16『ブレイク・スナイダー・ビート・シート』(お楽しみ)
「刮目せよ。ずばり、これが『SAVE THE CAT』だ!」
いつも持ち歩いているのか、あるいは今日のために印刷してきてくれたのか、ブンが一枚の紙を掲げた。
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第一幕
オープニング(1)
テーマ(5)
セットアップ(1~10)
きっかけ(12)
悩みのとき(12~25)
★ターニングポイント・ワン(25)
第二幕前半
Bストーリー(30)
お楽しみ(30~55)
★ミッドポイント(55)
第二幕後半
迫りくる敵(55~75)
すべてを失って(75)
心の闇と夜明け(75~85)
★ターニングポイント・ツー(85)
第三幕(85~110)
チームを作る
城を強襲
高くそびえる塔
万策尽きて
土壇場のプランB
ファイナルイメージ
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「まずは、これを丸暗記してほしい」
突然の情報量に、キトンは慌てる。
「安心したまえ。キミと僕の物語が一冊のラノベだとすれば、ここはちょうど第二幕前半冒頭。いわゆる『第二章』冒頭で、章扉ないし章柱をめくってすぐのページに当たる。章の始まりは目次にページ数が記されているし、デザインやイラストが付いていて本を閉じたときに黒い線になって目立つだろう? めくりやすいページだから、暗記するまで何度でも読み返すといい。面倒でなければ、付箋を貼ってくれると嬉しいかな。付箋をお持ちでないのなら、多少本を痛める手段にはなるが、ページの右上を一センチほど三角に折り返してくれてもいい。傷んだ本は古本屋に出せないから、きっと著者は喜んでくれるはずさ」
ブンの物言いは、まるでこの世界が一冊のライトノベルで、キトンとブンがその登場人物であるかのようだ。
(先輩、『僕』って言ってる。ラノベや漫画の主人公みたいだ。気づいてないのかな?)
「上から順に説明していこう。
『オープニング』は言葉のまんまだね。オープニングシーンだ。けれど、やることは多い。まず、その作品のジャンルを読者に理解させる必要がある。つまりラブコメ、ファンタジー、スポーツ、グルメ、ミステリ、ホラー、日常モノといったジャンルのいずれに該当するのかを示すんだ。男性向けなのか女性向けなのかも。
そして、より詳細なジャンルもここで明示しておく。例えばラブコメだったら、ボーイミーツガールなのかBLなのかGLなのかTSなのか。さらに、『◯◯男子×◯◯女子』、『JK百合×バンド』、『歴史偉人転生TS×部活』など、作品コンセプトに近いところまで提示すべきだね。ファンタジーだったら、『追放・ざまぁモノ』、『悪役令嬢モノ』、『おっさんモノ』、『内政系』、『バトル系』、『クラフト系』に何かを掛け合わせたりね。
そして、そのジャンル・コンセプトにおいて、どんな主人公が、どんな物語を紡ぎ出すのか、を読者に予感させるシーンを描くんだ。つまるところ、『オープニング』は『ログライン』なのさ。『ゴム人間の少年が海賊王を目指す話』とか、『小学生になってしまった名探偵が難事件を解決していく話』とかね。
そして次に、『テーマ』だが――」
「『おーい、待ってくれ!』」
覚えきれないし聞き取れきれない。
たまらずキトンは遮った。
「『ちょっと! おーい! 待ってくれ! ……行ったかと思ったよ』」
「『とんでもねぇ。待ってたんだ』。コマンドー語録だね。って、あ、すまない、『僕』――ごほんっ、『私』としたことが」
ブンも、自分が怒涛の早口で喋りちらかしていたことに気づいたらしい。
一人称のことも。
「……忘れてくれ。油断していたよ。興奮するとつい、出てしまうんだ。自分のことを僕呼びする女なんて、痛々しいだろう?」
――ふるふるふるっ
キトンは昂ぶる思いを抑えきれず、ブンの手を握った。
「『この手に限る』」
「え? 僕呼びに戻せってことかい? 変だろう、やっぱり」
「『クッソカーワイーイ!』」
「アニメ『デビルマン』のキメラ語録。キミ、からかっているんじゃないだろうね?」
「『いいからドーピングだ!』」
「『スラムダンク』の言ってない語録。ふふふっ、ヒミツの共有、か。まったくキミ、実は相当な人たらしだね?」
――ふるふるふるっ
「キミとは長い付き合いになりそうだ。さて、仕切り直しといこうか」
ブンが大きなリュックの中から一冊の本を取り出した。
タイトルは、
「……『SAVE THE CATの法則』?」
「そう。アメリカの脚本家ブレイク・スナイダー氏が著した、映画脚本指南書だよ。同著に含まれている『ブレイク・スナイダー・ビート・シート』という名の脚本構成術――略称BS2があまりにも万能すぎて、今やストーリー創作全般のバイブルみたいになっているんだ。もちろんラノベにも使えるよ」
本を手渡されたキトンは、表紙に描かれた猫――ロープをつかみそこねて落ちそうになっている――を指先で撫でてみた。
「タイトルは、『主人公は視聴者の共感が得られるようなキャラクターにすべきだ。そう、落ちそうになっているネコを思わず助けちゃうような、ね』というスナイダー氏の創作メソッドからきている」
(ブン先輩は、落ちる寸前だった私を救ってくれた)
ブンは胸がぎゅっとなる。
(そして今も、『SAVE THE CAT』を使って私を救おうとしてくれている。だとすれば、この物語の主人公は私ではなく――)
「正確に言うと、僕が先ほど掲げてみせた紙――変則型三幕構成は、『SAVE THE CATの法則』という本の中に描かれたBS2のことなんだ。けれどBS2があまりに有名になってしまって、こんにちでは『SAVE THE CAT』イコールBS2みたいになっている。
あと、さりげなく『三幕構成』という言葉を使っているけれど、これは二〇〇五年発刊『SAVE THE CATの法則』よりもさらに昔、シド・フィールドという脚本家が一九七九年に著したハリウッド式の脚本メソッドなんだ。BS2は、すごくざっくり言うと、『三幕構成のド真ん中にミッドポイントを置いたもの』ということになる。
さて、スナイダー氏がいかにして、この『ミッドポイント』なる概念に気づいたのか。まずはそこから語らねばなるまい」
ブンが再びギアを上げる。
キトンはなんだか、恥ずかしくなってきた。
語録に逃げるようになる前――つまり小学生時代、キトンはマシンガンヲタトークでクラスメイトたちをドン引きさせてしまうような子供だった。
動画サイトやSNS、掲示板などで『めっちゃ早口で言ってそう』と揶揄される、よくないヲタクの姿そのものだった。
それで同年代に何度も笑われて、キトンは自分の言葉で語るのがすっかり怖くなってしまったのだ。
今、目の前で『SAVE THE CAT』について滔々と朗々と語り続ける美少女――夏目ブンこそは、在りし日の自分の生き写しだった。
キトンの額に、少しばかりの汗が浮いてきた。
が、この場には自分たちのことを笑う人間などいないのだ。
ならば、自由になってもいいのではないだろうか。
差し当たって、キトンはブンの話に耳を傾けることにした。
この美しい先輩の、可愛らしい声が紡ぐ、心地よいヲタトークに。
「氏は研究のために、何本ものハリウッド映画をカセットテープに録音したんだ。で、自宅と職場を往復する間、それを毎日聞いていた。通勤時間は、ざっと一一〇分。BS2の110ビーツと同じ数だね。氏の自宅と職場の間には山があって、氏は毎日、峠でテープが終わり、車を停めてB面に入れ替えている自分に気づいた。A面B面って今の若い子には分からないかな?」
(若い子って)
キトンは笑ってしまいそうになる。
だって、先輩と自分は二歳しか違わない。
けれど確かに、ブン先輩の喋り方や立ち居振る舞いには『老練さ』のようなものが感じられる。
もしかすると、先輩はかの脚本家ブレイク・スナイダー氏になりきっているのかもしれない。
(だとしたら、めちゃくちゃ可愛いな、なんて)
親がラジカセやカセットテープを持っているので、キトンはA面B面のなんたるかは知っていた。
――ふるふるふるっ
『分からないかな?』に対して否定してみせると、ブンが安心した様子で話を再開しはじめた。
「峠は自宅と職場のちょうど中間地点にあった。だから、彼が峠でカセットテープを裏返すのは当然のことだ。だが彼の脳裏には、別のことが浮かんでいたんだ。つまり、『峠を境に、物語が反転している』というひらめきがね」
キトンは、ブンが持っている紙――BS2を見直してみる。
110あるビートのど真ん中に位置するのは、
「……ミッドポイント?」
「そのとおり!」
ブンが花咲くように微笑んだ。
「A面後半は、物語がどんどん加速し、かつ上向いていって、主人公にとって楽しくて好都合な展開が続いていくんだ。起承転結で言うところの『承』に当たる。
だが、カセットテープを裏返した直後、主人公は一転して大ピンチに陥るんだ。氏は何十本も何百本もの映画を聴きあさった。が、名作と評される作品はどれも、峠でB面に変えたとたん、主人公が大ピンチに見舞われるんだ。それが物語の黄金比率だと、ハリウッド界の巨匠たちは知っていたんだね。そう、スナイダー氏は『ミッドポイント』の存在に気づいた。
彼は『三幕構成』の第二幕をミッドポイントでもって二分割し、事実上の四幕構成にした。これこそがBS2の骨子だ。キトン、いくつかハリウッド映画を思い浮かべてみたまえ」
キトンの両親は活字嫌いだが映画は好きで、居間のテレビでよくアマプラを観ている。
両親はキトンとは違って陽気な性格――いわゆる陽キャで、マイナスな展開、鬱展開を好まない。
特に母はその特徴が顕著で、マイナス展開になると決まって映画を一時停止し、バラエティなどで気分転換をする癖があるのだ。
そして――、
(ミッドポイントだ!)
その時のシークバーが、ちょうどド真ん中を指していたことが多かったことに、キトンは今、気づいた。
「思い当たる節があるようだね?」
ブンがニヤリと笑った。
「かくして物語は四等分される。奇しくも日本の――いや、中国に由来する『起承転結』と、ハリウッドの脚本メソッドが合致したわけだ。氏が見つけた『ミッドポイント』は、そのものズバリ、『転』なわけだからね。
第一幕終わりのターニングポイント・ワンと第二幕終わりのターニングポイント・ツーはシド・フィールド氏の三幕構成から継承されている。物語には楽しい・嬉しいプラス展開と苦しい・悲しい・腹立たしいマイナス展開が入り混じっているものだが、三幕構成やBS2において、その上げ下げのタイミングはだいたい決まっている。ゼロパーセントを無感動な状態と定義して――」
ブンがノートパソコン取り出し、表計算ソフトを起動させた。
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第一幕 ① 0%
② 10%
③ 30%
TP1 70%
第二幕・前 ① 80&
② 90%
③ 100%
MP -20%
第二幕・後 ① -40%
② -60&
③-100%
TP2 20%
第三幕 ① 50%
② 80%
③ 120%
FE 100%
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ワンクリックで折れ線グラフが現れた。
それはまるで、
「……ジェットコースター」
「そう。物語とは、まさにジェットコースターなんだ。さて、普通の物書きならば、こんなグラフを見せられても呆然となるだけだろう。けれどキトン、キミは違う。キミにはすでに、本編百五万文字もの膨大な資産がある。BS2に当てはめるべきピースは、すでに出揃っているというわけさ。あとは、その珠玉のピースたちをはめ込んでいくだけ。ではまず、第一幕から始めよう。第一幕で行うべきことというのは、実は少ない。第一幕とは、『アニメまたは漫画の第一話』なんだ」
キトンの脳内に、今まで観たり読んだりしてきた多数の作品がザザザッと飛び交った。
「主人公が失意のどん底に陥る。または、何らかの問題を抱えている。
そんな主人公の前に、新世界への扉が現れる。
主人公は、その扉を開くかどうか迷う。
主人公は意を決して扉を開き、新世界へ踏み出す――やるべきことは、たったそれだけだ。
バトルモノなら、ここにチュートリアルボスが現れるね。生身のままではボスに勝てない。ボスに殺されそうになっている主人公の前に、新世界の象徴たる『力』が現れる。それはロボットかもしれないし、伝説の武器かもしれないし、死神の少女かもしれないし、魔法少女になるよう勧めてくるマスコットキャラかもしれない。主人公は迷った末に『力』を受け入れ、ボスを打ち倒す。
一クール十二話のアニメなら、ここまでを第一でやりきる」
「『やることが……やることが多い!』」
「『金田一少年の事件簿』外伝の、犯人視点のヤツだね。
考えてもみなよ。例えばキミがガンダムのアニメを観ていたとして、二話になっても三話になっても主人公がガンダムに乗らなかったら、『いや、早く乗れよ』って思うだろう? まぁ、アニメ『魔法少女まどか☆マギカ』はそれを逆手に取った良作なんだけど……話が逸れたね。
ラノベにおいて、第一幕はアニメにおける第一話だ。だからこそ、第一幕はぎゅっと圧縮させる必要がある。具体的には、一万五千文字だ」
「『十四万』⁉」
キトンは驚愕する。
「『もう駄目だぁ……おしまいだぁ……勝てるわけがないよっ』」
「映画『ドラゴンボール』、ブロリーが出てくるヤツのベジータのセリフだね。
たったの一万五千文字で書ききれるわけがないって? 甘っちょろいことを言っていてはいけない。『ラノベ一冊十万文字』と言われている。この十万文字をラノベらしくやや改行多めにしたら、大抵、三百ページ前後になる。まぁ、二百八十八ページか三百二十ページが鉄板かな。ということは、一万五千文字地点は四十五ページ目だ。四十五ページも読者を拘束しておいて話のオチもつけられずにいるってのは、キミ、さすがに職務怠慢というものだよ」
「…………」
ぐうの音も出ない、とはまさにこのことだった。
「くくくっ。普通は、一万五千文字と聞いたら『そんなにたくさん書けない』と返すものなのだけれど。文字数制限のないWeb小説作家ならではの、それも一日で五万文字も書いてしまうような化け物じみた筆力を持つキトンならではの感想だね。頼もしい限り。
心配しなくていい。第一幕でやりきれなかったことは、第二幕前半に繰り越してやればいいんだ。世界観や用語の説明などは、特にね。キミの『デビダン』で言うなら――」
(略された⁉ 名作になれたみたいでうれしい!)
「例えば『ソロモン七十二柱の大悪魔』や『七大魔王』などはワードだけ出しておいて、読者に『なんかつえー敵がいるんだな』とだけ理解させておけば十分だ。『グランドシジル』も『あぁ、必殺技ね』とだけ分かってもらえれば、第一幕としては十分。キミはそれを、ワード初出時にいきなり『この世界における魔術体系とは~』と講釈をぶちはじめるからよろしくない」
「『ん。おかのした』」
「淫夢語録は『やめようね』」
「!」
キトンは、最高に楽しい。
「さて、第一幕冒頭の『失意のどん底』だが、ラブコメなら『モテない』とか『好きな人がいるけど、声をかける勇気がない』とかかな。アオハルモノなら『つまらない毎日。何にも興味を持てないまま、僕は歳を取っていくのだろうか……』みたいなやれやれ系のモノローグとか。バトルファンタジーなら、満身創痍の主人公がダンジョンの奥底で見捨てられたところ、とか。
絶望は深ければ深いほどいい。そのほうが、のちに来るカタルシス――願いの成就とか成り上がりとかざまぁ展開で読者がより気持ちよくなれるからね」
今の自分がまさにそうだ、とキトンは感じる。
自分は二年以上をかけてじっくりたっぷり絶望し、死を選ぼうとした。
そこに、こんな自分のことを理解してくれるブン先輩が現れた。
失意のどん底からのカタルシス、だ。
「どん底などと言ったけど、何も主人公のつらく苦しい日常を延々と垂れ流す必要はない。近年の異世界ファンタジーなら、一行目を『◯◯よ、お前をパーティーから追放する!』とか『◯◯よ、お前との婚約を破棄する!』とするだけで事足りる。逆に、古式ゆかしきハリウッド映画なんかは、第一幕が長いよ。ボクシング映画『ロッキー』は、借金取り立てというヤクザまがいの仕事に手を染めている主人公ロッキーの、真綿で首を絞められるような苦しい日常のシーンが延々と続く。だからこそ、物語終盤のカタルシスが大きくもなるのだけれど……残念ながらインスタント嗜好な現代の少年少女たちにはそぐわないよね。だから、冒頭の苦悩は短くていい。
キミと僕の出会いを物語とするならば、キミが首を吊ろうとしていたシーンが物語の一行目。そこからの会話シーンで、ざっと千文字強といったところか」
「『これはひどい』」
自分の二年以上の苦悩をインスタントに消化・昇華されてしまい、キトンは白目を剥きたくなった。
「キミと僕の物語に置き換えるなら、この僕こそが新世界への扉であり鍵だ」
「『ブン先生にも穴はあるんだよな』」
「VIP? それか漫画『生穴る』かな? ……って、僕を変な目で見ないでよ⁉ 性的なのはナシだからね⁉」
「『この手に限る』」
「限るな、馬鹿! まったく。バトルファンタジーで最も代表的な始まり方と言えば、『落ちもの』系というヤツだね」
「……落ちもの系?」
「落ちてくるのは刀を持った灼眼の少女でもいいし、禁書目録でもいいし、尸魂界から来た十三番隊の死神でもいいし、ジオン公国のお姫様でもいい。美少女が多いのは、元祖落ちもの作品――『親方、空から女の子が』で有名な『天空の城ラピュタ』で落ちてきたのが美少女シータだったからかな。
キミの『デビダン』も落ちものだよね。まぁ、この場合は落ちるのはヒロインではなく主人公だが」
そう言えば、とキトンは思う。
敬愛する猫又ブン先生の『悪魔祓師物語』も、物語冒頭で大悪魔に襲われて絶体絶命のピンチに陥った主人公のもとに美少女悪魔が現れ、契約を交わして主人公に力を授けるという筋書きだった。
まさしく『どん底』からの『扉』だ。
「BS2に当てはめると、『どん底』が『セットアップ』で、『扉』が『きっかけ』だね。その後の『悩みのとき』は、主人公が『扉』を開くべきか悩むシーン。目の前に現れた謎のロボットに乗り込むべきかどうか。怪しいヒロインの言葉を信じるべきかどうか。迷っているうちに、主人公はチュートリアルボスに追い詰められる。そうして意を決して扉を開き、その中に飛び込む。これが『ターニングポイント・ワン』だ。
そう言えば、キミはほとんど悩まなかったね」
――ふるふるふるっ
「っ、ごめん、そうだったね」
ブン先輩が頭を抱きしめてくれた。
「キミは悩んだんだ。二年以上に渡って、たっぷり悩んだ。だからこそキミは、僕の手を取ってくれたんだね」
キトンは泣きそうになりながらも、強い瞳でブンを見つめ返した。
「うん、続けよう。第一幕を彩るビーツたちのうち、『テーマ』についてまだ話していなかったね。テーマは主人公や重要人物による端的なセリフで表されることが多い。『オープニング』や第一幕の内容を短く強烈に示すフレーズ。小説や漫画の帯、映画のポスターなんかに書き込まれる象徴的な一言。
『海賊王におれはなる!』とか『真実はいつも一つ!』とかね。漫画だったら『ドンッ』ってオノマトペが入るところだ。
ちなみにこの『テーマ(5)』だが、便宜上(5)とあるが、第一幕のどこに配置しても構わない。漫画『ONE PIECE』なら第一話最終コマ――つまり第一幕ラストがそれに当たるね。
キミと僕の物語においても、第一幕ラストにテーマを持ってきているよ。一分でも余裕があるなら、どうぞ十八ページほど戻ってみてもらえるかな。第一幕最終ページ、ビート15に至った瞬間に、テーマを宣言しているから」
さぁ、とブンが言った。
「これで、BS2の第一幕に関する講義は終わりだ。以上を踏まえて、今から『デビダン』の第一幕を再構築してみよう。実践の時間だ」
突如として、キトンは猛烈な不安に襲われた。
「あ、あのっ」
「ん、なんだい?」
「あ、あぅ……げほげほっ」
「焦らなくていい。ゆっくりと話してごらん」
「『【緊急】すみません! 進級してからのぼっちちゃんのクラスって何組ですか?』」
「ぶぷっ。漫画『ぼっち・ざ・ろっく!』の作者・はまじあき先生の迷言もとい名言だね。僕が何組か気になるのかい?」
(学校で話しかけても迷惑がられないかな……も、も、もし目を逸らされたりしたら、私っ)
「三年A組だよ。安心おし。学校が始まっても、この師弟関係がなくなったりはしない。学校で無視したりなんてしないから」
ぶわわっと涙があふれてしまうキトンだった。
「あぁもう、相変わらず自己肯定感の低い子だなぁキミは。キミは素敵な人だよ。たったの三年で五百五万文字を書き上げた。間違いなく才能のある人だ。この僕が保証する。『俺が信じるお前を信じろ』ってヤツさ」
「……アニメ『天元突破グレンラガン』」




