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ミステリ作家の異世界日記――小説を書こう、異世界で  作者: 黒井影絵
――閑話集2

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a024――オクルス・レポート〜秘密結社の現状報告書

 08-10-10001

 [件名] 龍王国における秘密結社の現状に関する調査報告書

 [報告者]龍王国情報局諜報部 統括調査長 オクルス


□――序文――


 龍王国内において現状確認している秘密結社についての雑感を以下の通り報告申し上げます。


 長年、愚か者による心無い活動によって慈悲深き支配種族であらせられる龍族を恐れ多くもご憂慮させていた秘密結社は、社会の闇に潜み、我が国を含む諸国で暗躍跋扈してきておりましたが、システム歴10000以降の社会変革と技術的改良によって、その内情の把握がある程度は可能となりました。


 彼らも近年の列強諸国における改革制度による変動の影響を大きく受け、消え去ろうとする組織がある一方、入れ替わるように新しく産声をあげる組織が現れ、今がまさに激動の時代と言えましょう。


 その中でも、今後の時代に大きな影響を与えそうな秘密結社について抜粋、報告いたします。

 それぞれの結社に関する詳細は別途資料を閲覧していただきたくお願いします。


◆――イフリード――


 イフリードは旧支配者にルーツを持つ、歴史ある魔術系秘密結社である。


 近年の魔大陸の魔族間戦争を端に発した内紛で、その組織の有り様は大きく方向転換した。

 元々は魔大陸の旧支配者を祖先に持つ魔族の王家が組織を仕切っていたが、彼らが新興魔族に打ち倒され、その指導者的立場も乗っ取られた。


 一時期は王都ダンジョンの専有活動を長年行なっていた冒険者パーティ『ソルラエダ』とも連携し、闇社会を通じて王都で数々の違法活動に手を染めていたが、ソルラエダ、カタリ派官僚、両者の没落とともに、その社会的影響力は衰え続けている。


 現在結社員の半数は、人間領域辺境に独自の魔術的共同体を築いているエルス共和国元上院議員のプロークシーの元に集まっている模様。


 他の人員もエルス共和国の上院議員モメント師を頼って亡命する者が後を絶たず、最早組織の体を保つのも困難な様子で、組織が瓦解するのも近いと諜報部の研究機関は予想している。


◆――リマインド――


 リマインドはイフリードと同程度の歴史を持つ魔族系秘密結社と考えられている。

 両組織はライバル関係にあり、激しい抗争を繰り広げていた。


 イフリードが旧支配者イフの復権を志し、魔術を主体としている組織であるのに対し、リマインドは旧支配者イフと敵対する魔族マインドを主体とした組織であると考えられている。


 現在この組織は内紛で二つに割れて、抗争中とみられる。


 当局はこの組織に内偵を送り込んではいるが、中枢には未だ入り込めておらず、詳しい上層部の内情は不明ながら、魔大陸の魔族間戦争の余波であるのは明らかと見られている。


 イフリードの場合は新興魔族勢力が主導権を奪った形だが、リマインドの場合は旧体制側が優勢のようだ。


 抗争は現在も係争中で予断が許さない状況だが、他組織の残存勢力が恭順して合流しているとの報告もあり、今後の経過を引き続き監視する所存。


◆――無貌の漆黒――


 この『無貌の漆黒』のルーツも旧支配者時代にまで遡るほど古く、人間領域辺境に数多くある土着信仰の一つであると知られていたが、その実態は謎に包まれていた。


 大筋では旧支配者が崇めていた古き名も無い上位存在の降臨を待ち望むという教義であったが、具体的な内容は幹部によって秘匿され信者でも詳しい事は知られてはいない。


 それが、今年度に入ってから世界各地に潜伏していた信者が急に活動が活発化し、闇社会で暗躍し、調査機関各所は警戒を強めていた。


 しかし、この度、主要幹部及び構成員が絶海の孤島ゴモーラ島に集結し、一夜にして全員が消失するという怪事件が発生。


 当諜報部においても調査中であるが、内紛説、集団幻覚説、天災説、魔獣暴走説などの仮説が挙げられているが、今尚真相は謎に包まれている。


 しかし、いずれの仮説も、推定で五百人程度の人間が一夜にして消えた事件の原因には考えにくい。

 それこそ上位存在の見えざる手によるもの、と考える方が、まだ説得力があるとの声も。


 ともあれ、現在この組織は主要メンバーを失い、残存勢力は規模を大きく縮小し、衰退の一途を辿っている。


◆――カンナヅキ・ファンクラブ――


 この龍王ガーラ様の思惑で設立させた組織は設立から二周年を迎えて、当初の予想を大きく超えて発展中だ。


 設立時の諜報部の目論見としては、カタリ派官僚及び無能役人の淘汰とエンダー・ル・フィンの国王就任への足がかりになればくらいの期待であったが、その後の展開には想定以上の成果が得られた。


 新たな需要発掘による印刷出版業の勃興は言うに及ばず、当局としてはモリカワ師による高度な理論に基づく暗号技術の提供は、その後の任務遂行において大いなる貢献となった。


 昨今、潜伏している秘密結社勢力の調査に、彼の果たした成果は非常に大きい。


 その他、目に見えない影響としては市民達の知的活動に関する意識を向上させたことは、メシア降臨を大いに後押しするものと当局は考えている。


 このカンナヅキ・ファンクラブ、現状は龍王国とは協調関係を持った公に開かれた組織であるが、その裏側には、“原典”なる古代文字で綴られた著作物を教義として、“神”であるカンナヅキ氏を崇める“信者”からなる秘密結社の一面を持つ。


 組織から一歩引いて俯瞰すると、その体制は一枚岩とは言えない実情がある。


 設立時はモリカワ師を中心とした、創作集団として機能していたが、カンナヅキ氏のプリムム村――現アースガード自治区――入りした後、異世界よりのメンバーが参入後、その体制を支える思想が大きく分けて二分されることになる。


 組織を実質的に運営しているのはモリカワ師であるのは間違いないが、思想的な強さとカリスマを持った、マスターテイマーのモモ・イズミ――現カンナヅキ夫人――との対立は周囲には広く知られている。


 二人は事あるごとにカンナヅキ氏の作品について、激しい議論を交わし、その大半は平行線のまま物別れに終わる。


 識者によると、二人の主張はそれぞれモリカワ師が『悪』、モモ師が『善』に分かれているということだが、かの異世界における、その概念の定義はこの世界と微妙に異なっている点に留意が必要だ。

 この世界においての善悪は主に行動の結果に対する評価であるが、異世界において、その二つの概念は絶対的な上位存在の意思に基づくもので、その対立自体が万物を司る大前提として存在しているらしい。


 二人の議論が円満に集結する見込みは薄いが、それでも意外なことに平時の二方は仲違いしている訳ではなく、イベントや業務においてはメンバーと共に行動しては息の合った連携を行なっている。


 カンナヅキ氏に二人の対立について伺った際『あいつら厨二病だから、気にするな』とのコメントをした。


 “厨二病”について正確な意味を把握するには至っていないが、概ね『時間の経過で解決する若気の至り』であっているそうだ。


◆――エンダー様を見守る会


 この組織は列強諸国では知られていないが、人間領域にて設立後、僅か数年足らずで相当数の会員数――推定二百人――を集め、今なお発展中の秘密結社であるのでここに記しておく。


 フィン王国第三王子であるエンダー・ル・フィンが公式行事で初めて登場し、その美貌と才気によって、その場に居合わせたドナルド・シェルター侯爵及びその夫人を筆頭に多くの貴族を魅了したのことが切っ掛けと言われている。


 直ぐ様、その後の秘密会合において会は結成され、組織の存在は口伝えで広まり、会員数を増やしていった。

 当初、組織の名称は“エンダー・ル・フィンを支援する会”であり、シェルター侯爵はいざとなればエンダー・ル・フィンを次代の王に据える事も吝かではなかった。

 しかし波風を立てたくない控えめな性格な本人の意向を汲んで、“エンダー・ル・フィンを見守る会”と名を改め、その成長を陰ながら見守っていた。


 この組織の特色としては、独自の伝令システムがあり、良く訓練された健脚の伝令達に支えられている。

 会員達は巧みに構築された連絡網によってエンダー・ル・フィンの一挙一動について、書面上で語り合い、集められた書簡は侯爵夫人と書生達によって会報として纏められていた。


 なお、この会の存在は会員以外には秘匿され、エンダー・ル・フィン本人は認識していなかったと思われる。


 しかし、フィン王国における、ディレイの王位簒奪が発生し、この会が歴史の表舞台に一時的に浮上することになる。


 侯爵の兄であり本家筋に当たるシェルター公爵家が簒奪者ディレイ側に付き、分家に集結するよう呼びかけるも、憤ったドナルド・シェルター侯爵は夫人共々これを蹴って、地方領主ジェームズが発した檄に会員達と共に馳せ参じた。


 その後、シェルター公爵家の主だった者を含む貴族、王族はディレイによって屍人の仲間入りとなる。


 シェルター公爵が死亡後、彼の後釜にジェームズ夫人の弟ブラッドを据え、自ら後見として後ろ盾となり、ジェームズの義勇軍を影ながら支え続け、勝利に大いに貢献した。


 シェルター家のお家事情に解説を補足すると、シェルター公爵は前妻が亡くなると直ぐに愛妾であった女を後妻に据え、前妻の娘であるラクーナとその弟ブラッドは別邸に追いやられ不遇の身となる。

 その上、才女として広く知られているラクーナに有力貴族からの婚約の申し出が多数あったが、後妻による妨害で成立には至らなかった。

 嫁入りを半ば諦めたのかラクーナは、知り合いの商家のパーティに公爵家の侍女と身分を偽って参加する。

 そこで地方領主ジェームズと出会い意気投合し、数回の逢瀬の後に婚姻の約束を交わしたが、後日、彼女が公爵令嬢と知り、彼は非常に動揺したとのこと。

 ただ、公爵家はラクーナの結婚相手が貴族ではない豪族出身の地方領主だった為、彼女を絶縁した上にシェルター家を追放したことにより、事実上この婚姻を黙認した。

 おそらく後妻はラクーナが貴族と縁を結び、権力を握ることを恐れていたようだ。


 侯爵が彼女とジェームズの結婚が切っ掛けに、兄シェルター公爵と後妻による姉弟の不遇を知った、ドナルド・シェルター侯爵は甥であるブラッドを養子として引き取り育成した。


 ある意味、このドナルド・シェルターなる人物がフィン王国の戦乱を制した影のフィクサーとも言えよう。


◆――アースガード婦女子会――


 最後に、ここ一年で新しく誕生した秘密結社の中で、最も急速に成長している組織を報告する。


 その名もアースガード婦女子会。


 明確なリーダーは存在していないが、異世界からの召喚者である、ナス・チカコとヨネツ・スイコの両名が中心となって活動している。


 名前の通り、アースガード自治区に住まう女性による互助組織と思われるが、その活動内容は男性諸氏にのみ伏せられているという、名実ともに秘密結社である。


 その会合は男性の参加は認められてない為、使い魔による探索も強い結界に阻まれ、断片的にしか調査出来ていない。


 研究機関の推測によると、その活動内容は『男性間の関係性の妄想』だと思われる。


 職務上、活動の実態調査を試みる為に、領主であるカンナヅキ氏とモリカワ師の協力を依頼したところ、やんわり断られた上に『下手に関わらない方がいい』『関わらなければ実害はない』『伝染性があるので内偵を送り込んでもミイラ取りがミイラになる可能性が高い』と、真顔で諭される結果となった。


 実際、定期的に集会を開き、著作物を披露しあって、その感想を述べているだけと思われるので、今の所、目立った実害は出てはいないが、その会員数の増えかたが予想より大きいのと、この組織絡みの決闘騒動が増えてきているという懸念点が発生している。


 彼らは男性同士の交流を観察した上での妄想に基づいて創作していると思われるが、その際の“かっぷりんぐ”なる組み合わせや、どちらが主導権を握っているかで、彼女達には譲れない抗争が度々発生し、時に諍いにまで発展する事態となっている。


 近年、龍王国内でのアースガード自治区で発生した文化が王都を初めとした各都市に伝搬する傾向を考えると、この活動もいつかは他の地域に広がる可能性が高い。


 また、先に紹介した“エンダー様を見守る会”とも密かに交流する動きも見え始め、早急に調査の方向性を決める必要にあると考える所存です。


 ・・――◆◇◆――・・


「……」

「どういたしますか?ガーラ様」

「……“アースガード婦女子会”の詳しい調査を」

「了解しました」

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