おまけ2 貴族なボインちゃん
「うひょー、デッカい屋敷!」
「これは圧巻ねぇー」
ここはオズラルドにある変畜邸前。
お城の近くにも関わらず、これだけの敷地を構えてる辺り、あの親子は相当な金持ちなのだろう。ペッ。
そびえ立つ屋敷の外壁がモスグリーン一色じゃなければ、ヨーロッパの歴史ある豪邸と相違無いかも。ペッ。
で、何でこんな所にサブと二人で居るのかというと、変畜の養子になったボインちゃんから屋敷に招待されたから。
なんでも、デカイ屋敷にタリリンと二人ぼっちは寂しいから、私達に遊びに来て欲しいとの事。
まあ、養子になってまだ数日しか経ってないしね。使用人と仲良くなるのにも時間が必要だろう。
変態親子は仕事で忙しいらしく、今日も留守らしい。
「トストラ家って、この国でも五本の指に入る程の資産家らしいわよ?」
「なんでサブがそんな事知ってんのさ」
「さっきそこでナンパした色男に聞いたのよ。なんか必死に逃げようとしてたけど、アタシの美貌に恐れをなしたのかしらん?」
「いつの間にナンパなんかしてたんだよ⁉︎」
「いいオトコは、見つけたら直ぐに捕まえなきゃね。恋は待ってくれないのよ? 勿論美少女も同じよ」
「このヒモ男め。それはそうと、この門閉まってるけど、呼び鈴が見当たらないね……石でも投げ入れてみる?」
「これだから常識を知らない偽物は困るのよ。いい? こうやって門に軽く手を当てて……」
「ほうほう、軽く手を当てて?」
「先ず目を閉じて、精神を統一させるのよ」
「ん、了解。統一ね」
「ここからが重要よ? 大きな声で呪文を唱えるの」
「成る程。して、その呪文は?」
「呪文は一度しか言わないから、しっかり聞いておくのよ?」
「ほーい」
「開けんかゴルァァァァーー‼︎」
サブのドスが効いた叫びが辺りに響き渡る。
「脅かすなゴルァー‼︎ 耳がキーンってなったじゃん!」
「あら、まだ出てこないみたいね。今度はアンタがやってみなさいよ。呪文を叫びながら、激しく門を叩くとより効果的よ」
「それ絶対嘘だよね⁉︎ 普通に呼び掛ければよくね?」
「だって、あんだけ叫んでも誰も出てこないじゃない」
「それもそうだね。じゃあ、別の方法でやってみよう。ちょっと下がってて」
「何する気よ?」
「まあ見てなって。屋敷内に居ても聞こえるように、門をノックすればいいんだよ」
「そんな器用なことが出来るの?」
門から少し下がり、重心を低く取りながら上半身を右側に捻る。そして両手を肩幅位に広げ、お腹から少し離した辺りに固定。
よし、ポーズは完璧だ。
『風の力を借りてぇー(門をー)
ノックノックぅー[けれどもぉー]
聞こえない場合はぁー……』
そこまで歌い終わると、両手の間に風の渦が生まれる。
これに蒼い光を纏わせれば準備完了だ。
『みなさぁーん ご一緒にぃー
([スペシャル・ノォーーーーック‼︎])』
重心は固定したまま、両手を突き出した状態で蒼い炎に見立てた風の塊を飛ばす。イメージは、某有名ストリートな格闘ゲームの技だ。
風の塊は大きな音を立てて門を突き破り、屋敷に風穴を空けてから消えた。
「ふぅー。これで誰かは出てくるっしょ」
「当たり前でしょ! 使用人どころか、警備隊が駆けつけるわよ!」
「大丈夫! 金持ちだから関係無いよ」
「アンタ、ホント金持ちが嫌いなのね」
「お金は大好きだけどねー」
「こんな奴が白者でいいのかしら……」
「あ、ほら、誰かが屋敷から走って来るよ」
豊満な胸を揺らしながら女性が駆けてくる。彼女の後方から双頭の犬も一緒に走ってくる。
「おーい、ボインちゃーん、タリリーン」
門から屋敷までの距離が長い所為か、次第に彼女達の走るスピードが落ちてくる。あ、転んだ。
「はぁー、はぁー……。やっぱり白者様達だったんスね! 会いたかったッス!」
「バウバウッ」「バウバウッ」
「相変わらず運動神経鈍いなぁ。そんなに私達に会いたかったの?」
「小娘……アンタはこの惨状を目にして何も思わないワケ?」
「二人に再会出来たのが嬉しくて、そんな細かい事は気にならないっす!」
「気にしなさいよ! アンタの屋敷でしょ⁉︎」
挨拶もそこそこに、ボインちゃんが屋敷へと案内してくれる。
「ねえサブ見て! 庭にデッカい湖があるよ! サメいるかなぁ?」
「……アンタ馬鹿なの? サメは空飛ぶ生き物でしょ」
「え、マジで⁉︎」
広大な庭を抜け、屋敷内へと入る。ここでふと疑問が浮かんだ。
「ねえボインちゃん。私達あれだけ門で騒いでたのに、使用人が出てくる気配が無かったんだけど?」
「変ッスねぇ。マバレ……お父様かゲルクが居る時には、ちゃんと対応してたはずッスけど。取り込み中だったんスかね?」
「なんか嫌な予感がするわね……」
これだけ大きな屋敷なのに、客人の出迎えが出来ないなんて、確かに少し変かも。見たところ、使用人の数が足らない訳でもなさそうだ。
通り掛かるメイドさん達が立ち止まってお辞儀してくれるのはいいんだけど、皆一様に無表情で不気味。
「ここが応接間ッス。好きに寛いでもらっていいッスよー」
「へぇー、やっぱ広いねぇー。……大きな風穴から見える景色も抜群だね!」
「アンタの所為で屋敷が滅茶苦茶じゃないの!」
さぁーて、何の事やら?――お、誰か来た。
「失礼致します。お茶を持って参りました」
入って来たのは、中年のメイドさんだ。髪を後ろにひっつめてる所為か、随分キツイ目つきの人だなぁ。
「有り難うッス。白者様、この人はアッシの教育係でパルドラさんッス」
「初めまして白者様、サブ様。お話は旦那様から伺っております。私はパルドラ・ルーフェンと申します」
狐目メイドさんは、サブを見て一瞬頬を染めたが、また無表情に戻ってしまった。
「お嬢様、何度も言うようですが、その言葉遣いはおやめになってください。お客様に失礼ですよ?」
おぉう、無表情でのキツイお言葉。こえぇー。
「アッシの癖みたいなもんスから、直ぐには無理ッスよー」
「お嬢様の恥は、旦那様の恥にもなるのですよ?」
「あー、まあ努力するッス」
この狐目、仕事は出来るらしく、ボインちゃんを叱りながらも素早くお茶の準備を終わらせていた。
まあ、あの変畜が無能な使用人を雇うとは思えないけどね。あいつ、ホント抜かりなさそうだもん。
「あ、白者様は水しか飲めないって言ったの覚えててくれたんスね!」
「勿論です、旦那様に教えて頂きましたからね。サブ様はお茶でよろしかったですか?」
「アタシは茶色い飲み物なら何でもいいわよ」
「土も茶色だしねー。泥水もイケるんじゃね? プッ」
「アンタ、張っ倒すわよ?」
「それでは、失礼致しました」
狐目は私達のコントを綺麗にスルーして、そそくさと部屋を出て行ってしまった。
「なんか随分態度が悪い人だね」
「ああいうのに限って、好きなオトコの前じゃ態度が変わるのよね」
「パルドラさんはアッシにとって厳しい先生ッスからねー。あ、でも確かにお父様とゲルクの前じゃ、ちょっと態度が違うかもッス」
「大方、彼等の前では叱らない優しい教育係ってところかしら?」
「どうして分かったッスか?」
やっぱりねー。多分他のメイドさん達も表情から察するに、似た様なものなんだろうね。
「ねえ、さっきから屋敷で男の人を見かけないよね?」
「そうねぇー、美少女も居ないなんて残念だわぁ」
「ちげーよバカ! 私は使用人の性別が偏ってるって言いたいの!」
「言われてみればそうね。何か理由があるのかしら?」
「この屋敷で働いてるのは全員女ッスよ。男の人は採用試験の時、彼女達の気迫に負けたらしいッス」
「何か話が見えてきたわ。彼女達はトストラ親子目当てでこの屋敷に勤めてるのね」
「あの親子、顔だけは整ってるからねぇ。中身は変態なのに」
「そうなんスか? まあ仕事をきちんとしてるなら、アッシはそういうの気にならないッス。タリリンちゃんも満足してまちゅもんねー」
「クゥーン」「クゥーン」
どうしよう、この子全然気付いてないよ。
ボインちゃんがタリリンに気を取られてる隙に、隣のサブにこっそり話し掛けてみる。
((ねえ、ボインちゃんって、明らかに使用人から避けられてるよね? 何でだか分かる?))
((そりゃあ、どんな女だって好きな男がいきなりどこの馬とも知れない小娘を連れ帰れば、気に食わないからに決まってるじゃない))
((まあ、連れ帰っていきなり家族だもんねぇ))
((でも本人は気付いてないみたいよ?))
((そうかなぁ?))
「何話してるッスか?」
「あら、大した事じゃないわよ」
「ねえ、この屋敷に来てから物がよく無くなったり、身近な物が壊れたりしてない?」
「よく知ってるッスねー。 サブも白者様も超能力でもあるんスか?」
「もしかして、食べ物にゴミや虫がよく入ってるんじゃない? あとはそうねぇー、生き物の死骸が部屋の前にあったり」
「それも当たりッス! 凄いッスねー」
「……ボインちゃん、平気なの?」
「アッシがよく物を無くしたり壊したりするのは元からッスし、虫とかゴミ程度なら避ければ食べられるッス。こんな広い屋敷に迷い込めば、小さな動物は行き倒れてもおかしくないッスよ」
「すげえポジティブ思考だな!」
「まあ、本人が納得してるならいいんじゃない?」
*
夕方、屋敷からの帰り道。
「やっぱ、あの変畜が単なる親切で、養子なんか引き取る訳無いって思ってたんだよねぇ。仕事は出来るみたいだけど、超扱いづらい使用人の集まりじゃん」
「アンタ、裏があるって知ってて小娘を送り出したの?」
「んー、なんとなくね。よっぽどヤバかったら連れ出そうと思ったけど、本人が平気そうだからなぁ」
「結局マバレンが見込んだ通り、小娘が適任だったのかもね。少なくとも小娘をいじめてる間、使用人達は一丸となって協力してるワケだし?」
「うーん、もう暫く様子を見とくかな」
その日、帰宅してから婆ちゃんの雷が落ちたのは言うまでも無い。




