22 一件落着?
王宮滞在三日目の昼下がり。
テラスで寛いでいた私達の元へ、お婆ちゃんメイドが知らせを持ってやって来た。
「オズラルドからお迎えの使者が到着しましただぁー」
「え、もう着いたんスか⁉︎」
「転移陣使っても一週間かかるんじゃなかったっけ⁉︎」
「転移魔法でも物凄い魔力が必要なんじゃない?」
「バウッ」「バウッ」
「ええ、近々孫が帰国しますだぁ」
「会話のキャッチボールが出来てねぇー‼︎」
一体どんな猛者が迎えに来たのかとハラハラしていたけど、通された人物を見て納得した。
「白者様! お会いしたかったです‼︎ 僕と離れてる間、浮気してませんよね⁉︎」
そう言いながら思いっきり体当たり……抱き付いてきた。
「ぼ、坊⁉︎ あんたが迎えに来たの?」
「全く、世話の焼ける白者様ですね」
「旅費が足らぬなどと……後先考えずに行動するのは、おぬしの悪い癖じゃ」
「変畜と婆ちゃんも⁉︎ どんだけ暇なのさっ」
「おぬしの様なじゃじゃ馬を連れ帰れるのは儂等しかおらんじゃろ。それはそうと、白者よ」
「ん? なあに――いってぇーー‼︎」
「このド阿呆が‼︎ おぬしが道中でしでかした破壊活動、全て聞き及んでおるぞ!」
「だからって、会って早々殴る事ないじゃん!」
「あの超自由人の白者様が完全に押されてるッス……」
「最強の魔女……恐ろしいオンナね……」
「クゥーン」「クゥーン」
くそぉー、感動の再会がゲンコツかよっ。久々にマジ痛い!
「転移陣まで破壊しよってからに。お蔭で三人がかりの転移魔法を酷使せねばならなんだぞ!」
「ああ、それで早く到着したんだね。でも、転移陣の破壊って何の事?――おぶっ‼︎」
「とぼけるでないわ! 大方、魔力の注入量を誤ったのじゃろう」
「イテテテ……に、二回もぶったね?」
「あの爆発音って、やっぱ白者様が原因だったんスね……」
「転移と白者を混ぜると危険って事がよく分かったわ……」
「クゥーン」「クゥーン」
ううっ、頭にデッカいタンコブが二つも出来た……。
「白者様、そちらのお二方は? それに犬まで」
「白者様が男連れ⁉︎ やっぱり浮気してたんですね⁉︎ 僕という婚約者がありながら……」
「いつ婚約者になったんだよ⁉︎ 誤解を招く言い方すんなっ」
「そうよ、アタシはこんなガザツなちんちくりん、眼中に無いわよっ」
「サブ、後で覚えてろよ? 婆ちゃん達に説明するから、念の為場所を変えるよ。サブの事は他人に聞かれると拙いから、防音魔法も必要だと思う」
「大っぴらに言えない間柄なんですね⁉︎ やっぱり浮気してたんだ! うわぁぁあぁぁん‼︎」
「お前、スゲー面倒臭い……」
*
ここは防音魔法を掛けた私が寝泊まりしてる部屋。六人と一匹が入っても全然余裕って、どんだけ広いんだ……。
取り敢えず、軽く自己紹介を済ませて事の顛末を伝える。
「泉の間に回復魔法を掛けたら、本物の白者が降臨したとな……実に興味深いのう」
「でも、歴代の白者様とは見た目が大きく違ってますよね?」
「そうですねぇ。これには何か理由があるのでは?」
「アタシは歴代白者の様な見た目に治したいのよ。何か方法がないかしら?」
「ふむ、見た目の他に相違点はあるかの?」
「そう言えば、魔力の質は白者と似てるけど違うって、オーロラの妖精が言ってたよ」
「それに白者様と戦ったッスけど、結局サブが負けたッスね」
「小娘……人の黒歴史をペラペラ喋るんじゃないわよ! しかも、あんな卑怯な手口じゃ勝った内に入らないわよっ」
「例え卑怯な手口じゃろうが、本物であるサブが負けるのはおかしいのう。どれだけ白者の運が良かろうと、勝負は引き分け、若しくはサブが勝つはずじゃ」
「まあ、作った本人が言うんならそうなのかもね」
「ますます屈辱だわ……」
「うーむ、魔力の質と力の差……。前例が無い故、一度文献を洗い直してみる必要があるの。資料は儂の家と、オズラルド宮殿内にある図書館に揃っておるはずじゃ」
「じゃあ、どの道オズラルドに戻るしかなさそうだね」
「アッシもお供するッス! オズラルドにはまだ行ったこと無いッス」
「バウッ」「バウッ」
「仕方無いわねぇー」
コイツ等を連れて帰るのか……先が思いやられるな。
「じゃあ、このまま全員で転移して帰る?」
「そうじゃの。これだけ魔力が高い者が揃っておれば、転移魔法で帰れるじゃろ」
「白者の転移魔法の使用は認めないわよ? 降臨して早々、死にたくないもの」
「ちゃんと目的地には着くからいーじゃん!」
「アタシは無事に着きたいのよ!」
「サブもその魔法は苦手なんスから、人の事言えないッスよ」
「……また私達三人でどうにかするしかなさそうですね」
「そのようじゃの……」
「白者様の為なら、僕は喜んで魔力切れになります!」
いや、それは喜んじゃ駄目だから。帰れなくなっちゃうじゃん!
「それはそうとシャトビエンネ様、もしよろしければ、私の養女になりませんか? 勿論タリリンもご一緒で構いません」
「き、急にどうしたんスか?」
「バ、バウ?」「バ、バウ?」
「未成年の少女が、ずっと宿暮らしをするのも大変でしょう? 少なくとも、オズラルドに滞在中は私の屋敷で暮らす事が出来ますよ」
「マバレンは由緒正しい貴族じゃからの。金も部屋数も有り余っておる故、生活に困る事は無かろう」
「お貴族様⁉︎ ア、アッシは下働きとかで充分ッス!」
「ご覧の通り、うちは男所帯で家も空けがちです。この白者様のお相手が出来る程のしっかりした女性は滅多に居ないでしょう。そんなしっかり者の女主人が居た方が、屋敷の者も喜ぶのですが……」
「おいコラ変畜、人を手が掛かる子供みたいに言うな!」
「儂は持ち家がある故、あまりマバレンの屋敷には滞在出来んのじゃ」
「僕もずっと一人っ子で寂しかったんです。白者様とお友達の姉上が出来るなんて嬉しいです!」
「小娘、これも何かの縁じゃないの? こーんな美味しい話、人生でそう何度もあるもんじゃないわよ」
確かに美味しい話ではある。でも、この変態親子と家族になるのか……。
「白者様と一緒に行動するにしても、身元がはっきりしている方が何かと便利だと思いますよ?」
「う、そういう事なら……考えないでもないッス」
「もしタリリンを連れて行けない場所に行く事になった場合、面倒を見てもらえる家があった方が良いのでは?」
この腹黒変畜、口だけは本当に上手い。騎士団長じゃなくて、宰相とかの方が向いてるんじゃね?
確か私が夜会に行くのを渋ってた時も、コイツに上手い事言いくるめられたんだよなぁ。
「ううっ、タリリンちゃんの為ッス。でもアッシは孤児院出身で……その、礼儀作法とか全く知らないッスよ?」
「作法やその他諸々は屋敷の者が教えますので、心配には及びませんよ。では、オズラルドに戻り次第、早速手続きさせて頂きますね」
「じ、じゃあ、お願いするッス……」
「これで姉上が生活の心配する必要が無くなりましたね!」
「生活の心配をする必要が無いのか……じゃあ、私も養女になる!」
期待に目を輝かせて言ったはいいが、坊と婆ちゃんに猛反対された。
「白者様は、僕と結婚してから家族になるんです! 養子とか駄目ですよっ」
「おぬしは儂の家で修行のやり直しじゃ! その破壊癖が治るまで、厳しく扱いてやるから覚悟しておけ」
「うー、酷いっ」
「フン、いいザマねぇー」
「サブはオズラルドに居る間どうするんスか?」
「アタシはこの美貌があるから、住む場所と生活は困る事は無いわよ」
「ヒモ男になるつもり満々かよ……この人類の敵め!」
「あらあら、負け犬の遠吠え? 好きに言ってればいいわー」
ムキー! 腹立つぅー!
しかし、あの変畜がこんなに都合の良い話を持ち掛けてくるなんて。
ボインちゃんみたいな綺麗な子なら、他にも引き取ってくれそうな家は沢山あるだろうに。
うーん、この話には何か裏がありそうな気がする……。
*
六人と一匹という大所帯の転移なので、充分なスペースがある城門前広場から出発する事になった。
「ううっ。サブ様、近い内に会いに行きますわ! 私の事、お忘れにならないでくださいましね……」
お転婆とパンツ国王とミカン団長、それとずっと私達の世話をしてくれたお婆ちゃんメイドが見送りに来てくれた。
お転婆はレースのハンカチを噛み締めながら、サブとの別れを惜しんでいる。コイツ、またひとりで抜け出してオズラルドまで押し掛けて来そうな勢いだ。
「あ、パンツ国王に言っておかなきゃ」
「ファフファー?」
「薄着するのはいいけど、一歩間違えれば犯罪だよ!」
「ファッ⁉︎」
「刑法174条において、罰則は六ヵ月以下の懲役若しくは30万円以下の罰金、または拘留、科料が待ってるんだからね!」
「ファー⁇」
「また訳の分からん事を言いよって……」
ふぅー、スッキリした。パンツ国王を初めて見た時から、ずっと言いたかったんだよね。
イマイチ伝わってない気がするけど、私の気が済んだので良しとしよう。婆ちゃんの呆れ顔も気にならないもんね!
「僕、シャルルク王女とは初めてお会いしましたけど、男性の趣味が変わっていらっしゃるんですね」
「ちょっと、そこのクソガキ! それはどういう意味よ⁉︎」
坊よ……皆敢えて言わないようにしてたのに、それはハッキリ言い過ぎだ。またお転婆が煩く喚くぞ?
「んまあ、なんて失礼な騎士なんですの⁉︎ そこの不躾な白者の出身国なだけあって、オズラルドは騎士の品格も低そうですわね」
「僕の白者様を侮辱する事は、幾ら王女でも聞き捨てなりません! 大体、成人男性であるサブ様に恋する時点でオカシイんですよっ」
「お前だって、明らかに年の差があるクセに『僕の白者たまぁー』なんて、乳離れが出来てない証拠ですわ!」
「いつ僕が『白者たまぁー』なんて言いましたか⁉︎」
「あら、つい先程言いましたわね?」
この二人、案外お似合いのカップルかも。
面倒臭い者同士、仲良くやってけるんじゃね?
「これゲルク、他国の王宮で失礼ですよ」
「殿下もですぞ。王女たるもの、お見送りは礼儀正しく優雅に行わなくてはなりません」
流石は実の父と親代わり。
二人はまだ睨み合ってはいるものの、取り敢えず大人しくなったようだ。
「フォフフェッファンゴ、ファフェ――ンポァッ!」
あ、また入れ歯が飛んだ。
「此度は本当に世話になった、くれぐれも気を付けて帰路につかれよ。と陛下は仰っております」
「……もう敢えてツッコミは入れないよ」
「次にお会いする時は、是非ウチの孫の顔も見てやってくだせえ」
「ああ、そう言えばお孫さんの話ばっかしてたッスよねぇ」
「ええ、ええ、勿論お茶もお入れしますだぁーよ?」
「あんたはティーセットに触れちゃダメだ! そしてまた話が噛み合ってない!」
い、いかん。思わずまたツッコミを入れてしまった。
「名残惜しいじゃろうが、そろそろ出発するぞ」
「んじゃ、皆元気でねー」
「お世話になったッス!」
「初めての王宮滞在、とっても楽しかったわー」
「バウバウッ」「バウバウッ」
「こちらこそ有り難う御座いました。転移許可証は陛下が代替わりするまで有効ですので、またいつでもいらしてください」
「ほーい」
「なんじゃ、許可証まで貰ったのか?」
「うん、聖域回復させたご褒美らしいよ」
「褒美のう……。こんな異常気象まで引き起こしておいて、優雅に王宮滞在しておったおぬしがのう……」
「さあ帰ろう、今すぐ転移しよう!」
さあ、悪事がバレる前にサッサと帰るぞ!
婆ちゃんの転移魔法が発動し始めても、王宮の人達が見えなくなるまで私は手を振り続けた。
あんなに明るく穏やかな人達なら、きっとあっという間に国を立て直すだろう。




