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祭囃子椰子 ~まつりばやしやし~  作者: 高冨さご


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29/29

29 勘違い

 彼は雑誌に掲載されている新人賞へと、手当たり次第に応募しまくった。この頃から電子機器を苦手としていた椰子が書いた文字を解読出来た編集がいたのかは不明だが、ことごとく落ちまくった。その度に、母親の言葉が脳裏をかすめる。椰子の怒りは募るばかりである。書いては応募し、落ちては捨てた。


 そうこうしている間に、成人を迎える歳となった。まともな職にも就かずに昼間小遣い程度のアルバイトで食いつないでいた椰子は、これを機にと親から破門をくらった。華々しい大人への第一歩で住む場所を失い、彼は大量の原稿用紙とちびた鉛筆片手に街中を放浪した。怠惰な生活が明るみに出て、唯一の収入であったアルバイトでさえクビになった。椰子はその日、初めて文字を書くのが馬鹿らしくなり、書き溜めた原稿用紙を海へと流した。


 わずかな貯金を手に、一日ひとつのパンで食いつなぐ生活が続いた。血が滲んだ鉛筆を持つ力さえなくなっていく己のやせ細った腕を見るたびに、生きる意味を探し続けた。


 彼は、わらをもすがる思いで本屋へと向かった。理由はない。ただ、その場所だけが彼の慰めだった。憧れを抱く文豪たちの名を眺めながら、椰子の瞳からは涙があふれていた。ここに自分の名が刻まれる、そう信じ続けていたが、どうやらもう出来ないらしい。


 何が小説家だ。何が編集者だ。俺の書いた文章を理解できない、凡人どもめ! 椰子の怒りは、彼の文章を評価してくれない編集者へと向かっていた。なぜ名も知れぬ人間がこんなにも多くの本を出版しているというのに、自分は選ばれもしないのだろうか。真面目に本を読んでこなかった人間が本を出して、なぜ夢を掲げる自分ではダメなのだ。


 その時である。椰子の中で、あふれ出す涙がぴたりとやんだ。そう、自分の住んでいるこの国では、当たり前に文字が読めて、当たり前に文字が書ける。そういう教育だ。自分が特別なんかじゃない。文字を書くのは、必然のことであった。


 そして、本も身近なものだった。名も知らぬ主婦でさえも本を出版することのできる国なのだ。ここに溢れかえる本全ての作者が、指が曲がるほどに文字を書いた人間たちばかりではない。本を出すこと難しいことではないのなら、なぜ自分はそこにも立てないのだろう。


 この世界のすべての人間が、自分の本を読む時代が訪れると信じていた。だが、まずそれが間違っていたのだと気が付く。作品を選出する編集者一人さえ喜ばせられなくて、なぜ万人に喜んでもらえると言うのだろうか。


 その日から椰子は、たった一人の編集者のためだけに文字を書いた。その一人が好きだと言ってくれたのなら、それでいいのだ。多くの人間たちから求められる必要はない。たった一人で良かった。それがのちの担当者、トキの目に留まるのである。

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