28 要らない子供
椰子は幼少期から変わった人間であった。物心ついたころから大人の様な物言いをし、実に可愛くない子どもだと親からも毛嫌いされていた。出来の良い兄たちがもてはやされる中、椰子は一人本を読むのが好きだった。おかげで言葉の理解は早く、大人のまどろっこしい説明や教え方が馬鹿らしく思えた。小学校の教師の話が最も退屈で、2割程聞いたくらいで席を立って好きなことをした。その度に注意されては、廊下に立たされ続けた。
退屈なのだ。この世界は。
それからというもの、椰子は学校に行くのが嫌になった。学校に行くふりをして、近くの空き地で本を読むのが日課となった。夏場は酷い虫刺されに悩まされ、家に帰る頃には顔が真っ赤に晴れ上がるほどであった。あまりにも不自然すぎるその姿に、親は彼が学校に行っていないことを知った。
それはそれは、とてつもなく怒られた。親から怒鳴られるのには慣れっこだった椰子でも、その日ばかりは肝が冷えた。だが親の方からもう学校には行かなくていいと言われたので、少しだけ気が楽になった。
椰子は家でひたすら本を読み漁っていた。大人でも嫌煙する広辞苑の様な分厚い本を図書館で借りてきては、一晩費やし読み老けていたりした。好きなジャンルというくくりにハマることもなく、本のタイトルを五十音順に借りて来たりもした。あまりにも不気味なその姿を見て、親でさえ異常だと距離をおくようになっていく。
その頃からである。小説家を目指すようになったのは。
椰子は文章を読むことも達者であったが、書くのはもっと上手かった。感想文なんてチンケなものは、10分あれば原稿用紙3枚を優に超えた。だが気味悪がる大人達からして、彼の文章がもてはやされることなど一度たりともなかった。
ある日、母親は彼にこんな言葉を放った。
「お前には才能がない。この世界で売れている人間というのは、選ばれし一握りの人間だ。お前はそうじゃない。変なことばかり考えていないで、普通の人間になりなさい」
椰子はそれを聞いて、それはもう悔し涙を飲んだ。親が子供を信じてやれなくて、一体誰が信じてくれるのだろうか。彼を応援してくれる人間は、周りに一人もいなかった。しばらくは反発したように文字を書く殴っては、ゴミ箱を埋める日々が始まった。
椰子は身の回りの人間たちよりも、はるかに深い知識と経験を得ていた。本を読むことで、作者の体験した人生観を垣間見ることが出来る。つまり読書は、己の世界を広げる第一選択であったのだ。
椰子は気が付いていた。自分の生きている世界が、あまりにも狭く、ちっぽけだったということに。
幼いころから、自分は誰にも求められては来なかった。だが、それは住む世界が小さすぎた故の弊害だ。椰子はここから逃げ出すために、自分が出来ることをひたすらに考えた。本を読むばかりで、大した経験もしていない。学校にも行っていなければ、他人と関わることも限られていた。
そんな自分でも、文字なら書けた。




