おまけ1 カトリーヌの秘密
バンダゲールの件が解決し、暫しのシンクルード王宮滞在が決まった日の夜。
今私はミカン団長にあてがわれた部屋で、日課となっているカトリーヌのリップケアをしている。因みにマイケルは私の隣で待機中。
「今日は二人共、大活躍だったねぇ。お疲れさん!」
[契約を守るのはぁー 妖精族の常識ぃー]
(気持ち良いわぁー 白者はぁー お手入れ上手にぃー なったわねぇー)
「ボインちゃん直伝のケアだからね!」
そうやって作業に没頭していると、何やら部屋の外が騒がしい事に気付いた。
「……ッスよ!……に……ないッス」
「う……わねぇ。……は……よ!」
……この声と口調は、ボインちゃんとサブだな?
「夜に廊下で騒ぐなんて、あいつ等の常識は一体どうなってんだ」
(うるさいのはぁー)
[元気な証拠だぁー]
幾ら元気が有り余ってても、時と場所を考えて欲しいものだ。
「ちょっと白者、聞いてよ! 小娘ったら、アタシの調教のやり方が動物虐待だなんて言うのよっ?」
「ペットに色仕掛けするなんて、どうかしてるッス! 白者様もそう思うッスよね⁉︎」
「アタシの美貌は、動物にも効果があるのよ!」
「ほら、サブの気持ち悪い調教の所為で、タリリンちゃんの顔色が悪くなってるッスよ!」
「クゥーン……」「クゥーン……」
「毛で覆われてるのに、なんで顔色が分かるのよっ⁉︎」
「アッシは、タリリンちゃんの事なら何でも分かるッス!」
ノックも無しに、いきなり入ってきてこの騒ぎよう。
女三人寄れば姦しいとは言うけど、コイツ等は二人でも充分やかましい。まあ、片方は男だが。
「お前等、人の部屋に勝手に入ってきて最初に言うことがそれ?」
(常識ぃー 知らずぅー)
[タリリンがぁー ゲッソリしてるぞぉー]
「タリリンちゃーん、怖かったでちゅねー。ママがこの変態から守ってあげまちゅよー」
「クゥーン」「クゥーン」
「どきなさいよ! 私の調教が間違ってない事を証明してあげるわ! アハァーン、タリリンちゅわぁーん。さあ、お手してごらんなさぁーい」
「グルルルル……ガウッ」「グルルルル……ガウッ」
「ぎぃやぁぁぁぁーー‼︎」
あーあ。また思いっきり噛みつかれてるし……。
タリリンの顔色が悪い理由が分かったよ。アレは確かに吐き気を催すな……。
「ほーら、やっぱ駄目ッスね。ペットの躾はアッシの方が上手ッス」
「うっさいわね! タリリンちゃんとは今日が初対面なのよ? もっと時間を掛ければ問題無いわっ」
「ペットの躾に関しては、二人共目クソ鼻クソだと思うよ」
([目糞ぉー 鼻糞をー 笑うー])
「ちょっと白者! 汚い例えしないで頂戴!」
「そうッス! 白者様には関係無いッス!」
お前等……。
「いい加減にしろっ‼︎ カトリーヌのリップケア中だっていうのに! マイケル、やっておしまい‼︎」
[まぁーかぁーせぇーろぉー]
*
「「グスン、ズビバゼンでじだ(ッス)……」」
二人はマイケルの痰まみれになって、床に正座している。たっぷり反省するがいい!
「ホント、あんた達は仲がいいんだか悪いんだか」
(ケンカするほどぉー)
[仲がいいー]
「クゥーン」「クゥーン」
カトリーヌのリップケアを終わらせ、広げてあったケア用品の片付けに取り掛かる。
「あら、随分高そうな美容液ねぇー」
「……その痰まみれの手で触らないでよね。これ全部、結構な高級品らしいんだから」
「ふんっ。こんな汚れ、アタシの魔法に掛かれば一発よ」
サブが指を鳴らすとアラ不思議、あれだけ痰まみれだった体が一瞬にして綺麗になった。
「そんな魔法があったのかよ⁉︎」
「あ、その浄化魔法、アッシにもやって欲しいッス!」
「しょうがないわねぇー。……ほらっ」
サブの指パッチンで、ボインちゃんの体もあっという間に綺麗になる。
そんな便利な魔法が使えるんなら、もっと早くに使えば私に勝てたかもしれないのに……。まあ、そこに気付かないところがサブクオリティーだよね!
「ほんと、よくこんなに沢山の高級品を揃えられたッスねー」
ボインちゃんがズラリと並べられたケア用品をしげしげと眺めている。
「そういえば、唇なのにどうやって買い物してるんだろうねぇ?」
「収入源も気になるわね」
私達が疑問に首を傾げていると、唇ズが歌い始めた。
(私達はぁー 世界各地のぉー)
[オペラ座でぇー 役者の代わりにぃー 歌っているぅー]
「それって……もしかしてゴーストボーカルやってるって事?」
「なんスかそれ?」
「んーっと、オペラって普通オペラ歌手が歌うよね?」
「この世界のオペラ歌手は、見目の良い男女しか出来ないってアタシは記憶してるけど? この妖精は歌は問題無いけど、見た目がねぇー」
「そう、それだよ。私が思うに、見た目が綺麗な歌手に口パクで舞台に立ってもらって、それに合わせて見えない所からカトリーヌとマイケルが歌うっていう……イカサマ?」
(その通りよぉー)
[需要はぁー 結構あるぞぉー]
「それって詐欺じゃないッスか!」
「確かにオペラ歌手にとって、声の妖精の歌唱力は喉から手が出る程欲しいのかもしれないわね」
「じゃあ、そのゴーストボーカルでお金貰ってるの?」
(お金はぁー 貰ってないわぁー)
[代わりにぃー 高級なぁー 美容液ぃー]
「口止め料ってワケね……とんだオペラ歌手が居たもんだわ」
(観客もぉー)
[知ってるぞぉー]
「詐欺っぽいけど、観客が納得して楽しんでればそれでいいんじゃね? そのオペラ歌手も、妖精に毎回頼ってる訳でもなさそうだし」
「確かに声の妖精の歌声って、普通は滅多に聴けないらしいッスね。お金を払ってでも聴きたい人は、大勢いるかもしれないッス」
「見た目が唇じゃなければ、堂々と舞台で歌えたのにねぇ。世の中不公平だわぁ」
唇ズは満足してるみたいだけど、ちょっと不憫かも。
「じゃあ、食費とかはどうしてるんスか?」
(食費はぁー 要らないわぁー)
[我らの主食はぁー 魔物ぉー]
([その辺にいっぱいいるからぁー 問題無ぁーい])
「肉食だったのか‼︎」
「しかも魔物限定なんスね……」
「世渡り上手な妖精ねぇー」
唇ズの姿が時々見えなくなってたのは、こういった理由があったからなのか……。




