しいか不安になる瞬間」があったなら、

それはこの世界と少しだけ繋がっているのかもしれません。


本作は、記憶・存在・自己認識に関する架空の物語です。


深く考えず、ただ違和感だけを持ったまま読み進めてください。

その日、俺は自分の名前を忘れていた。


目が覚めた瞬間から違和感はあった。

天井は見慣れた白だったし、スマホも枕元にある。

なのに、何かが決定的に欠けている。


「……誰だっけ、俺」


声に出すと、余計に分からなくなった。


スマホを開く。ロックは解除できる。

指紋は一致しているらしい。


だがホーム画面に並ぶアプリの中で、自分の名前だけが“空白”になっていた。


連絡先も同じだ。

母親の名前、友達の名前、会社の人間関係。

すべてあるのに、自分に繋がるラベルだけが存在していない。


「バグか?」


そう呟いた瞬間、スマホが震えた。


着信。


表示:『あなた』


出るべきじゃない気がした。

でも、なぜか指が動いた。


「もしもし」


ノイズ混じりの沈黙のあと、声がした。


──「やっと気づいた?」


女の声だった。

知らない。けど、どこかで聞いた気がする。


「……誰?」


「あなたが消した側の人間」


意味が分からない。


「何の話だよ」


すると女は、少し笑った。


「じゃあ質問を変えるね」


「あなた、自分の名前を“最後に誰に呼ばれたか”覚えてる?」


その瞬間、喉の奥が詰まった。


思い出そうとしたわけじゃない。

なのに、“記憶の穴”みたいなものが見えた。


そこだけ、黒い。


「……知らない」


「うん。そうなるようにしたから」


通話が一瞬だけ途切れる。

次に聞こえた声は、もっと近かった。


「あなたは昨日、“あなた自身”を消したの」


「理由は簡単。生き残るため」


意味が追いつかない。

俺は立ち上がって部屋を見渡す。


机、椅子、洗濯物、コップ。

全部“普通”なのに、自分だけが異物みたいに浮いている。


「ふざけてるのか?」


言いながら笑ってしまった。怖かったからだ。


その瞬間。


ドアがノックされた。


コン、コン。


誰かいる。


「宅配です」


声は普通だった。

だから逆に怖い。


ドアを開けるか迷う。

でも開けないといけない気がした。


ゆっくり開ける。

そこにいたのは、スーツ姿の男だった。


「確認に来ました」


「何の?」


男は俺を見て、少しだけ首を傾げた。


「まだ“残ってる”んですね」


「……何が?」


その瞬間、男の視線が俺の胸元に落ちた。


「名前です」


「普通はもう消えてるはずなんですが」


意味が分からない。


俺は一歩後ずさる。


「ちょっと待て、何の話だ」


男は淡々と言った。


「あなたは“処理対象”です」


「昨日、自分で申請しました」


──その言葉で、頭の奥が揺れた。


何かが繋がりかける。


でも繋がる直前で、必ず途切れる。


「……俺が?」


「ええ」


男は書類を見せた。


そこには確かにサインがあった。

読めない名前で。

でも筆跡だけは、確かに“自分のもの”だった。


「理由は、“あなたという存在を維持できないから”」


「……は?」


その瞬間、スマホが再び鳴った。


同じ番号。


『あなた』


女の声。


「思い出した?」


「……何を」


「あなたはね、“自分を消す実験”をしたの」


「成功したら、生き残れるって信じてた」


「でも失敗したの」


喉が乾く。


「じゃあ今の俺は何だよ」


少しの沈黙。

そして女は言った。


「“残骸”」


その瞬間、男が一歩前に出た。


「処理を開始します」


「待て!!」


叫んだ瞬間、視界が一瞬だけ揺れた。

まるで世界が“読み込み直された”みたいに。


そして──


男がいなかった。


ドアの前には誰もいない。


スマホの通話も切れている。


ただ、画面に一行だけ残っていた。


『あなたの名前は削除されました』


俺はそこで初めて気づいた。

鏡の中の自分が、少しだけ“ぼやけている”。

まるで、存在そのものが薄れていくみたいに。


そして、最後に気づく。


このままだと俺は──


“次の朝には完全にいなくなる”。


そのとき、スマホがもう一度震えた。


新しい通知。


『新しい“あなた”がログインしました』


ここまで読んでいただきありがとうございます。


この物語では、「名前」というものを一つのテーマとして扱いました。


もし読み終えたあと、自分の名前を一瞬でも思い出し直したなら、

それは物語がまだ終わっていないのかもしれません。


次回も、静かに崩れていく世界をお届けします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ