9 類は友を呼ぶ
それからしなびたタオルで体を拭いた椰子は、似たような和服を箪笥の中から引っ張り出して身に着けていた。着ていた服はどうするのかというと、案外こういうところは几帳面なもので、盥に水を張り丁寧に手洗いするのである。ただしそれも、週に一度だけ。しかし不思議なことに、盥に収まった服は二、三着。
冬ならまだしもこの真夏の最中、お察しの通り、多少匂う。
さすがにそれにも気が付いていた椰子は、週の半分は銭湯へ通うことに決めている。本来ならば毎日通うべきなのだろうが、彼の計算上週の半分がちょうどいい塩梅なんだとか。この男の考えることは分からない。
本日は水浴びで済ませた男。ああ、なるほど。今日は人様に会うことなく家での執筆活動に明け暮れるのか。そう思った矢先のこと、乱れた黒髪を帽子で抑え込んだ無精ひげ面は、今日も今日とて尾道散歩を楽しむのであった。
男が山を下ると、いつもの商店街へと続く路地を抜ける。カラカラと下駄の音が響き渡り、聞きなれぬ音に思わず振り返る少年少女たち。彼らは商店街の路地という路地に現れては、タイル張りの地面にこじゃれた椅子を置き、大きなキャンバスに何やら描き連ねている。
この時期になると尾道の高校生が街中へと飛び出し、写生大会を始めるのだ。最近では異常気象のこともあり、秋へと開催時期がずれ動くことが多いのものの、まだまだ炎天下の中で絵と向き合う学生は多くみられる。
椰子はそんな学生が好きである。変態オジサンという意味ではない。青春真っただ中、ただ懸命に自分の絵と向き合う彼らが、かつての自分と重なって感慨深いものがあるのだ。この時期から秋にかけて用もなくこの地を歩くのは、新人賞を目指し脇目もふらずに執筆活動に明け暮れていた若かりし頃の自分の気力を追い求めているからなのかもしれない。
だがあいにくタイムスリップしてきたクサいオジサンに成り下がってしまったので、近くでじろじろ見ていては警察案件だ。通りすがりにちらりと絵と向き合う学生の顔を覗き込んでは、心の中でエールを送っているのである。
今日はいつもの大福屋には出向かず、海沿いにある乾物屋へと足を運んだ。臭いものは引かれ合うというものか。数十分程そこで干からびた魚たちとにらめっこをした後、イカの足を何本か買って外へ出る。
尾道と言えばラーメンが有名だが、この地域のスープは背油たっぷりのものが多く、ここ最近胃が受け付けなくなったという理由であっさりした中華そばを好んで食べる。その足で路地裏にひっそりと佇むラーメン屋へと向かった椰子は、五百円玉を差し出して大盛りラーメンを腹いっぱい嗜んだ。
狭い店内だ。たった十名程度肩を寄せ合い食べる中、何か匂わない? と言われた瞬間席を立ち、勘物の入った袋をこれ見よがしに持ち上げながら店を後にするのである。




